メスガキ聖女に肉巻きみたらし団子を与えてみた

「シーアンドスカイさんって魔女の足取り、全然わからね〜っすね?」

 

 あちこちで、シーアンドスカイに関係する魔物退治の事件はあるものの、その魔女の姿は髪の毛一本今のところは見当たらない。されど分かる事はいくつかある。シーアンドスカイは魔物を操るという事。魔物事件を片っ端から潰していけばその内、シーアンドスカイとも会敵するだろうと次なる街に立ち寄った時、人だかりができていた。

 

「なんすかね? お祭りっすかね?」

「とーぜん! あーしが来たから、歓迎してるんでしょ! バカね!」


 と聖女ラムはそう言うものの、この街に来る事を予め言っていないわけだし、そんなわけないだろうと一葉は思っていたら、この人だかりを作っている原因がやってきた。

 

「勇者様ぁー!」

「勇者様ぁ、勇者様ぁ!」

「勇者様、こっち向いて!」


 次々に勇者様、勇者様と呼ばれているのでそう言う事なんだろう。それに納得がいかないのが、聖女ラム。段々と不機嫌そうな顔をしてこちらに向かってくる勇者パーティーを見つめる。

 

「なぁにが勇者よぉ! 見てごらんなさい! カミヤぁ、それにラーダ。一人じゃ何もできないから剣士、僧侶、魔法使いを連れてるんでしょ? ふふん、それに対してあーしはなんだって一人でできるんだから! そもそも勇者って何よ?」

 

 あまりにも小さい事を言う聖女ラムに、一葉はもちろん、魔女ラーダも若干引いてしまう。そんな聖女ラムを見つけ勇者様、聖女ラムと同い年くらいの少女はこちらにやってくる。

 

「アルバス神教会の聖女様ではありませんか? 私です! ディタです! 勇者ディタです! 覚えておりますか?」

「はぁああ? アンタの事なんて」

 

 と文句の一つを言おうとした時、聖女がいるということで、ミーハーな村の人たちは勇者と同じくらい聖女ラムを歓迎するので、段々機嫌がよくなっていく聖女ラムは、


「覚えてるわよ。魔族か何かを倒すのにあーしの加護を受けにきた勇者でしょ?」

「覚えていてくださり光栄です! 聖女様の従者の方々ですね? 申し遅れました。私は勇者ディタ、仲間達や多くの人々、そして聖女ラム・プロヴィデンス様にもお力添えいただき、こうして魔王討伐の旅を続けております」

「ご丁寧にどうもっす。自分は神谷一葉っす。聖女サマの主に料理を担ってるっすね」


 どう考えても聖女ラムと違って人間ができているなと一葉は感じていると、聖女ラムが大きな胸を突き出し、そして天狗みたいに鼻高々な感じで一葉を見ると、


「カミヤぁ、勇者達になんか作ってあげなさいよ。アンタそれしか取り柄ないんだからさぁー」

「はぁ、でもいいんすか? いつもなら聖女サマの食べる分が減るってごねるじゃねーっすか」

「そんな事ゴネないわよ! あーしは心が広いの、さっさとしなさいよ!」


 はいはいと一葉は、何があったかなと、街でお肉を売っている店があったのでそこで何の肉かは分からない薄切り肉を購入。そしてオヤツに聖女ラムに与えようかと思っていたみたらし団子を取り出すと、そららに薄い肉を巻いていく、後は肉に火を通してあげれば完成、簡単でいてそれで美味しい。

 聖女ラムは早い美味いを良しとするので、時間のかかる料理を作る際はこんな簡易の料理をしながら本命料理を進める必要がある。

 一葉は普通に自分が鯖の味噌煮を食べたくなったのでそれを同時進行して作るつもりでいた。

 薄い肉、焼けると豚肉みたいな匂いが漂うので、丁度いいなと、一葉は焼けた肉巻きみたらし団子を皿に乗せて渡す。

 

「出来たっすよ! こちらは勇者様一行、皆さんでどうぞ! で、こっちは聖女サマとラーダさんっすね」

 

 勇者一行には8本、一人2本ずつあるのに対して、聖女ラムと、魔女ラーダのお皿には2本だけ、要するに一人一本ずつという事。それにむくーっと聖女ラムの機嫌が悪くなる。だが、堪えていた。勇者というビックネーム相手に、それも自分の事を尊敬している相手に醜態を見せられないと小さいプライドが聖女ラムを押し留めた。

 

「ほらぁ! 冷めない内に食べなさい! 至高の食べ物なんだから! 王族だっこんなの食べた事ないわよぉ!」

 

 と自信満々でそう言うので、勇者一行は「いただきます!」とみんな恐る恐る一口、パクりと食べる。すると、段々勇者一行の表情が笑顔に変わる。

 

「おいしー!」

「私、こんな美味しい食べ物食べた事ない!」

「肉って甘い味付けでも美味しいんだ……」

 

 勇者ディタは一葉に頭を下げる。

 

「きっと、こんな美味しい料理を作られるなんて、どこか名のある方なんでしょう」

「いやいや俺は……」

 

 ただの就職浪人ですよーと冗談を取ろうかと思ったが、勇者一行の僧侶の少女が神妙な顔で、

 

「黒髪……って当方の王族とかの特徴じゃなかったでしたっけ?」

「そうだそうだ! 俺もなんか引っかかってたんだよ!」

 

 んん? 違うんだよなぁとか一葉は思っていたが、否定しても勇者一行の中では一葉は訳あって聖女ラムの従者をしているという事で納得された。

 

「まぁ! あーしの従者するくらいなんだからぁ、そのくらいのハクがないとぉ? なれるわけないわよねぇ」

 

 とか適当な事を言う聖女ラム、魔女ラーダは「そうなのかひっくん? ワシ、ひっくんと婚意を交せば王女と言う事かのぉ?」とか言ってるけど「そうっすね」と適当な返しをするしか無かった。一葉が用意したほうじ茶を不思議そうにみんなが飲みながらほっこり一息ついている中、小鳥のような勇者一行の魔法使いの少女の使い魔が戻ってきた。そしてその小鳥が魔法使いの少女に耳打ちをすると、驚いた顔で、

 

「勇者様、シーアンドスカイの居場所が掴めました!」

 

 棚から牡丹餅というのはこういう事を言うのかと一葉は、鯖の味噌煮の下準備を終えて、荷物をまとめる。三人目の魔女退治の時間がこれから始まるのだなと、昼食を食べるのを忘れていたので、ソイジョイを齧っていたら、聖女ラムがてくてくと寄ってきて、小さな声で「何よそれ、あーしにもよこしなさいよ」と食い意地張ってんなと改めて一葉は笑う。

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