第24話 作品はその作品らしさが重要らしい?

 その日。鈴木翔すずき/しょうは喫茶店内で悩んでいた。


 数分前に部員メンバーと共に入店した店内席に座り、そこで作品の方向性を改めて考えていたのだ。


 大体の方向性はすでに決まっている。

 あとは、参考資料となる作品を元に、設定を書き直していく事だった。


「ちゃんと書けてる感じ?」


 左隣の席に座っている湯浅充希ゆあさ/みつきが話しかけてくる。

 今は都合上、二人っきりだった。


「大体ね。これでいいかな? 大まかな流れは出来上がっているしさ」

「じゃあ、見せてよ」


 充希からそう問われ、今まで書き出した範囲までを見せることにした。


 充希は設定となるプロットを見ながら一緒に考え込んでくれる。


「流れはいいと思うけど、もう少しキャラクターを増やした方がいいと思うんだけど」


 彼女はプロット内容を指さしながら指摘してくる。


「そうかな? これでも丁度いい人数だと思うけど。大体、四、五人程度の方が安定するような気がして。多すぎると、やっぱりさ、ごちゃごちゃしてくると思うし」

「まあ、そうかもね。何か考えがあるなら、それでもいいかも。それと、このキャラが物語の主役?」


 充希は疑問気に首を傾げていた。


「そうだね。そのつもりで設定はしているけど。どうかしたの?」

「なんていうか。もう少し特徴があった方がいいんじゃない? って、私的に思っただけ」

「特徴か。例えば? 充希さんはどういう事を想定していたの?」

「私は主役が過激なのが好きだと、いいかなって」

「さすがに、それだと方向性と変わってくるよ。今は青春系を書いているわけだから、それは採用できないかな。というか、それは充希の趣味でしょ?」

「そうだね」


 二人は隣同士で座ったまま、近い距離感で設定について深く話し込み始めるのだった。






「ねえ、内容は定まって来た?」


 その時、紫詩乃むらさき/しの先輩がやって来た。


「はい。一応、充希と一緒に考えていて。これなら上手くいくと思ってて。見ますか?」


 翔は充希が手にしている設定内容を手にして、その場に佇む先輩に渡す事にした。


 先輩はその場に佇みながら、その設定内容をまじまじと見やっていたのだ。


「どうですかね? 結構、出来てる感じはするんですけど」

「そうね。キャラも話の流れもそれなりに出来ていると思うわ」

「じゃあ、さっそく書き出してもいいですかね?」


 翔は期待した感じに問いかけた。


「それは待った方がいいわ」

「どうしてですか?」


 翔は疑問口調になる。


「だって、このままだと少し内容にひねりがないと思うから。それを追加した方がいいかもね。例えば、そうね、アイデア的な感じで、この作品だけの新しさとか。そういう概念ね」

「それ要りますかね。これでも問題はないような気がしてたんですけど」


 自分で考えている際は、アイデアに関しては大丈夫だと感じていたが、客観的に見れば何かが違うらしい。


 やはり、先輩からの意見は貴重だと思った。


「もう一回、自分でも見直してみた方がいいわ。よろしくね」

「はい。わかりました。もう少し考え直してみます」


 翔は先輩から設定内容のプロットを返され、まじまじと自身の作品内容と向き合うのだった。




「そう言えば、香奈かなはどうしたんですかね? さっきから見てないんですけど」

「香奈なら、別のフロアにいると思うわ。さっき、店内ですれ違った時、本を読んでくるって言っていたから」


 喫茶店に入店した直後は全員、同じテーブルにいたのだが、それから数分後、別行動をするようになっていた。


「そう言えば、ここの店内って、意外と色々なモノがあるんですね」

「そうよ。通常の喫茶店の営業の他に、市販の本の販売や、立ち読みスペースもあって、ビジネス関係の人も利用できるエリアもあるからね」

「珍しいですね。そういうの」

「そうね。この頃、ビジネスで仕事をするために喫茶店を利用する人もいるから。色々な人のニーズに合わせているのかもね」

「紫先輩はさっきまでどこに?」

「私は新作の小説を確認しに市販エリアに行っていたの。何か他に資料になるのがあればいいかなって。それと、個人用のためにも必要だと思ったからよ」

「丁度いい感じの作品があったんですか?」

「今のところはなかったけど。翔も本を見たいなら、一回足を運んでくればいいと思うわ。その方が自身の目で新しい発見とかを把握できるでしょ」

「そうですね。少し行ってきます」


 翔は席から立ち上がる。


「私も一緒に行こうかしらね」

「え、紫先輩はさっき行って来たばかりでは?」

「そうかもしれないけど。ちょっと気になってた作品があって」


 結果として、先輩と向かうことになった。


「充希はどうする?」

「私はいいよ。私が好きそうなジャンルの作品はなかったし」


 充希が普段から見ているジャンルは、一般的な人の目に触れる事はない。

 そういった内容の作品なのだ。


「私はここで待ってるんで、大丈夫ですから」






「紫先輩って、さっきの俺の作品を見て、どう思いましたか?」


 二人は店内の市販エリアにいた。

 今、本灘を前にして、話し合っているのだ。


「あの話の流れに関してはいいと思ったわ。昔、作品を書いていただけはあるし。でも、長い期間書いていなかったと思うから、もう少し練習は必要かもね」

「はい」

「翔は、このまま小説を書き続けたい?」

「今回の公募が上手くいけば。昔のように書き続けて行こうとは思ってますけど」

「じゃあ、その調子でやって行った方がいいと思うわ」


 先輩から勇気づけられたのだ。


 翔も心のどこかでは迷っていた。

 このまま昔のように書き続けられるのか、不安な一面もあったからだ。

 でも、皆と一緒に活動できている事で、次第に心を癒されている感じがあった。

 書き続けられる勇気を貰っているのだ。


「俺は、これからも。それと図書部の廃部は何とかしても対処しますから」


 翔は全力で言った。


 先輩は少々驚いた顔をしていたが、すぐに現実に戻った顔つきになっていた。


「ありがとね。そういう事を言ってくれるのは嬉しいけど、もう少し自分の事もちゃんと考えないとね」


 紫先輩はホッとため息をはいたのち、急に翔の左手を握ってきた。


「今日はまだ時間あるから、この前から引き延ばされていた責任を取ってもらうから。今日は、私のために何か一つだけでもいいから奢る事ね」


 と、先輩から強請られるのだった。

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とある爆乳な部長のおっぱいを揉んでしまった俺の周りには、変態でエッチな女の子しかいないらしい 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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