メスガキ聖女にスルメイカを与えてみた

「従者殿、怪我はないですか?」

「おかげさまで」

 

 シーアンドスカイが立てこもっている砦は元々のトラップなのか、あるいはシーアンドスカイが仕込んだ物が聖女ラム一行を阻んでいた。が、勇者ディタと聖女ラムの前ではそんな小手先のトラップなどなんの痛痒を与える物ではなかった。一般人の一葉を守りながら余裕で砦を上る。

 そしてついに最上階、扉に聖女ラムが触れようとすると勇者ディタが止めた。

 

「聖女様、トラップがあるかもしれません! ここは私が」

 

 そう言って勇者ディタが剣で扉を破壊する。そんな様子に一葉が「すげー」と感嘆の声を上げると、聖女ラムは頬を膨らませて、「はぁ? あんなのあーしでもできるし! トラップとかあーしには効かないしぃ!」とこれまた小さい事を言う聖女ラム。扉の先、監視台なのか広い空間だった。そこで待っていたのは赤いフードを被った女性。ゆっくりとこちらを振り返る。

 

「アルバスの聖女か」

「そうよ雑魚魔女! アンタなんかあーしがボコボコにしてやるんだからぁ!」

 

 と喚く聖女ラム、そんな聖女ラムを一瞥してシーアンドスカイは「従者は黙っておれ、数百年に渡る積年の恨み、ここにてはらし、聖女の血を持ってクッカーニャの始まりとする! 剣を使うか、聖女。良い、ならば我も剣を持ってその首もらおうぞ!」

 

 状況としては魔女シーアンドスカイは勇者ディタを聖女として認識し、聖女ラムをただの従者と捉えているらしい。

 ぐぐぐぐぐと歯を食いしばる聖女ラムに、一葉が、

 

「聖女様、めっちゃ勘違いされてますよ」

「うっさいわね! わかってるわよ! アンタ! 雑魚魔女! 聖女はあーし! あーしが聖女なんだから、アンタ馬鹿なの?」

 

 そう喚き散らし、聖女ラムをチラリを見たシーアンドスカイは「そんな手に乗るほど、若くはなくてな。クレリックの稚児よ。聖女を守りたい気持ちは分かるが、そちが聖女とは笑い種にもなりはせぬ! 行くぞ! アルバスの聖女!」

 

 ダメだ。

 何を言ってもこのシーアンドスカイという魔女は聞く耳を持たないだろう。説明が通じない相手に何を言っても意味はないだろうと思っていた一葉だったが、ここには誰よりも煽るのが好きで、誰よりもバカにされるのが嫌いなワガママな女の子がいた。

 

「黙って聞いてたらいい度胸じゃない! 神よ神、我が眼前に立ち塞がる愚か者を抹殺する力を! カミヤぁ、アンタはゴハンの準備してなさい」

「りょーかいっす」

 

 勇者ディタが構える剣、そして何もない所からシーアンドスカイは銀色一色の剣を取り出すと対峙し、お互いの刃が触れ合う瞬間。

 

 ぴきんと、勇者ディタの剣、そして魔女シーアンドスカイの剣を聖女ラムは指で掴んだ。そして、「アンタ死刑だからぁ!」と高下駄を履いている足を天高らかに上げて、そしてそのまま魔女シーアンドスカイの頭に踵を落とした。

 突然のことに魔女シーアンドスカイは直撃し、倒れる。

 

「勇者、アンタは下がってなさい! あーしがこの魔女は天に還すんだからー! もう終わり? ざーこ、ざぁーこ! トドメよ」

 

 聖女ラムは手のひらに光の玉を呼び出すとそれを魔女シーアンドスカイに向け、そして放った。それは光のシャワーのように降り注ぐ。結構な大ダメージを受けてそうな魔女シーアンドスカイ。されど彼女は立ち上がった。

 

「そうか、本当にそちが聖女なのだな? あの時も同じように我を不意打ち、そして真理の牢獄に放り込んでくれたものだ。許すまじ! あの恨み、怒り、孤独の前にはこんな痛みなど毛程も感じぬ!」

 

 ゆらゆらと周囲の風景が歪む、そしてそれはチリチリと炎が待っているから空気が温められているシューリレン現象というものが起きていた。シーアンドスカイは何やら金属の容器のような物をコロコロと聖女ラム達側に転がした。

 そして、それに聖女ラムと勇者ディタも何が起きたのか気づいていないので、一葉が、ガス缶とかだとやばいなと、

 

「聖女サマ、ディタさん、あぶねーっすよ! ここ爆発するかもしれねーっす!」

「!!!」

 

 と二人に助言すると、勇者ディタは「トータルガード!」と、聖女ラムは「はぁ? 魔法も使えないアンタが何言っちゃってんの? まぁ、とりあえずセイクリッドガード張っとくどぉ!」

 

 二人の魔法防御を前に魔女シーアンドスカイはチッと舌打ちをしてそして両手を突き出した。

 その瞬間、

 

 ドゥという大きな音と共に砦の最上階部が吹き飛んだ。二人は一葉の助言の通りだった事に驚く、魔法でもなんでもないのに爆発が起きた。

 

「何故爆発すると分かった?」

「いやー、俺もキャンプとかでガスボンベ吹っ飛ばす動画とか見た事あるんで」

「何を言っている? 魔法の封印筒、1000年以上前に失われた物、何故ここに爆裂魔法が封印されていた事を知っているかと聞いているぅ! これは我が師、天上の魔女ゼシル・アルバトロスが作った禁術魔法兵器、知っているハズが」

「それがあんのよぉ〜! だって、あーしの従者よ! あーしの! アルバス神教会史上最高の聖女、このラム・プロヴィデンスの従者なんだからなんでも知っているに決まってんじゃない! ばーか!」

「いや、ガチで知らねーんすけどね」

 

 と偶然、ガスボンベ缶と魔法のアイテムとを見間違えただけだが、魔女シーアンドスカイの初動を完全に封じた。プライドの高い魔女が自分の作戦を見破られた事で狙いは一葉に変わった。

 

「お前は……殺す! ディザスターフレア!」

 

 シーアンドスカイの炎の魔法が放たれる。が、それを握りつぶすように消し去るのは楽しそうな表情を向ける聖女ラム。それはそれは嬉しそうな表情で、

 

「やらせるわけないでしょ? もう一度言ってあげよっか? ばーか! ざこ程よく喋るのよねぇ? ざぁーこ! カミヤぁ、何か美味しい物用意して待ってなさい! この魔女すりつぶしてかけて食べるんだから!」

「どっちが魔女っすか……まぁ、でも今回はちょっと自信ある美味い飯っすよ」

「はぁ? 何調子乗ってんの雑魚カミヤぁ、ちょっとお腹すいたから味見させなさいよ」

「味見って、あー、スルメイカならあるっすよ? ちょっと炙って食いますか?」

「何それ干し肉? まずそ、まぁいいわよこしなさいよ」

「じゃあ、聖女サマ、火」

 

 いつもの火をよこせアピールを聞いて眉間に皺を寄せる。でもその後、美味しい物が食べられるので「もう、ふぁいあー」とやる気なさそうに火を出した聖女ラム。その火に一葉はスルメイカを炙って、マヨネーズ、そして七味をかけて聖女ラムに手渡す。

 

「はいどうぞっす」

「何よこれ……あーしの教会の干し肉の方が美味しいでしょ。硬っ……何よこれ……ん? んんっ?」

 

 クッチャクッチャと行儀悪そうな咀嚼音を撒き散らした後に、見るからに表情が明るくなる聖女ラム。一葉は相当美味しかったんだなとビールを取り出すとプルトップを開けて自分もスルメイカを口に入れ、自分と聖女ラムだけ食べるのは悪いかと、

 

「ディタさんもスルメイカ食うっすか? けっこーこれ美味いやつを神様買ってきてくれたみたいっす」

「いただこう! 従者殿、しかし今はシーアンドスカイとの交戦中、くれぐれも私と聖女さまの近くを離れないように」

「あー、了解っす。はい、ディタさんもどうぞっす」

 

 スルメイカを勇者ディタにも渡し、勇者ディタもそれを咀嚼。その美味しさと、どうやら副産物的なパワーアップに「従者殿、かたじけない!」と魔女シーアンドスカイを聖女ラム、そして勇者ディタで挟んでいる。

 

「あのさぁー。ざこ魔女ぉ! あーしだけじゃなくてぇ? 一応、そっちは勇者なんだけどぉ? もうアンタ終わりだからね? 祈りの時間でも済ませないさい」

 

 プププと笑っている聖女ラム、ほんと性格悪いなと一葉は思っていると、勇者ディタが剣を向けて、

 

「魔女シーアンドスカイ、従者殿の作られる食べ物は神の加護がついている。聖女様のおっしゃる通り、もう貴女は終わりです! お縄につきなさい」

 

 再びシーアンドスカイは一葉を睨みつける。それは強烈な憎悪、メラメラと炎の魔素が周囲を焼く程に。「またぁ、貴様かぁ! さぞかし楽しいだろうな? そのような能力増強アイテムを使い無双する様は……いつもアルバスの連中は……」と苦し紛れの言葉を述べるシーアンドスカイに一葉は、

 

「シーアンドスカイさんでしたっけ?」

「なんだ?」

「シーアンドスカイさんもスルメイカ食うっすか?」

「!!!!」

 

 シーアンドスカイだけじゃなく、聖女ラム、勇者ディタも驚愕の表情を向ける。いちいちリアクションが大きい人たちだなと一葉はシーアンドスカイの魔素である炎でスルメイカを炙り、マヨネーズと七味をつけて、


「はいどうぞっす! 美味いっすよ」

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