第9話 もしかして、エッチな想像をしてるでしょ?

 放課後。この学園の長である生徒会長からの攻撃に耐えきれてはいた。


 一難去ったが、その後で散らばった本の整理をしたりして、鈴木翔すずき/しょうと詩乃は図書部としての今日の活動を終えた。


 長テーブルのところに戻ると、一通り書き終えていた二人の姿があった。


 彼女らは席に座って、テーブルに置かれたノートパソコンの画面を見ながら会話していた。


「紫先輩、書き終わりましたので、確認お願いします!」


 湯浅充希ゆあさ/みつきは席から立ち上がり、ノートパソコンのデータを印刷した、その原稿用紙を先輩に見せる。


「どうですかね?」

「ちょっと待って。今から確認するから」


 先輩は原稿用紙を見ながら、少々悩んだ顔を見せている。

 ちなみに、原稿用紙の枚数は二〇枚ほどで、おおよそ七〇〇〇字で構成されてあった。


 今回、応募するところは短編形式で、一万字以内に抑えることが条件。最低でも、三〇〇〇字以上が求められる。


 見たところによると、それらの条件は一応、満たしていた。


「大体、この流れで問題ないと思うわ」

「では、終わりですか?」


 充希はやっとの思いで書き出した作品を評価され、一瞬で疲れが吹き飛んだらしい。

 彼女の表情からは達成感を感じられた。


「でも、ちょっと待って。もう少し確認してもいい」


 先輩は手にしている原稿用紙を、充希に返すことはしなかった。


 短編系のシナリオだったとしても、先輩は真剣だ。


 締め切りは来週末。

 まだ、一週間ほど時間はあるものの、気は抜けないのだろう。


 この作品で賞を取れるかで、今後の図書部としての活動が続くかかが決まってしまうからだ。


「気になったところがあるから、一〇分ほど待って。それと、今日は金曜日だから図書館内の清掃をお願いね」


 そういうと、先輩は椅子に座り、テーブルに置かれていた赤ペンを持ち、原稿用紙と睨み合いをしていた。


 三人は図書館の外の廊下にあるロッカーから道具を取り出し、ブラシ箒やモップ、小型のはたきを使い、室内の掃除を始めるのだった。






「それで、どうだったの? 充希的には、上手くかけた感じ?」

「まあね、それなりによくかけたと思うわ」


 本棚近くに佇む充希は誇らしげに言っていた。


「私も近くで見ていましたけど、充希先輩はちゃんと書けていたと思います。そこまで小説に詳しいわけじゃないですけど」

「香奈が言うなら、問題なさそうだな」


 だがしかし、紫先輩はその原稿用紙を見て険しい顔を見せていた。


 そこまで気にかかる内容だったのだろうか。


 書き直さなければいけない情報があったと推測する方が正しいかもしれない。


「念のために聞いておくけど、充希は、あのシナリオに問題はなかったんだろ」


 翔は本棚周辺の埃を、ブラシ箒で掃きながら問いかける。


「そうだよ。でも、少しエロ要素があったかも」


 突然の問題発言。


「それか? それかもしれないな」

「え? ダメだった?」


 充希は、どうしたのといった感じに目を点にしていた。


「ダメじゃないんだけど」

「エロ要素って言っても、少しだけだからね。そんなに問題にならないと思うんだけど。そもそも、どんな作品にもエロ要素は必要だと思うの!」

「そんな自信ありげに言わなくても」

「翔は、エロ要素のあるものとないものだったら、どっちがいい? 例えば、少年誌とエロ雑誌だったら」

「それ、ここで言わないといけないのか? でも、それ、読者層が違うし、比較にはならない気が」


 充希はモップを手にしながら、翔の様子を伺っている。

 まじまじと見つめてきていた。


 香奈もいる前で、そういった発言はしたくなかった。


 充希がいう普通というのがどれくらいかはわからないが、先輩が訂正したいと悩むということは、もしかしたら、その部分かもしれなかった。


「それより、早く掃除しないとな」

「えー、返答なし?」

「そうだよ」

「そういって、普段からエッチなことばかり考えてるくせに。こういう時に限って無反応?」

「違うって」


 翔は否定するように反応を返す。


 小型のはたきを持っている矢代香奈やしろ/かなは、二人のやり取りを遠目で見ながら、本棚の埃を払っていた。






「これで終わり。あとは、私が赤ペンで書いているところを修正してくれればいいわ」

「ありがとうございます」


 掃除を終えた直後、紫詩乃むらさき/しの先輩から原稿用紙を返されていた。


「大きな問題はなかったですよね?」

「ええ、まあ、な。問題はなかったと思う。でも、少し、性的な表現の仕方じゃなくて。一般的な書き方にした方がいいと思うから。でも、話の流れ自体は問題なかったから。もしかして、普段から小説とか書いてる?」

「そうですね。この頃は毎日書いてますね。その甲斐あって、上達したのかもですね」


 充希は褒められて、嬉しそうに左手で自身の頬を触っていた。


「あとは、その修正と、あらすじを考えておいてくれない? 月曜日まで二日間あるから、箇条書きでもいいし。その作品の重要なところを書いてきてくれればいいから。私も一応、さっきの作品を見たから考えてくるけど。お願いね」

「はい、分かりました。大体、二〇〇字程度ですよね?」

「そうね」


 一応、シナリオ自体に大きな問題はなかったらしいが、想定していた通り、多少のエロ要素があったことが一番の原因だったようだ。


 充希はこの頃、エロい系の小説を書いているらしく、その癖が抜けなかったかもしれない。




「では、解散ね。お疲れってことで、あとは帰ってもいいよ」


 先輩から今週最後の説明があり。それが終わると、充希や香奈も通学用のバッグを持ち、図書館の外へと向かって行く。


「では、俺も帰りますね」


 そう言って、廊下に向かおうとした時だった。


 先輩から腕を掴まれたのだ。


「ど、どうしたんですか、紫先輩」

「ちょっと、二人っきりで話したいことがあるから。一緒に帰らない? 時間は大丈夫?」

「それは問題ないですけど」


 先輩と一緒に帰宅できる?


 しかも、今日は金曜日。

 何もないということはないだろう。


 翔は迷うことなく、先輩の誘いを受け入れた。


「私、寄っていきたいところもあって。ちょっと付き合ってほしいの」

「は、はい。わかりました」


 翔は、今後の事を想像しながら、期待を膨らませていたのだった。

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