第21話 俺らは迷う必要性はない
「翔先輩! 流れは決まりましたか?」
夕暮れ時の図書室内。
翔が席に座って原稿用紙とにらめっこをしていると、左隣から後輩の
突然の事で、少々ビックリはしたが、
「大体はな。でも、どこか違う気がするんだよな」
悩んだ口調で呟いていた。
「何か足りていないところがあったりしますか?」
「そうだな。もう少し情報があればいいんだけど。参考資料的なモノがね」
翔は頭をかきながら言った。
「でしたら、私ともう一度、本屋に二人っきりで行きますか?」
彼女は耳元で呟いてくる。
「いや、いいよ。それと、近くには紫先輩がいるし、そういう話は」
翔は焦った反応を見せた。
「わかってますから」
香奈とは、ラノベについて教えるために、以前本屋に足を運んでいた。
それからというもの、彼女もラノベに深く関心を持ってくれていたのだ。
香奈がラノベの事も把握してくれたお蔭で、数週間前と比べて図書館にラノベも増え、若干図書館に足を運んでくれる人も増加した気がする。
貸し出し回数が増えたとしても、図書館としての表立った実績はまだない。
次の公募で何とか実績を残そうと意気込んではいた。
だからこそ、今、公募用のプロットを作成中なのだ。
「あなたさ、できたところまででいいから見せてくれない?」
別のところで作業を終えた
すると、テーブル上に置かれてあった原稿用紙を手に取る。
「……普通の内容ってところね。ここから何か新しい要素を組み込んでいく感じ?」
「そうですね。そのつもりなんですけど。良い案が思い浮かばなくて。この流れからどうしたらいいですかね?」
翔は、先輩は相談にのってもらうことにした。
「そうね。これを改善するなら、もう少し主人公とヒロインらの距離を縮めた方がいいと思うわ。そういったシチュエーションとかも加えてみたらどうかしらね」
先輩は一言告げると、原稿用紙を再び翔の前に置いていた。
「距離感を縮めるって事ですね。まあ、その考えもあるんですけどね」
翔は顎を触って悩み始める。
では、それはどうやって表現すればいいのか。
多分、その改善方法としては、翔自身が実際に経験してみるしかほかないだろう。
「……」
翔は無言のまま周りにいる女の子らを見た。
右隣の席に、
彼女は席に座り直すと――
「そういう事なら、私らと遊んだりする? その方が青春モノを描くなら役立ちそうじゃない?」
「そ、そうだな」
充希からの提案があった。
翔は少し考えた後、頷く。
確かに、その方が効率いいのかもしれない。
そういった結論に到達した頃。
図書館の扉が強引に開かれたのだった。
「あの噂は聞いたわ」
その声は、姿を見なくてもわかる。
それは生徒会長の大和凛子だ。
話し方や口調で、そのオーラを感じられた。
「落ちたようね。これで諦めたらどうかしらね」
生徒会長は図書館に勝手に入り込んできて、四人がいるところまで歩み寄って来たのだ。
「もう、これ以上努力しても、時間の無駄なのよ。さっさと諦めて、この部活を廃部にしたらどう? その方が気が楽になると思うわ」
生徒会長は強引に話を進ませていた。
「でも、まだ、約束までの時間はありますよね? そんなに勝手に決めないでください! 私たちはまだ諦めていませんからね」
席から華麗に立ちあがり、充希は生徒会長へと立ち向かう姿勢を見せていた。
「なに? 生意気ね。年下なのに」
「こういうのに、上も下もないですから。生徒会長も、勝手に立場を使って話を進ませないでくれませんか? 私はまだ挑戦を辞めたわけではないですから。むしろ、次は何を書こうか考えていたところなんですから! そうだよね、翔」
充希が確認するように話しかけてきた。
彼女から目力を感じられる。
翔も縮こまってはいられないと思った。
「そ、そうですね。俺も今、真剣に考えていたので」
翔も席から立ち上がって、自身の言葉で生徒会長へハッキリと告げた。
「ふん、面倒な人らね。なかなかしぶといっていうか。私からしたら早く辞めてほしいのよね。他の部活に部費を回したいから」
生徒会長にも、考えがあるのは承知である。
けれど、本に興味を持つようになったのは、図書部が、学校の図書室を管理するようになってからだ。
特に後輩の香奈の影響が大きいものの、それでも別の人らが管理するよりかはまだ他人の役に立っていると思う。
本の売り上げが下がっている昨今、本が楽しい娯楽の一つだと認識してほしい。その活動を続けるためにも絶対に譲れなかった。
「まあ、いいわ。でも、次こそは実績を残せないのなら潰すつもりだから。まあ、私一人の判断で、すべてを決められるわけじゃないし。今回は別にいいんだけど、絶対に次は廃部決定にするから。そのつもりで」
生徒会長から底知れぬ強い圧力がかけられる。
何が何でも、圧し潰そうとしているオーラを感じられたのだ。
生徒会長の胸は無いに等しいが、信念だけは確実に表立っている。
「まあ、期待はしていないから。そのつもりで」
生徒会長は捨て台詞をはいて背を向けると、図書館から立ち去って行ったのだ。
「これでよかったんですかね?」
「まあ、大丈夫だと思うわ。それより、あなたは、プロットを完成させた方がいいわね」
「そうですよね」
翔は席に座り直して、落ち着いた環境下でシャープペンを持ち原稿用紙を向き合う。
「……やっぱり、街中で遊ぶって事はどうですかね?」
「遊ぶ?」
「えっと、部活の一環として、ですね」
誤解されないように言い直す。
「まあ、いいわ。部活の一環ね。それなら、明日にでも行く?」
「はい。その方が、書きやすいと思ったので。明日でいいなら、紫先輩の意見に従います」
翔は先輩に目で意思を伝えた。
「それがいいかもね。二人はどうする? 一緒に行く?」
「はい! 私もそのつもりだったので」
「作品もためなら、私もついていきます」
充希や香奈からの返答があり、四人全員で遊ぶことになった。
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