第7話 プライベートの約束…覚えてるわよね?

 時は放課後。


 皆が、部活や帰宅をしたりしている時間帯であり、今、鈴木翔すずき/しょうは図書館にいた。

 四人で長テーブルを囲むように席についていたのだ。


「では、この方向性で決まりね」


 紫詩乃むらさき/しの先輩は、その場に立ち上がり、言った。

 先輩が立ち上がるだけで、その爆乳が揺れたのだ。


 まだ、その大きさを把握できるわけではないが、かなりの大きさと思う。


 翔は先輩の右隣席に座っていて、そこから見上げるおっぱいは相当なものだった。


 今はそんな事を考えている場合じゃないだろ。


 翔は自身に言い聞かせていた。


 今、部員全員での話し合いが終わった頃合い。シナリオの方向性が定まり、いつでも執筆出来る状況になっていた。


「これで、第一関門クリアって事ですね」


 テーブル前の椅子に座っている湯浅充希ゆあさ/みつきが、手にしている物語の設定表を見ながら言う。


 設定資料には、キャラクターや世界観、起承転結。それから物語を通じて描きたいテーマなどが詳細に書き出されているのだ。


 充希は設定だけを見て、満足した顔をしていた。


「でも、設定を考えてからが本当の作業になるから。それで、満足していたら意味ないからね」


 先輩からの厳しい一言が告げられる。


「そうですよね。でも、設定を考えるだけでも達成感があるんですよね」

「それ、よくないから」


 先輩はため息をはいていた。

 それから、皆の方を見て。


「設定を元に、誰が中心になって書く? 私でもいいけど」

「じゃあ、私がやります!」


 充希が率先して挙手していた。


 彼女からやる気というオーラが放たれている。


 充希は普段から小説を書いていることもあり、多分、大丈夫だと思う。


「他はいない?」

「俺でもいいですけど」


 翔も名乗り出たのだが、先輩からジト目を向けられる。


「あなたは、今回は無しで」

「な、なんでですか?」


 なんで聞いたんですか的な顔を、翔は浮かべていた。


「あなたには、これから別の業務があるから」

「そうなんですか。じゃあ、他ってなると香奈だけですよね」

「そうなるわね。加奈も書く?」

「私は、そこまで小説を書いた事はないので。充希先輩のアシスタントとしてやります」

「そう。わかったわ。じゃあ、お願いね」

「はい。わかりました!」


 矢代香奈やしろ/かなは返事をしたのち、充希がいる席へと近づき、書き出された設定資料を一緒に確認していた。


「締め切りは、来週まででしょ」

「そうですね」


 充希が先輩に対して頷いていた。


「では、今週の土日を使って書いてくる? それとも今から書き始める?」

「私は今から書きます。早く取り掛かった方が先輩的にも安心ですよね?」

「そうね。では、頼むわね。私らは、図書館内で本の整理をしているから。あとはよろしくね」


 紫先輩の指示を受け、充希と香奈は席に座ったまま返事を返す。


「あなたはこっちに来て」


 翔は言われた通りに、先輩の後についていくのだった。






「ここを見て、どう思う?」

「それは結構散らかってますね」


 今、翔は先輩と本棚がたくさん置かれているところに佇んでいた。


 普段は綺麗に整頓されているが、今では無残な状態になっていたのだ。


「そうよね。今日、先生から言われたの。この頃、本が乱雑に置かれているって。だから、本の整理をすることにしたのよ。それと、本の表紙が破れているモノがあったら、テープで補修するから。それでもダメな場合は、本の内容によって発注するかもしれないし。処分か」


 先輩は散らかっている本を手に取り、表と裏。それから中身を確認していた。


「これは補修が難しいかもね。これを見て」


 実際に中身を見ると、数ページだけ破けていて、読めないページがあったのだ。


「誰なんですかね。こんな事をしたの」

「わからないわ。でも、図書館に人が来るようになって、本を乱雑に扱う人が増えたのかもね。本を借りてくれる人が増えるのはいいのだけど、やっぱり、本を大事にしない人が増えるのも困りものよね」

「そうですね。図書館の本は皆が触れるものですからね」


 無償で本が図書館に届けられるわけじゃない。

 部費を使い、本を購入しているのだ。


 この頃、図書館のルールがおかしくなっているような気がする。


 もう少しルールを厳しくした方がいいかもしれない。

 今後はそれが課題になってくるだろう。




 それから二人は、本棚の整理に取り掛かるのだった。


 これって、実質的、先輩と二人っきりなのでは?


 紫先輩の事を意識してしまうと、妙な緊張感に襲われる。


 真横から見る先輩の体のラインは実に素晴らしいものだった。

 スタイルがいいというのもあるが、横から見る爆乳は制服越しでも、翔の目の保養になっていたのだ。


 一応、図書館内には、充希と香奈もいるのだが、今のところ、二人がいるエリアから大分離れている。


 卑猥な心境になるなという方が難しいだろう。


 昨日の出来事が蘇り、エッチな気分になった。


「ねえ、あのこと覚えている?」

「えッ⁉」


 突然のことに驚き、変な声を出してしまう。


 本棚の方を見ていた先輩は一旦手を止め、チラッとだけ、翔の方へ視線を向けてきたのだ。


「あ、あの事って何ですか? デートの事ですかね?」


 翔も手を止め、卑猥な感情を抑えて、先輩の様子を伺うように立ち振る舞う。


「そうね、覚えているならいいのだけど。ちゃんと、内容は決めてくれた?」

「はい。それは決めてますね」


 その件に関しては昨日、五月雨さみだれ先輩に相談し、十分なくらいに準備していた。


「そう。それで、あなたはいつなら時間が取れそう?」

「えっとですね」


 充希と香奈との約束は、部活が始まる前に決めていた。

 土曜日の午前に、充希。その日の午後に香奈という事で、一応スケジュールを決まっている。


「日曜日なら大丈夫です」

「日曜日ね。別にいいんだけど、なんで土曜日じゃないの?」

「え? それは、何となくで」

「何となく?」

「でも、紫先輩は日曜日でも大丈夫なんですよね?」

「そうね。それはいいのだけど、どうして日曜日なのかなって。ちょっと気になっただけ」


 先輩から疑われていた。

 ここは何とかうまく立ち回らないといけないと思い、土曜日は友達と一緒に出掛ける日になっていると説明した。


「友達?」

「はい」

「友達って誰なの?」

「それは、クラスメイトとか」

「……なら、いいけど。まあ、いいわ。日曜日ね」


 翔はホッとし、何とか回避できたと心を落ち着かせていたのだ。


「日曜日の何時くらいに、どこに集まればいいの?」

「街中にアーケード街があると思うんですが、その近くに公園がありますよね」

「あるわね」

「そこに、午前十時頃に待ち合せたいと思ってて」

「十時ね……日曜日に公園ね。わかったわ。楽しみにしてるから」


 先輩は制服から取り出したメモ帳に書き込んでいた。


 一瞬、先輩は笑顔を見せていたような気がする。


 が、話が終わると、先輩は真面目な表情で、作業に戻っていたのだ。

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