第20話 今度はあなたが書いてみる?

「今から開けるから」


 あれから二週間ほどが経過した。


 以前公募した作品の結果が帰って来たのだ。


 放課後の図書室内にて、テーブル前に佇んでいる紫詩乃むらさき/しの先輩が、その封筒を開けようとしていた。


 周りにいる翔らも、その結果がどうなったのか気になっていたところだった。


 投稿したところが、短編中心の場所だったこともあり、意外と早い返答であった。


「……」


 皆、静かに、先輩の様子を伺っている。


 先輩は封筒から一枚の用紙を取り出し、それから、その紙を見開いていた。


「どうなんですか?」


 翔の反対側のテーブル席に座っていた矢代香奈やしろ/かなが恐る恐る問いかける。


「……あまりよくなったかもね」

「じゃあ、ダメだったって事ですか?」


 湯浅充希ゆあさ/みつきもショックそうな顔で、不満げに言葉を漏らす。


「そうね。落選したって……そう書いてあるわ」

「そ、そうなんですね……」

「まあ、充希もそんなに落胆しないで。まだ、一回目だから。それに、そこまで悪いって評価でもないから」

「え? そうなんですか?」

「これを見てみればわかると思うわ」


 紫先輩はその用紙を皆が見える位置に持ってきて、テーブル上で広げていた。


「そうですね。そこまで酷評されてるわけでもないですね」


 充希は用紙に記されているコメントをまじまじと食いつくように見ていた。


「では、この物語の方向性で問題はなかったって事ですかね?」

「そうね。コメントを見る限り、そういう事になるわね」


 香奈は難しい顔を見せながらも、次はどうしようかと、次の事をすでに考えている様子だった。




「でも、これから頑張れば問題ないと思うわ。また、今日から皆で会議をしましょうか」

「そうですよね。頑張りましょう」


 充希は気分を切り替えていた。


「私、この頃、色々な公募サイトを見つけてたんですけど。こういうのはどうですか?」


 後輩の香奈がスマホで検索していたらしく、それらのサイトを見せてきたのだ。


 鈴木翔すずき/しょうを含め、その画面を覗き込む。


 今回公募した短編の公募サイトから長編まで色々と表示されてあった。


「次は何にしますか?」


 香奈は他の部員の様子を伺っていた。


「私は、このサイトがよさそうに見えるけどね。では、今日は、どこのサイトに公募するか決める日にしましょうか」


 紫先輩は香奈のスマホ画面をスライドしながら、特定のサイトを指さしている。


「そのサイトもいいですね」


 香奈も、事前にそれがいいと考えていたようだ。


 紫先輩と香奈が選んだサイトというのが、前回と同じく日常系ジャンルで公募出来るところだった。


「公募は落ちてしまったけど、酷い内容ではなかったから、次も日常系にスポットを合わせるのもいいかもね」

「そうですよね。でも、もう少しオリジナリティがあった方がいいかもしれないですね。ここのコメントのところに、もう少しアレンジが欲しかったと書かれてますからね」

「そうよね。香奈はどんな要素を加えた方がいいと思う?」

「私は――」


 先輩と香奈とで議論が開幕していたのだ。




「ねえ、翔は日常系でもいい?」


 翔も何にしようかと悩んでいると、右隣に座っている充希から話しかけられた。


「俺はなんでもいいけど。日常系にするなら、それでもいいんじゃないか?」

「特にこれっていう要望はない感じ?」

「そうだな。でも、もう少し簡単に書いた方がいいかもな。やっぱり、内容が難しかったかもな」


 文芸に近い感じの文章の書き方だったため、公募先の方針と少し異なっていたかもしれない。


 どんなジャンルでもいいと言えども、好き勝手書いて審査を通過するわけではないのだろう。


「じゃあ、ライトノベル的な感じでもいいかもな」


 翔は考え込みながらボソッと口にする。


「だったら、今度は翔が書いてみる?」

「お、俺が? い、いや、いいよ」

「なんで? 普段から、ライトノベル原作の漫画も読んでいるし、書けない元もないでしょ?」


 充希から強引に進められてしまったのだ。


「け、けどさ、それとこれは違うくないか?」

「でも、そういうジャンルの方向性は何となくつかめてるでしょ?」

「まあ、大体はな」


 二人で話し合っていると、紫先輩と香奈が一旦話を中断させ、話に混ざってきたのだ。




「今回は、翔が書く?」

「先輩まで俺に?」

「そうよ。その方が都合いいと思ったからよ」

「けど、俺は」


 翔はそこまで乗り気ではなかった。

 今は物語を書きたいとか、そういう気分でもないからだ。


「でも、翔先輩ならできると思うんですけどね。頑張ってみたらどうですか?」


 香奈からも後押しされてしまった。


「一回書いてみたらどう?」


 紫先輩から期待されてしまっている始末だ。


「……わかりました、一回やってみます」


 少々不安があったが、一応頷いておいた。


「それがいいわ。けど、今から方向性を考えないとね。あなたも、一緒に考えましょうか。翔はどんなのが書きたい?」

「私らの方では、日常系って事で固まっていたんですけど。翔先輩もそれでいいですか?」

「まだ、考えさせてくれ」


 前回と同じ日常系でも問題はないと思う。

 けれども、公募先の方針を考えた上で決めないといけないと、翔は感じていた。


「まずは、どこに公募するかをもう一度決めさせてくれないか?」

「いいですよ」


 香奈はスマホを翔に渡してきた。


 翔はスマホ画面を指でスライドさせながら、他の公募先を目に通していく。


 ジャンルにも色々ある。

 日常系の他に、恋愛系や、ホラー系、異世界系など。




「じゃあ、これにするか」


 翔はそのスマホ画面を見て、自分が書きたいと思えるジャンルを定めたのだ。


「何にしたんですか?」


 香奈は翔が見ている画面を覗き込んできた。


「それは青春系で。これなら丁度いいと思うんだけど」

「青春系? 本当にそれでいいの?」


 紫先輩は確認のために聞いてきたのだ。


「多分問題ないと思う」


 自信はなかったが、書くとなった以上、自分がある程度書けるジャンルにした方がいい。


 書くと決めた以上、割り切ってやるしかないだろう。


 どんな過去があったとしても、今ある図書部を廃部にさせたくなかった。


 皆と一緒にいる時間を崩したくなかったからだ。

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