メスガキ聖女にスポンジケーキを与えてみた。

 一葉達、聖女一行がシーアンドスカイの足取りを探っている中、意味不明な状況と遭遇した。赤いニット帽に赤いニットの防寒着を着たサンタクロースが倒れているのである。

 

「サンタさんが倒れてるっすね」

「ハァぁ? サタンさん? こいつ悪魔なの? エクソシストにやられたんじゃない? ウケるぅ!」

「いや、サンタさんはいい子にしている子の所にプレゼントとかを無償でくれる玩具業界が生み出した偶像っすね。ガチのやつが実在してるとは思わなかったっすよ。てか、サンタさん、大丈夫っすか?」

 

 んんっとこちらを振り返ったサンタさんは思いの他若い女性に見えた。そして顔が真っ赤だった。三人は風邪でも引いたのかと思ったが、一瞬で違うと確信した。

 

「この女、クソ程酒を飲んで泥酔しておるなぁ」

 

 と魔女ラーダの言った通り、酒臭いのである。にへらと笑う女性に一葉はペシペシとほっぺたを叩いて水を飲ませる。「もうのめらいよぉ」と完全に酔っ払っているので「そんな変な女捨てていくわよ! 寒いんだからぁ! 早く町で暖かいスープでも飲まないと凍えちゃうわ!」と言う聖女ラムに一葉は「聖女様、毒消の魔法とかかけてあげてくださいっす」と一葉の提案に八重歯を出して、「はぁああ? アンタいつからあーしの事顎で使うようになったわけぇ? もしかしてあーしの男になったつもりぃ! こわーい!」男というのは彼氏という事だろうか、自分の妹みたいな聖女ラムと自分がと思うと、一葉はぷっと吹き出した。

 

「今なんで笑ったのヨォ! ねぇ? カミヤぁ聞いてるのぉ! ったく、アンチポイズン!」

 

 サンタさんの酔いが覚める。そしてキョロキョロと辺りを見渡して、「私、親切魔女さんにワインをもらってそれで暖を取ってたら……いけない! これ、子供達に配らないといけないプレゼントなのに!」とサンタさんの格好をした女の子は中味がぐちゃぐちゃになったプレゼントの箱を見て悲しそうな顔をする。

 

「それ、中身は何すか? お菓子っすか?」

「はい、麓の村に頼まれていた砂糖菓子、ケーキです。一年に一度だけ甘いお菓子が食べられるって喜んでもらっていたのにこれじゃあ……」

「残念だったわね! ケーキがなければパンでも与えとけばいいじゃない! じゃあーねー」

 

 と聖女ラムがそこを立ち去ろうとした時、一葉が「聖女サマもいい事言うっすね」と言うので魔女ラーダが「なんじゃ! ひっくん美味しいものか?」と三人のテンションについていけないサンタさんの格好をした女性。

 

「自分は神谷一葉、でこっちは聖女サマに魔女のラーダさんっす。貴女は?」

「私は向こうの町でお菓子職人をしているシャンタです」

 

 サンタさんじゃなかったが、サンタさんみたいな格好したお菓子職人のシャンタさん。一葉はキョロキョロと辺りを見渡して、手頃に腰掛けられる岩を見つけると、「ここを料理台にするっね」と言ってリュックからホットケーキミックス、卵、そして砂糖。聖女ラムは目を輝かせて、

 

「パンケーキじゃなぁい!」

「聖女、なんじゃそれは? 美味いのか? いや、美味いのだろうな?」

「馬鹿ね! 天にも昇るような気持ちと食感で一度食べたら忘れられないわよ! ざこざこカミヤが作った物の中でも5本の指には入るわねぇ! ふふん! あーししか食べた事ないんだから」

「いいのー! いいのぉー! ワシも食べたいぞひっくん!」

「あー、今から作るのはパンケーキじゃねーっすね」

 

 そう言う一葉を見て、信じられないという顔をする聖女ラム、世界が終わったかのような、あるいはレイプ目で一葉を見つめているので、ハァとため息をついて、

 

「このホットケーキミックスを使ってスポンジケーキ、もう一段豪華なお菓子を作ってみようと思うんすよ」

 

 豪華なお菓子という言葉を聞いて、聖女ラムと魔女ラーダは表情が緩む。そんな二人に一葉は、「このお菓子はシャンタさんの依頼分っすよ」と言うと絶望的な表情を見せた後に聖女ラムは、

 

「ちょ、ちょっとカミヤぁ! アンタ、あーしの料理番でしょぉ! 勝手にあーしの食べ物使っていいわけぇ? 神はあーしの為に食材用意してんのよぉ!」

「いやぁ、聖女サマ。一応世の為、人の為に仕事するようにアルバス神教会の方から言われてるんすよ? まぁ、どうせ信徒増やす為でしょうけど」

「そんなの知らないわよぉ! バカ? もしかして、カミヤはバカなのぉ?」

 

 この聖女様は滅茶苦茶言うなと思いながら一葉はスポンジケーキ作りを進める。パンケーキとは違い、牛乳を使わないスポンジケーキ作り、代わりに一葉は生クリーム作りを始める。

 

「果物なんかがあるともっといいんすけどね。聖女様か、ラーダさん、火もらっていいっすか? ダッチオーブン使ってみるっすよ」

 

 じゃじゃ〜んと一葉はキャンプ道具のダッチオーブンを取り出すと適当な石で作った火おこし台に置いて、「聖女様かラーダさん、早く火!」と一葉に煽られて聖女ラムはプクーと怒りを露わにしている中、魔女ラーダが「ファイアーじゃ!」と火おこし台に火が灯る。そこで鼻歌を歌いながら一葉はダッチオーブンを楽しそうに見つめているので聖女ラムが、

 

「何その鍋? カミヤぁニヤニヤしてキモいんですけどぉ」

「聖女サマぁ、鍋じゃなくてダッチオーブンっすよ、こいつがあれば料理の幅がぐっと広がるっすよ。今まで以上に美味い飯が約束されるっす」

「はぁああ? そんな黒い鍋でぇ? そんな大きな口聞いて大丈夫なわけ?」

 

 ふふんと一葉はダッチオーブンを眺めながら「ノープロブレム」と答えるので「何語よそれ、キモっ!」と聖女ラムは岩に腰掛けて一葉の調理している姿を見ながら「お腹すいたんだけどぉ!」と煽って見るが楽しそうに調理している一葉を見てだんだんイライラしてくる。

 

「ひっくん、そのダッチオーブンとやらはそんなに凄いのかぁ?」

「俺の世界でも旧石器時代って超昔から使われている古い道具なんすけど、これ一つで一般的な調理のほぼ全てが可能になるっすよ」

「こんな場所でオーブンの代わりになるなんて凄いです」

 

 シャンタさんはお菓子職人だけあれそれがどういう物なのか理解し、一葉は「村に子供さんは何人くらいいるんすか?」「十人です」というので、一葉は「まぁ、十分全員分足りるっすよ」とスポンジケーキをしっかり冷やしてから、一葉は「その村に行きましょうか?」と言うので全員が生クリームはどうするのか?

 

「カミヤぁ? このクリームはあーしが舐めてもいいわけ?」

「ダメに決まってるでしょ。子供達に配るときに塗ってあげるんすよ」

 

 ケーキの準備ができた一行はシャンタさんが依頼を受けた村へと向かう。村人総出でシャンタさんの到着を待っていたわけで、その他三人がついてきている事に村長が尋ねる。

 

「シャンタさん、こちらの方々は?」

「村長さん、こちらアルバス神教会の聖女様とその従者の方々です! 実はここに来る道中で依頼されていたお菓子を落としてしまいました」

 

 えっ……と一瞬で暗い顔をする中、シャンタさんはイベントのお姉さんばりに続きを語る。

 

「そこで私を助けてくれたのが聖女様達なんです! 今回ご用意するハズだったお菓子より、もーっともーっと美味しいお菓子を聖女様達がご用意してくれたんです!」

 

 聖女様達という風に言って欲しいと言ったのは一葉、これで聖女ラムの自己顕示欲も満たされつつアルバス神教会の名前も売れる。まさか異世界で宗教勧誘する事になろうとは思いながら一葉は作ってきたスポンジケーキに生クリームを塗っていく。

 

「ほい、シャンタさん、聖女様、ラーダさん、子供達に配ってあげてくださいっす。自分は人前に出るようなタイプじゃねーっすから」


 面倒臭いという表情を見せた聖女ラムだったが、目つきの悪い一葉が聖女ラムに頼む、そう! 聖女ラムは誰よりも自分の容姿が優れていると思っている。そして実際優れた容姿を神から与えられている。

 

「何? なになに? 確かにぃ! あーしが配ってあげればぁ? 神の施しに等しいけどぉ! そんなにあーしに配って欲しいわけえ?」

「配って欲しいっすね! お願いします」

 

 素直に頭を下げる一葉にめちゃくちゃ気分を良くした聖女ラムはシャンタさんと魔女ラーダと共に子供達に生クリームのたっぷり乗ったスポンジケーキを配る。ダッチオーブンにテンションを上げた一葉が思いの外大量の作ったので村人全員に行き渡る。

 

「全員に配るとか聞いてないんですけどぉ! お腹すいちゃったじゃない! どうすんのよカミヤぁ!」

「そうじゃなぁ、ワシも空腹じゃて」

 

 とお仕事を頑張った二人に一葉はケーキを残していた。そして暖かい紅茶も淹れて、

 

「はい、二人ともお疲れ様っす! 疲れた時は甘い物らしいっすからどうぞ」

 

 子供達に配っていて美味しそうだなと思って我慢していたお菓子が今、目の前にある。聖女ラムと魔女ラーダは一葉からそれを受け取ると、

 

「全く! 当然よ! 当然! あーしにこそ似合うお菓子じゃない。あーん、ん? むっはーーん! 甘くて美味しいじゃない!」

「どれどれ、うむ美味いのぉ!」

 

 ケーキが嫌い子は殆どいないだろうとパクパク食べている二人を見ながら紅茶を飲んでいると、村人の一人が叫びながら走ってきた。

 

「大変だ! 大変だ! タイラントカリブーだ! 早く山に避難するんだー!」

 

 タイラントカリブー、なんだそれはと思って遠くに目を凝らすと、とち狂った目をしたトナカイの魔物、その中でも一際巨大な大きさを持つモンスター、あれの事かと、この村はあちこち修理した痕がある。時折あんなモンスターに襲われるのだろう。収穫物も荒らされるだろうし、きっとお金もかかる。この世界のお菓子の価格について一葉は明るくないが嗜好品が贅沢物である事は世の常、

 

「聖女サマ」

 

 と一葉が声をかけようとした時、口の周りにクリームをベッタリとつけた聖女ラムと魔女ラーダが、

 

「聖女、あの下賤の魔物共どうするんじゃ?」

「はぁ? あーしに立ち塞がるつもりなら全部地獄行きなんだけどぉ! で? カミヤは何?」

 

 あのモンスターやっつけてくれませんかと言おうとしたけど、そのつもりらしいので、一葉は変えた。

 

「ダッチオーブンで美味しいご飯作ってるっすね?」

「そんなのいちいち言わなくても当然なんですけどぉ? ほんとグズね」

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