第5話 私と二人っきりで協力してくれない?

 昨日。あの先輩とコンビニで出会い。それから一時間ほど先輩は翔の家で食をしていた。


 五月雨鮎奈さみだれ/あゆな先輩はバイト疲れも相まって、翔と会話した後、リビングで寝てしまっていたのだが、朝になった頃にはいなくなっていた。


 鈴木翔すずき/しょうは朝、自宅リビングのソファで目を覚ます。


「五月雨先輩、あのまま学校に行ったのかな」


 あの先輩ならあり得そうな気がする。

 でも、流石に、ジヤージ姿のままで学校に登校するのもどうかと思った。


 夜遅くまで一緒に会話してくれていたが、翔も先輩と会話してようやく心がすっきりとしてきた。


 やはり、誰かと会話するのは精神的にいいと思った。


 一人でいる方がどちらかと言えば好きだけど、ずっと一人でいるのには限界がいると思う。


「あ、そう言えば、昨日おにぎりを食べたから、もう朝食分がないのか」


 やっぱり、先輩から弁当の一つくらい貰っておけばよかったと、その時、後悔した。


 一先ず、キッチンへ行こうと、その場に立ち上がり、歩いていると。

 リビングの長テーブルに、弁当とジュースが置かれてあった事に気づいた。


「これ、五月雨先輩が廃棄処分用に貰っていた弁当? 俺のために置いて行ったのか?」


 翔は辺りを見渡す。


 他の食べ物が入っている袋さえもなかった事で、多分、これは自分の分なのだと勝手に解釈した。


「……でも、これ、賞味期限が朝の四時なんだよな」


 すでに三時間ほど過ぎているが、消費期限とは表記されていないので、お腹を壊す事はないと思う。


 何も食べずに学校に行くくらいなら、弁当を食べてからの方がいいと感じ、長テーブル前の席に座り、弁当近くに置かれていた飲み物と共に朝食を手短に済ませた。


 その後、翔は制服に着替えた。普段通りに通学用のリュックに昨日書き出したアイデアの用紙を入れ、それを背負い、自宅を後にするのだった。






「おはよう!」


 学校に到着し、教室に入った頃合い。湯浅充希ゆあさ/みつきが話しかけてきた。


「おはよう」

「それで昨日の件、決まった?」


 彼女は翔の席までやってくる。


「大体はね」


 そう言って、翔は用紙に書き出したアイデアを見せた。


「へえ、色々考えてたんだね」

「まあね。思いつく限りのアイデアだけなんだけど」

「それでも、凄いね」

「充希は?」

「私は、あまり考えてこれなかったの。一応、見てみる?」


 翔は頷いた。


 けれど、同時に嫌な感じがしていたのだ。


 実際に見てみる。


「……これは大丈夫じゃない気が」

「そう?」


 充希は首を傾げてしまう。


 彼女がメモ帳に書き出している内容すべてが、十八禁に近い内容だったからだ。


「これだと、物語を作る時、大変になるというか。紫先輩も拒絶するんじゃない?」

「けど、今は少子化でしょ」

「え? なに、急に?」

「だって、少子化なら、もっとこういう風な作品に触れた方がいいと思うの」

「逆効果な気がするけど」

「私的には、いいと思ったんだけどね。昨日は先輩からダメって言われたのは知ってるけど。それよりも内容を抑えて、十七禁くらいにはしてきたんだけどね」

「それ、殆ど変わってないよ」


 充希は変態だった。


 実害があるような変態ではないが、卑猥な内容を妄想する事が好きな女の子なのだ。


 普通にしていれば美少女だが、本音が口から出れば、変態と言っても過言ではなかった。


「じゃあ、一緒に私と考えてくれない? このままだと、私だけ何も考えてきてない感じになるし」

「それだと、充希なりのアイデアじゃなくなるような」

「それでも、少しだけ提案する感じでもいいから。翔とは少し路線を変えた感じのアイデアでもいいから」

「んー、まあ、いいんだけど」

「じゃあ、少し別のところに移動しない?」

「なんで? 考えるなら教室でも」

「いいから」


 翔は彼女から強引に立つように促され、充希と共に教室を後にすることになった。






 充希と共に向かった先は学校の裏庭だった。


 朝の時間帯だと殆どの人が訪れる事もなく、誰かに話を聞かれる心配もない。


 充希からしたら重要な話になるのだろう。

 だから、この場所を選んだと思われる。


「まず、そこのベンチに座って」


 彼女に指示され、翔は座り、その後で充希も左隣に腰を下ろしてきた。


「先輩から言われていたアイデアの件もそうなんだけどね」

「うん」

「私、今、物語を書いているの」

「え、そうなの? いつ頃から?」

「一年の冬休みくらいから」


 充希は物語を書いているらしいが、多分、内容的にエロい系かもしれない。


 教室内で話せない内容となると、そう考える方が正しいと思う。


「私、十八禁の投稿サイトで小説を書いてるんだけど」


 やっぱり、そう来たかと思った。

 でも、それも想定の範囲内だった。


「それでなんだけど、モデルになってほしいの」

「え? なんの」

「私の小説に登場するキャラのモデルってこと」

「なんで俺⁉」

「だって、翔以外で頼める人いないからよ」


 充希の発言的に、多分、そういうモデルだとは想定していたが、直接、そう言われると、心の準備が必要になってくる。


 エロい作品は見たりするが、そのモデルになるというのには抵抗があった。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど。心の準備が」

「でもね。モデルって言っても、そんなにエッチなことじゃないけどね。ただのデートみたいな感じでもいいし」

「デートするだけ? けど、デートするのは……」


 紫先輩の姿が脳裏をよぎる。


 それは出来ない。


 すでに先輩と付き合うことが決まっているのに、デートなんか無理だ。


「じゃあ、一緒に遊ぶって感じで。それだったら、デートじゃないし、問題ないでしょ?」

「友達的な感じ?」

「そう、そんな感じ」


 恋人関係として付き合うわけじゃなければ問題ないのか?

 けど、流石にモデルになるのはちょっとな……。


「充希が小説を書くための協力だったらいいけど。それ以上の事はしないから。変な事の協力とかはね」


 何度も忠告しておいた。

 紫先輩という実質的な彼女がいるのに、変態な関係にはなってはいけない。

 けど、小説の手伝いなら、してもいいと自分の中で結論づけていたのだ。


「いいよ。その条件で。じゃ、決まりね。空いてる時間があったら、私の方から連絡するから」


 充希の誘いを受け入れた瞬間から、彼女は強引になり、次々と話を進めていた。


「その話は一旦終わり! あとは、アイデアを一緒に考えて」


 そう言って、彼女はメモ帳を広げる。


 翔は彼女と共に、放課後に向けたアイデアを考えてあげることになったのだ。

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