メスガキ聖女にパンケーキを早朝に与えてみた

 聖女ラムの朝は早い。

 一葉がスマホで確認したところ午前5時には既に起きて化粧、法衣を身に纏い、お勤め……前の、


「カミヤぁ! オヤツはまだなの? お腹が空いて祈りどころじゃないんだけどぉ!」


 じゅーじゅーと小さいフライパンでパンケーキを作る一葉。いや、黙ってお祈りしとけよと思うが、バターと甘い匂いにもう我慢できないんだろう。スーパーで100円位で売られているホットケーキミックスは偉大だなと思いながらお皿に山盛りにパンケーキを作って持って行く。


「バターと蜂蜜は適当に使って食べてくださいっす。俺はもう一眠りするっすよ」

「はぁああああ! アンタ、アタシの従者でしょ! アタシが祈りを捧げる時に惰眠むさぼるっていうの?」

「はい、俺無宗教主義なんで」

「はぁ、ちょっと……ほんとに寝るの」


 のそのそと部屋に戻っていく一葉の前に走って両手を上げてぴょんぴょんジャンプする聖女ラム。身体に似合わぬ胸が上下する


「ちょっとぉ! アタシが食べ終わるのを見てなさいよ」

「なんなんすか、寂しがり屋っすか?」

「ち、違うわよ! 別にアンタなんかいなくてもいいんだけど」

「じゃあねます」

「アタシが食べる姿を視姦してなさいよ!」


 ふっと鼻で笑う一葉に聖女ラムはぷくーと頬を膨らませる。煽っても煽っても全然ムキにならない一葉。もう寝る時間を取れそうにないなと思った一葉はインスタントのミルクティーを自分と聖女ラムの分注ぐ。


「もう仕方ないので起きてるっすよ」

「分かればいいのよ! 分かれば!」」


 あれだけ山盛りにしたパンケーキを一人で平らげたんだなと思うと呆れを通り越して尊敬すら感じる。日が昇り、本日は村でややこしい事を起こしている魔女とやらと話をつけにいく事になっている。話なんて最初からするつもりはないんだろう。大量のパンケーキを食べ終えた聖女ラムは満足したように、祈りをはじめた。後ろからその姿を見ている限りは聖女に見えるなと思う一葉。そんな一葉をちらりと振り帰って、面白そうに笑う聖女ラム。


「なぁに? もしかしてアタシを見て欲情してるのぉ? 見るだけはタダだもんねぇ? いいわよ。好きなだけ視姦なさぁい。おバカなカミヤぁ」

「いやぁ、口さえ開かなければ聖女サマは完璧なんすけどね」

「はぁああああ! アタシの説法を聞きに遠い国から貴族たちなんかもわんさかやってくるのよぉ! アタシが黙ってるとかありえないんだけど」


 そりゃ、一部の性癖がぶっ壊れた人でしょうよと一葉は言いたかったが、聖女ラムみたいな人間は反論すると次から次に喜んで何か口を開くので黙っているに限る。

 スマホを取り出して一葉は本日の予定、魔女との話し合いについて聖女ラムに伝えると、


「今日は、魔法使いの女ね。いいわぁ、どんなしょぼい魔法を使うのか遊んであげる」

「しっかり話を聞いてくれれば、遊ぶ必要もないと思いますけどね」

「バカねカミヤ、魔女なんて名乗っている連中、どうせ自信過剰で自分は負けないと思っている愚かな存在なんだからぁ! そもそも話し合いなんてできるわけないじゃなぁい! ばーかーばーか!」


 成程、確かにそうだろうなと一葉はその自信過剰で自分は負けないと思っている聖女ラムを見ながらシェイロ村に向かう。シェイロ村は小麦が有名な特産品らしいが最近周辺国からシェイロ村の小麦が出回らないという事で、調査に行った者が皆戻らなかったという。そこで魔女によって支配されているという情報を元にエクスカーション中の聖女ラムに白羽の矢が立ったらしい。滞在していた宿のある街から馬車でしばらく揺られシェイロ村の近くで下ろされる。なにやらこれ以上近づけないとの事らしい。


「辺鄙な村ね。カミヤ足元気を付けなさい。そこら中に魔法の罠を貼ってあるわ」

「どこっすか? 自分そんなの見えないんすけど」

「もう! 世話がやける従者なんだからぁ! アタシにつかまってなさい! こんな特別扱い普段はしないんだからね」


 聖女ラムはぎゅっと一葉の腕を掴んで引っ張り寄せる。ふくよかなな聖女ラムの胸に一葉の腕が降れる度。


「聖女サマ、あたってますけど」


 それはそれは嬉しそうに聖女ラムは一葉を煽ろうとした時、


「聖女サマ、痴女なんすか?」

「は、はぁあああああ! アンタ今、金粉を振りまく天使のようなアタシの胸に触れてなんなのその反応!」

「いや、どんな反応したらいいんすか?」

「だーかーらー! アタシに」

「聖女様、村についたっすよ」


 終始一葉に話の主導権を握られた聖女ラムはカンカンに怒って「殺してやるわこの村の魔女!」と物騒な事を言って村に入る。魔法とか一切知らない一葉でもまぁまぁシェイロ村がどえらい事になっている事を確信する。


「なぁにこれぇ、悪趣味ね」

「なんか人の気配がないっすね」


 そこら中に人形が吊るされている。どこにも人が見当たらない中、聖女ラムが人形に触れて、不快そうな顔をした。


「カミヤ、この人形全部集めて安全なところにまとめときなさい。この村の人間よ」

「マジっすか……」

「その辺に転がってる槍とか持ってる人形は衛兵とかこの村の警備だった連中かもね。魔法使いの女、じゃなくてこれぇガチの魔女じゃない」

「魔法使いと魔女って違うんすか?」

「全然違うんだけどぉ~! アンタ本当になんも知らないのね。どこの田舎から来たのよ。魔法使いは誰でも素質さえあれば学校に入るなり本を読むなりしてなれるわ。魔女はそうね。その魔法使いに精通した血族の中でケソケソやってきた連中。世の中で出回らない魔法が使えたり厄介だから、アタシの教会では纏めて魔物扱いよ」


 わかるようでわからない。要するにエリートなんだろうかと一葉は人形を集めながら話を聞いていると、箒に乗った女の子が頭上よりこちらを見つめている。


「おやおや、珍しく人間がやってきたかと思えば教会の聖職者かい? お祈りでも捧げてくれるのかのぉ?」


 さぁ、どうするんだろうかと一葉が思った時、聖女ラムは、


「神よ、神。この嘆かわしい者を抹殺する聖なる力を。セイクリッドフレア!」


 この聖女様やりやがったなと一葉が思ったところ、今まで弱い者いじめのように圧倒的な力で蹂躙していた聖女ラムの魔法。それも不意打ちを目の前の魔女は箒にのったまま何等かの魔法を使って凌いだらしい。


「クッカーニャの前の前菜に面白い余興よな? ワシの名は魔女。ラーダ、ピニャコ・ラーダぞ! 従者共々人形にしてやろう」


 そういう名前のカクテルが確かあったなぁと思った一葉は聖女ラムを見る。ぷるぷると震えている。まさか、はじめてのピンチに……恐怖しているわけはないかと一葉は思う。


「んたぁなんなのよぉ! アタシの魔法を、至高の魔法を受け流してぇ! 許さない、絶対許さないんだから! カミヤぁ!」

「はい?」

「お昼ご飯用意しときなさい! この魔女ぶっ潰して眺めながら食べるんだから!」


 こんな時まで食事の心配とはさすがの一葉も驚いて出た一言。


「マジか」

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