第23話 この本もいいかもですね!

 翌日の出来事だ。


 学校帰りの放課後。鈴木翔すずき/しょうは街中にやってきていた。


 今日は部活を休んで、気分展開も兼ねたイベントのようなものだった。


 部活自体がないゆえ、部員全員と街中にいる。


 今日、これから部員の四人で向かう先は本屋だと決まっていた。


 やはり、部活を休みにしたとしても、本屋に行くに限ると思う。


 本屋はアーケード街の中にもあるのだが、駅近くのところにも、それなりの品揃えの良い本屋があるのだ。


 色々な人が行き交う場所にある本だと、置いてある本の数も多く、色々人のニーズにこたえた多種多様な本が揃っている。






「どんな本を買うかだよね」


 駅近くの洒落た本屋。

 そこで、近くに佇んでいる湯浅充希ゆあさ/みつきと一緒に本棚の前にいた。


「そうだな」


 翔にとっても何にしようか、悩みどころだ。


 今回、公募する内容が青春系である事から、それの参考書になる感じの作品がいいと思われる。


 一通り、その本屋の本棚を見渡すが、すぐには選べなかった。


 この本屋には、気難しい本から、漫画や簡単に読める感じの雑誌や書籍も多く揃ってあるのだ。


「でも、青春系を書くなら、参考資料は漫画でもいいかもね。小説もいいかもしれないけど。ずっと小説ばかり読んでいても、考えが固執しちゃうし」


 近くにいる充希から、そういったアドバイスを貰う。


「確かにそうだよな。色々な本に目を通しておいた方が、いいよな」


 翔もその事を踏まえ、再び、本棚へと視線を移す。




「これか」


 翔は、その視界に移る本棚から一冊の漫画を手にすることになった。


 どんな作品でもいいのだが、自分が描きたい事を書き立たせてくれる内容の方がいい。

 だから、絶対的に小説という媒体でなくともいいと思う。


 今日はラノベを購入する予定だったが、本棚を見渡している内に、色々な本を全体的に確認しておきたいと考えるようになっていた。


 小説を書くのだから、小説を読んだ方がいいと考える人もいるのだが、新しい価値観に触れるなら、思いっきり別の媒体を見て、その感性を刺激するのもいいはずだ。




「翔先輩は本当にそれでいいんですか?」


 急に後輩の矢代香奈やしろ/かなが出現した。


「ああ。俺はこれにしようと思ってたんだけど」

「漫画もいいと思いますけど、高校生の内にやっておいた方がいいランキング本もありますよ」


 後輩の香奈から、とある本の表紙を見せつけられた。


「確かに、その本もありかもな」


 翔は、その本も手にしてみることにした。


 多種多様な本に触れておいた方が、やはり、何かと人生について学ぶこともある。


 翔はその進められた本も見てみることにした。


 ペラペラとめくって、内容をザッと読む。


 自己啓発系や、人生と向き合うような本を読む事はあまりないのだ。


 少々新鮮に感じる。


 香奈にすすめられて見てみたのだが、やはり、ためになる内容もしっかりと書き綴られてあったのだ。


 一応、この本も購入しておいた方がいいと、内心、考えるようになっていた。




「他はいいの?」

「他って?」


 先ほどまでいなかった紫詩乃むらさき/しの先輩がやってくる。


「こういう小説とかも。キャラクター文芸の方にも青春モノがあるし。こういうのも読んでいた方が為になるかもね」


 紫先輩から渡された。


 その本は、落ち着いた感じの雰囲気を放っていた。


 翔はそれも読んでみることにした。


「それ、結構今人気だから、流行を抑えるためにも読んで損はないかもしれないよ」


 一応、内容を確認する。


 今、翔が手にしている、このキャラクター文芸には、翔と同じ一〇代くらいの人物が登場するらしい。


 青春モノではあるが、学園要素があるわけではなく、バイトを通じての青春模様が描かれていた。


「こういう作品もいいですね」

「そうでしょ。青春系を書くにしても、そういう新しい切り口で書かれているのもいいかもね」


 紫先輩からの後押しもあって、それも購入することになった。


 段々と、金銭的にも蓄積されていく。


「他にも購入したい本ってあるの?」


 先輩から問われる。


「俺は、本当は今日、普通にラノベを購入しようと思って。えっと、確か、あっちの方にあった気が」


 翔は別のエリアまで向かって行く。


 そこの本棚には色々なラノベがある。


 数か月前に発売された本から、新作まで殆どが出揃っている感じだ。


 新作に限っては、見やすいところに、表紙がハッキリと見える位置に置かれてあった。


「俺、こういうのも欲しかったんですよね」


 翔は新作のラノベを手にする。

 そして、購入を決意したのだった。




 翔が以前から欲しかったのは、学園を舞台にしたライトノベルだった。


「そういうのにするんですか?」

「まあ、色々な本を読んだ方がいいなら、こういうのもいいと思うんだけど。今回書くのがライトノベル形式なら、これでもいいかと」


 翔は、彼女らの様子を伺いなら言う。


「確かにそれもありですね」


 充希は共感してくれていた。


「大体、これくらいあれば、何とかアイデアも出てくると思うし」

「先輩はこれだけでいいんですか? 要望があれば、もっと他の作品を探す手伝いもしますよ」


 香奈は積極的に話しかけてくる。


「他は十分かな。俺、そんなにお金も持ってきていないしな」


 翔は金銭的にも難しい局面に追い込まれ、すっぱりと断る。


「今はこれくらいにして別の場所に行きましょうか。この近くに新しい喫茶店とかもあるみたいだから。そこで休憩して、リラックスすればいいと思うわ。翔もそれがいいでしょ?」


 紫先輩は気を利かせてくれたのか、そういう提案をしてくれた。


「そうですね。俺はこれで十分なんで。今日は助かりました」


 大体の本は集まった。


 あとはリラックスして、ちゃんと自分が書く作品と向き合って行こうと思う。


 翔は彼女らと店内のレジカウンターへと向かい、そこで購入すべき本の会計を済ませることにしたのだ。






「それで、良い作品ができればいいですね」

「翔なら、出来ると思うわ」

「何かあったら、私も協力しますから」


 街中を歩いていると、周りにいる香奈、紫先輩、充希から背中を後押しされるような発言を受けた。


 小説を本格的に書くのは、本当に久しぶりに感じる。


 昔は、自分の作品に自信が持てなくなって、書くのを一度辞めてしまった過去があるのだ。


 でも、今は部活のメンバーらがいる。


 あの時とは全然、環境が違う。


 これからは、自分に自信を持って作品と向き合って行こうと思った。

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