メスガキ聖女の胃袋を現代飯で分からせる煽り耐性振り切った料理番のエクスカーション
アヌビス兄さん
メスガキ聖女にカレーライスを与えてみた
「お。お許しください! 聖女様ぁ!」
「はぁ? この椅子は喋る椅子なのぉ? ねぇ? カミヤぁ?」
「聖女様、それ椅子じゃなくて、ボコボコにした盗賊っすよ」
聖女ラム・プロヴィデンス。
数多の神々の加護を受けた紛れもない聖女。その力は死した者を復活させる神の奇跡すら起こしてみせる。
しかし、神は聖女たらしめる相応の造形を聖女ラムにお与えになったが、ただ一つ。作れなかったものがある。
それは……
聖女たらしめる性格。
聖女ラムは一言で言うなればどS、いや極Sの極みであった。今回も聖女ラムの見た目に油断し、話し合いを聞き入れない盗賊達を嬉々として成敗。聖女ラムはその頭領を椅子代わりにして、その他の連中には聖女ラムがいいと言うまで膝に岩を乗せた正座を強制している。
その光景をなんとも言えない満足した表情で見渡している。
頭領に助けを求める盗賊達の声、一人、また一人と痛みに耐えられなくなり気絶する度に、
「はいはいキュア! 誰が勝手に気絶していいって言ったけぇ? ねぇねぇ? ざぁこ! ザコ盗賊さぁん。てか、カミヤぁ。あーしお腹すいたんだけどぉ? ほんとカミヤも使えないわねぇ、ザコ盗賊さんと一緒じゃん?」
「そうっすか? そんな空腹なら、その辺に転がってるさっきまで盗賊のお頭さんが食べてた質の悪そうなワインとやたら臭うハムでも腹に入れたらどうすか?」
「はぁあああ! じゃなくてぇ!」
聖女ラムは椅子にしている盗賊の頭領を蹴り回す。
従者、ヒトハ カミヤ。もとい神谷一葉、22歳。
彼はスマートフォンを取り出すと、
「もしもし、神様っすか? はい、お宅の聖女様が空腹だって言うので注文してもいいっすか? はい、ゴールデンとジャワの中辛お願いします。あと、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、トマトジュースと牛肉を塊で400gくらいあればいいっすよ。あと、俺のお願いなんすけど、アレを1本」
「は! カミヤぁ、またどっかの神にあーしがお腹すいたからとか告げ口したわね! ほんと……てゆぅーかぁー何動いてんのよぉ! 椅子ぅ!」
「か、勘弁してください!」
一葉は動く度に蹴られる盗賊の頭領を可哀想だなぁと思いながら、うろうろする。石を膝に置かれている盗賊の下っ端に、
「鍋ってどこにあるんすか?」
「あ……」
喋るな動くなと聖女ラムに言われている盗賊は聖女ラムの顔色を伺うと、悪そうな笑顔で聖女ラムは答える。
「教えたら罪軽くしてあげよっかなぁ?」
上から見下ろしてラムがペロリと舌を出して言うので、盗賊達は我先にと……
“隣の部屋の物置です!“
と叫ぶので、ゾクゾクと紅潮させた表情で聖女ラムは、
「うっそぉー! こんな事で罪軽くなると思ったぁ? ねぇ? 思ったのぉ! ばーか!」
そんなBGMを聞きながら、一葉は鍋を火おこしするであろう場所に置くと、そこに指を指して、
「聖女様、火」
「は? なんで、あーしが……ってカミヤ、アンタ魔法一つ使えないんだっけ? ほんとザコ」
「まぁ、別に火出せなくても困らないんで、どのみち火なかったら、この神様がくれた食材調理できないんすけどね」
「分かったわよ。はいはい、ファイアー」
ボゥと火おこし台に炎が灯る。その様子を見て一葉はリュックから包丁を取り出す。メイドイン神様と書かれているそれで、ジャガイモを大きめに、にんじんを乱切り、そして玉ねぎはみじん切り、牛肉は一口台に切り分ける。
「ねぇ、カミヤぁ。まだぁ? ノロマなの?」
「そんなすぐ出来るわけないでしょ。普段霞でも食ってるんすか?」
そんな風に聖女ラムの相手もしながら、フライパンで牛肉と野菜を炒める。その間に鍋にトマトジュースを入れてサイコロ状のコンソメをポトンと落とした。
「聖女様、その質の悪いワインも使いますね」
「はぁああああああ! 盗賊が飲んでたザコワインよ」
指でちょんちょんと瓶を押すので、一葉は瓶を抑えて、優しく聖女様の悪い手癖の手に触れて止める。
「えぇ、ザコにはザコの使い方を教えてあげるっすよ。サイキョーの聖女様」
「今、あーしの事ディスった? ディスったでしょ? あー、ムカつく。そういう事言うんだ! もうこの盗賊全員死刑よ!」
えっ、なんで! という顔をする盗賊達。当然、一葉は知らぬ存ぜぬで調理を続ける。炒めた食材を鍋に入れてしばらく煮込む。その間にフライパンに水を入れてリュックから取り出した米を入れて火にかける。
鍋を確認すると一旦火から離してカレー粉を刻んでワインと一緒に入れかき混ぜる。その間にパチパチと沸騰した音が鳴り始めたフライパンの様子を見て少し火から離して弱火でしばらく煮る。そしてお米が膨らんできたところで再び火の強いところにフライパンを置いて加熱。一分少々立つと、火から離して蒸らす。
お米が炊けたかひょいとつまんで口に含む。一葉は頷く。我ながら美味しく炊けた。そして、聖女様の使う銀食器を取り出すと、それにお米を山の形に成型し、カレールーをかける。
そう、一葉が作ったのは、家庭でもアウトドアでも絶大な評価を得るカレーライス。それを水を一切使わない事でお店の味に近づけた少し手の込んだ物。
「聖女様、できたっすよー」
「遅いんだけどぉ! イライラする度にこの椅子蹴っちゃたじゃない!」
「まぁ、俺は全然痛くないんでいいっすけど、カルシウム足りてます? はい、カレーライスです」
「……何これ? 香りは……悪くないけど、まぁいいわ。んんっ!」
同じく銀のスプーンで一口ルーをスープのように食べて、聖女様は目を瞑る。そして饒舌に、
「見た目の具の少ないスープに思えていて、あらゆる食材、スパイスがふんだんに使われているわね。ふーん! あーしにぴったりな上品な食べ物ね。宮廷でもこんな料理食べた事ないわ。まぁ、やるじゃない一葉、褒めてあげる」
「そうっすか、どーもっす」
一葉もカレーライスを一皿軽めに盛って食べる。決して裏切らない美味しさ。その芳しい香りに拷問を受けている盗賊達の腹の音も高らかに涎が垂れる。
「何、なになに? 食べたいの? 食べたいの? じゃああげようかしら?」
古い、ジョークを使うんだろうなと一葉は思っていると、聖女ラムは頭上にカレーの入った銀食器を掲げる。
「はい、上げた! これから地獄にいくアンタ達がこんないいもの食べられるわけないじゃない! ばーか! ばーか!」
次から次によく口が回るなぁと思いながら、神様から送ってもらった缶ビールのプルトップをプシュッと開けて、一葉はこくりと飲む。
「……うま」
「ちょっとー! 一葉、一人だけ何飲んでるの? あーしにも出しなさいよそれ!」
「聖女様いくつでしたっけ?」
「じゅ・う・なな!」
「じゃあダメっすね! ほら、ここにお酒は二十歳になってからって書いてるんで」
「何語よ? あーしには読めないんですけどぉ?」
癇癪を起こした聖女ラムは王国の衛兵がやってくるまで、盗賊達を罵り、虐めながらカレーライスをそのワガママボディの栄養に変えていく。
これは、そんなちょっとアレな聖女様の
物語の始まりとは、大体。
始まり、始まりと始まる。
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