メスガキ聖女にローストチキンを与えてみた
「もしもし、神様っすか?」
“うぇーい! 神谷っち、どうしたん?“
「神様、ご機嫌っすね。いい感じで聖女サマ、名声も上がってきてるっすよ」
“すげぇじゃん! で? 今回は何が欲しいんだい? 言っちゃいなYO! 神様、今日は他の神様と呑み散らかしてるからなんでも聞いちゃうYO!“
「そっすか、じゃあ、鳥のもも肉とあとあの飲み物にシャンパンもお願いしますっす」
“おけまるぅ!“
オーケーなんだと思うと、あえて何も言わずに「じゃあ宜しくお願いしますっす」と神様との電話を終了する。あとは神様からの配達が来るのを待っておけばいいので避難している人達の中で「すみませんっす」と声をかけると「聖女様の従者さん、早く避難してください。あいつら村を狙って滅茶苦茶にしていくんです」「そうっすか、多分。聖女サマとラーダさんがあの魔物やっつけてくれると思うんで、そんな事より調理できるところ貸してくれねーっすか? 聖女サマに料理するのが俺の仕事なんで」「あの角の家、俺の家だからそこ使ってもいいけど、あんたら逃げたほうがいいからな! 俺は忠告したぞ」「忠告どうもっす」と言われた部屋にお邪魔しますと入る。
「おぉ、電気もガスもないけど薪がある。火打石もあるっすね。じゃあアレ使ってみるっすか」
薪をナイフで削っていく、十分かなと思った辺りで、一葉は現代版火打石のファイアースターターを取り出すとそれで火花を散らす。思ったより難しいなと続けていると、削った木屑に火が移った。そして火が大きくなるのは時間の問題。
その間に一葉の使わせてもらっている部屋がノックされる。そして入ってきたデリバリーサービス風の何かが、無言で一葉に材料を渡す。
「ありがとうございますっす。全部揃ってるっすね」
まずは丸鶏、軽く洗って水気を取りお腹を開く。そこにスキレットで軽く痛めた鶏レバー、ざくぎりにして軽く痛めたニンジン、玉ねぎを開いたお腹に入れて竹串で閉じるとマジックソルト、胡椒を丸鶏にすり込む。ダッチオーブンの中に油を塗って、丸鶏、半分に切ったニンジン、じゃがいも、玉ねぎを放り込んでコンロの火にかける。
「ふぅ、見よう見真似で作ってみたっすけど……上出来っすね」
さて、聖女ラムと魔女ラーダはどうなったかなと外に出てみると……トナカイの魔物達の死屍の山。本当に二人は躊躇ないなと
「ワシに歯向かうとは愚かの極みじゃて、牙向け、爪向け! 闇の顎!」
地面から硬化した土がトナカイの魔物を喰らう。聖女様に向かう大群に聖女様は「なんでざこは潰しても潰しても湧いて出てくるのかしらぁ? 天の裁きよ! あーしの前に立ち塞がる愚か者共を消しなさい!」
村を飲み込む程の魔物の大群がインベーダーゲームみたいに殲滅されていく。その中で一際大きい魔物。村の人達がタイラントカリブーと呼んでいる筋肉隆々のそれが聖女ラム、そして魔女ラーダの魔法の中、耐えきり、至近距離までやってきた。危ない! とか何も知らなければ一葉は思っただろうが、部屋から出た理由はこんな魔物退治を見物する為じゃない。
「聖女サマかラーダさん、氷出してもらっていいっすか? 冷たくて美味しい飲み物用意するっすよ!」
一葉に振り返るわけでもなく、
「リトルダイヤモンドダスト!」
「セイクリッド・フリーズ!」
一葉の足元に氷を沢山出してくれる。二人の食い意地を知っている一葉はそれを金属製のバケツに入れる。
タイラント・カリブーは狂乱して二人に襲いかかるものの上空に逃げた魔女ラーダからは魔法弾の雨を、手を伸ばせば届く距離にいる聖女ラムは両手を合わせて祈りのポーズ。
その表情が相手を舐め腐っているメスガキフェイスでなければそれなりに聖女っぽいんだろうが、口パクで“ばーか“と言っているのが一葉でも分かる。
「神よ神! 強大な闇の従者達に慈悲の道標を! 私には向かった事を永劫後悔して天に還りなさい! アサルト・クロス!」
伸ばした手から砕けていく、その光景を避難した高台から見ていた村人達は祈りを捧げる聖女ラムから発せされる十字架の光がこれまでずっと村を苦しめ続けてきた魔物を消滅させた神の光であると歓喜した。
そしてこれが指名手配モンスター、タイラント・カリブーの討伐になり、この魔物を退治しようとしていた勇者一行に聖女ラム達の名前が知れ渡る事になる。
「カミヤぁ! ご飯できたぁ?」
「できたっすよ! さぁ、手を洗って来るっす」
「はぁ? あーしが汚いとでも言いたいわけぇ? あーしは神の加護で汚れないんですけどぉ?」
「気持ちの問題っすよ。食べる前の儀式っすね」
「ひっくん、わしは手を洗ってきたゾォ!」
「偉いっすね。でも俺のズボンで手を拭くのやめてくださいっす!」
二人が手を洗ったので、一葉はダッチオーブンを持ってくる。そしてその蓋を取ると、見るからに豪華な料理が入っている。
「ちょっとちょっとおー! カミヤぁ! 今日なんかの記念日なわけぇ? もしかしてアンタの誕生日でしょう! 今日! 馬鹿ねぇ! あーしが祝ってあげるわよ! おめでと、ざこカミヤ」
「違うっすよ! シャンタさん見てケーキを作ったから、クリスマスっぽい料理を作ってみたんすよ。切り分けるので席に座ってくださいっす」
お皿に大きく切り分けたローストチキンと野菜、そして豪華なグラスに一葉はシャンパンを、聖女ラムと魔女ラーダの盃にはシャンメリーを注ぐ。
「ひっくん! なんじゃこの高貴な香りのする飲み物は! 酒か?」
「いえ、酒はこっちなんすけど、どっち飲みますか?」
「聖女に出している物と同じが良い!」
「はぁ? 魔女の分際で、カミヤと同じ物飲みなさいよ! 見てみなさい! これはあーしの為だけに作られたようなじゃない! ふふん」
とか言い合っているけど、二人に出しているシャンメリーはスーパーで200円程のジュース。それに対して1葉が飲もうとしているのは安めの19800円のシャンパン。約100倍の価格。そんな事を知らない魔女ラーダは聖女ラムの許しを得て嬉しそうにシャンメリーの入ったグラスを掲げる。
「あーしを讃えて乾杯ね! ざこ従者たち」
「乾杯じゃー!」
「乾杯っす」
まさか異世界でよく冷えたシャンパンを飲めるなんてと思った一葉だったが、よく考えると、「元の世界でも安易飲める酒じゃねーっすね。ある意味、ここに就職して良かったのかもしれねーっすね」とか思ってると、お皿に持ったローストチキンを前に、テンションを爆上げした二人がナイフとフォークでローストチキンに挑む。
「ふーん! まぁまぁじゃない! あーし、鶏肉ってパサパサしてるからあんまり好みじゃないんだけど、これはまぁ? 美味しいんじゃない? カミヤぁ、おかわりを切りなさい!」
「ひっくん! うまいぞぉ! 野菜も肉も! なんじゃこれぇ!」
「そりゃ良かったっすよ!」
とはいえ、それなりに上品に食べている二人を見て、この世界はマナーに関してはそこそこ進んでいるなと一葉は感心しながら自分の作ったローストチキンを食べてみる。
「はむっ、うん。まぁまぁっすね。ダッチオーブンやべぇっすね」
流石に今までお店て食べてきたチキンの類には全然勝てるレベルじゃないが、家庭レベルで言えば及第点だろうと、シャンパンを口にする。
そんな聖女サマ一行のディナー中に、魔物が討伐された事を確認する為、山方面に避難していた村人達とシャンタさん達が戻ってくる。
「おぉお! 聖女様! 私たちのこんな小さな村をお助けください誠に感謝いたします! 冒険者様にご依頼しても中々請け負っていただけず、勇者様が直々に来てくださる事になっていましたが、勇者様のお手を煩わせる事なく解決できて」
大きく口を開けてローストチキンを食べている聖女ラム、むぐむぐとローストチキンを食べると、「はぁ? アンタ達民草を導くのがあーしの仕事なんですけどぉ? てゆーか、あーしの手は煩わせてもいいとか思ってるってわけぇ?」と噛みつく聖女ラムに長老達はお金の入った袋を持ってそのような事はと聖女ラムを煽てる。
「勇者様って方がわざわざ助けてくれる筈だったんすね」
と、一葉が気になったので聞いてみると、長老は暗い顔で「最近このあたりの魔物が活発になったのも魔女、シーアンドスカイという者の仕業でして、勇者様はそんなシーアンドスカイを懲らしめる為に近くに来ていたそうなんです」
そう。その魔女シーアンドスカイは聖女ラム一行の現在の討伐対象でもある。一葉は魔女シーアンドスカイの動向に関して分かる範囲で村の人々に話を聞き、明日朝一番で向かう事になった。
「しかし勇者と出会うかもしれぬの」
「はぁ? 勇者ってどういう意味よ。ゴミとざこの集まりの事でしょ? 恥ずかしー!」
聖女ラムは多分勇者が嫌いなんだなとなんとなく一葉は理解した。
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