第3話 先輩が好きな事

 鈴木翔すずき/しょうは数分前に、紫詩乃むらさき/しの先輩と共に学校を後にしていた。


 夕暮れ時を過ぎ、夜の七時になる頃合い、電灯で照らされた通学路を歩いていた。


 これから大事な話をする。


 翔は緊張していた。


 図書部の部活中に先輩の豊満なそれを、不可抗力だったとしても揉んでしまったからだ。


 先輩には申し訳ないと心の中では思っているが、柔らかかったという感想が第一に頭に浮かんでくる。


 そんな自分を殴りたくなった。


「ここまで来たら問題なさそうね。わかっていると思うけど、あなたは私と付き合ってもらうから」


 紫先輩は単刀直入に、ズバッと言った。


「付き合うのは、いいんですけど。紫先輩は他の人からも告白されたことあるって。俺と付き合っていたら問題がありそうな気が」

「そうね。それは問題あるかもね。でも、今回はわけが違うから。あとね、私、誰とも付き合ったことないから。あなた、私が他の人から告白されたって話、誰から聞いたの?」


 先輩はその場に立ち止まり、左隣にいる翔を見つめてきたのだ。


「それは、たまたま、学校の廊下で話している人らの噂を耳にしただけで」


 以前から、先輩は人気があると小耳にしていたのだ。

 すでに、そういう人らから告白されているのだと思っていた。


「それ、嘘情報よ」


 先輩はため息をはいて、違うと否定していた。


「嘘なんですか」

「ええ。私、実際に告白された事はないから」

「じゃあ、俺が紫先輩の最初ってことですか?」

「そ、そうなるわね」


 先輩は口ごもり、活舌が悪くなっていた。


「じゃあ」

「なに?」

「いいえ、なんでもないです」

「まあ、私もそんなにデート経験がないから。デートのプランはあなたが決めて」

「俺が決めるんですか?」

「そうよ。私の触ったのに、何か問題でも?」


 先輩からジト目で見られる。

 やはり、触られた事を気にしているのだろう。


「わかりました。一応、決めておきますけど。それと、紫先輩って、行きたいところってあるんですか? デートプランを決める時に活用したいので」


 相手を深く知らないとプランを組み立てるのは難しいのだ。


「別に、私はどこでもいいわ。あなたが行きたいところなら、どこでもね」

「どこでも、ですか??」

「あなた、今、変な事を考えたでしょ?」


 先輩は少しだけ、頬を紅潮させていた。


「い、いいえ。か、考えては」

「……まあ、変なところじゃなければ、いいわ。変なところじゃなければね!」


 先輩から二回ほど忠告された。


 先輩とは学校でしか関わったことがなく、普段プライベートでどんな事をしているのかわからなかった。


 趣味は、本を読む事だろうか。


 いつも首にヘッドホンを身につけていることもあり、音楽が好きなのかもしれない。


 一旦、話が終わると先輩は無言になっていた。


 通学路の途中で立ち止まっていた二人は再び歩き出したのだった。




 よくよく考えてみれば、入部した時から気になっていた先輩と二人っきりで帰宅できるのは、幸せなひと時なのかもしれない。


 先輩が歩くたびに、おっぱいが揺れている。


 学校帰りの薄暗い時間帯ではあるが、先輩の爆乳に意識がいってしまう。


 気になってしょうがないのだ。


 エロい感情に支配されそうになっていた。


「なに? さっきから視線を感じるのだけど。あなたの方から話したいことがあるなら、何か話してもいいけど」

「えっと、紫先輩って、今まで彼氏ができたことがないって言ってましたけど、なんで付き合わなかったんですかね?」


 素朴な疑問をぶつけた。

 爆乳という最大限のメリットを持ち合わせているのに、それを有効活用しないというのおかしい。


「それは、一人でいる事の方が好きだったからよ。それに、ヘッドホンで音楽を聴いて、一人で読書する事が好きだから。なんていうか、自分の世界観に閉じこもるのが好きだったからよ。ただ、それだけ」

「そうなんですね」


 先輩はあまり感情を表に出すようなタイプではない。

 比較的、落ち着いている人であり、学校内で誰かと会話しているところを見たこともなかった。


 例外として、翔がおっぱいを誤って触った時だけだろう。

 それ以外で感情的になる事はなかった。


「一人が好きだから、私が図書部に所属してる理由なんだけどね。他の部活をしても、長続きしなかったし、大勢の人と関わるのが得意じゃないのかもね」

「俺は少し経緯が違いますけど、やっぱり、一人で自分の世界観に浸っているのは楽しいですからね」

「そうよね。あなたって、その感覚、分かってくれる感じ?」

「まあ、俺も、分かります」

「そう。ならよかったわ」


 先輩は胸を撫で下ろしていた。


「あなたなら大丈夫そうね」

「どういう事でしょうか」

「いいえ、私の独り言。まあ、デートに関しては、一応期待はしておくから」


 先輩の表情が柔らくなった気がした。


「それと、シナリオのアイデアも考えてきなさいよ。明日も図書部として皆で話し合うから」

「覚えてますから。日常系ですよね」

「ええ。私も考えてくるから。なんとしてでも図書部の存続にかかっているから」


 紫先輩が困っているなら助けてあげたい。


 そんな思いがあり、明日までに良いアイデアを見つけてこようと心の中で誓った。




「私はここで。あっちの方が家だから」

「そうなんですか? 送っていきますけど」

「いいよ。これ以上は」

「大丈夫ならいいんですけど。一応、付き合っているなら、途中まで送ろうかと思いまして」

「それはありがたいけど。いいよ。また、明日」


 先輩はそれ以上、余計な事を話す事もなく、駆け足で立ち去って行ったのだ。




 紫先輩とは住宅街の十字路のところで別れ、翔は自宅へと向かっていた。


 自宅の扉を開け、玄関に入る。


 翔は階段を駆け上がり、すぐに自室に向かい、通学用のリュックを床に置いて、ベッドにダイブした。


「はああ、今日も疲れたぁ」


 翔はベッド上で仰向けになる。


 元々、翔が図書部に所属したのは、紫先輩の事が気になっていたからだ。


 小説が好きだったというのもあるが、同じ部活に所属できれば、ワンチャンスがあると思って入学当初から学校生活を送って来た。


 不可抗力ではあったが、結果として、先輩と付き合うことになったのだ。


 このチャンスを利用して、先輩との思い出を作って行こうと思った。

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