メスガキ聖女に夜食として日清のカップヌードルを与えてみた

 聖女ラムは聖なる鐘だという物のミニチュアサイズがついた厚底ブーツをカランカランと鳴らしながら歩く。まさに、大名行列の先払いが下にぃ下にぃと土下座を促すように、ここに聖女が通るという事を主張しながらそんな聖女ラムの後ろを歩きながら一葉は今回、アルバス神教会の信徒達からリークがあった情報、シェイロ村という小さな村が一人の魔女によって支配されているという。

 要するに、アルバス神教会の縄張りでなにやってくれてんだボケぇ! という事で、やはり宗教というのはやの付く信仰業なんだろうなと一葉は一人で納得していた。


「ねぇ、カミヤ。そのちっちゃい村で調子のってる魔女。あーしにたてつくかしら? たてつくわよね?」

「さぁ、どうすっかね」

「はぁ? カミヤの分際でなにあーしの意見に同意しないのよ! なにおしおきされたいのぉ? やだぁ! こわーい」

「俺の仕事は聖女様にえ、じゃなくて食事作る事っすから」

「アンタ今、餌って言おうとしたでしょ! ざこざこの癖に裏ではそんな風に思ってるわけ? さいてー」


 よく喋るなと思う。朝も朝でおはようございますの返しが、朝からアタシの顔が見られてよかったわねときたものだった。聖女ラムは自分に自信がある。聖女という自分の肩書でちやほやされるのも、男を誘っているような優れた容姿を舐めまわされるように見られるのも、全てが心地よいと考えている。承認欲求が満たされる事が約束されたらこんなモンスターが産まれるんだなと一葉は感心すらしている。

 そして彼女の自信は何者にも自分は負けないという自負がある。事実、同じ人間とは思えない程の戦闘能力を聖女ラムは誇る。その為、今回詐欺を働いているのか、魔女とやらはさっさとごめんなさいしておいたほうがいいんだろうなと一葉は思う。


 色んな所をみせつけるように悪い顔をする聖女ラム、一葉はこのラムを見ていると自分の妹二人を思い出す。そしてそこから導き出されるアンサーとして。


「ふっ、ないな」

「はぁあああ? なにがないのよぉ! まさか、夜食用意してないの?」

「いやいや、夜食はあるっすよ! ほいこれ、日清カップヌードル」

「ちょっとー。なによこれぇ!」

「まぁ、ちょっとした魔法っすよ。聖女様、お湯沸かすので火」

「あんたぁ! あーしの事、火を出す軽い女だと思ってない?」

「いえいえ、火を出せるいい女だと思ってるっすよ」

「ははーん、アンタも夜な夜なあーしの事考えてベットで悶々と知ってるってこと? きもーい!」

「お湯、沸いたんでカップヌードルの蓋を半分開けてここにお湯を注ぐっす」


 そして熱した薬缶を垂直に蓋につけて再び蓋と容器をくっつける。カップヌードルの伝統的な作法を一葉。そんな一連の動作を見て何か口を開こうとした聖女ラムに向けてリュックから銀のフォークを取り出す一葉。それを持ち手を向けて聖女ラムに差し出す。

 最後に砂時計を聖女ラムの目の前に置く。


「この砂時計の砂が全部落ちたら蓋を開けてみてくださいっす」

「はぁ? なんでそんな面倒な事しなきゃいけないのよぉ!」

「カップ麺作るの面倒とか、DQNくらいっすよ。まぁ騙されたと思って」


 ぶーぶーぶーたれるが3分という時間、砂が落ちる事を確認すると年相応の少女のように目が輝きだす。


「ほら落ちたわよ! こんな物が魔法だなんて、舐めてんのアンタ? 蓋を取ってなんにもなかったら死刑よ死刑!」


 ぺろりと蓋を外した時、そこに今までかいだ事のない濃厚なスープの香り、どうやってそこにあったのか分からない食べ物を前に聖女ラムはしばし言葉を失った。


「へぇ、へぇ、まぁ。この程度の魔法? で調子のんじゃないわよ! カミヤぁ! しかたがないから食べたげるけどさ。うま! ちょっとなによこれ! こんな小さい容器の中に肉、エビ、野菜に卵まで入ってるなんて……こんな物いつ作ったのよカミヤ! ざこざこの癖にぃ!」

「3分前、お湯いれた時っすね」


 まぁ、それ以上言いようがないので一葉は聖女ラムの煽り攻撃でも待とうかと思ったが、


 もっもっも、ずずー! むしゃこらとカップヌードルに夢中のようで咀嚼音以外は静かだなと思っていると、発泡スチロールの容器をガンと置いて、聖女ラムはむっちりとした足を組むと、真っ白いマニュキアの塗った足を見せながら、


「仕方がないわね! お代わり、もらってあげるんだから感謝しなさい!」

「いや、それで終いっすよ。なんなら非常食っすからね。というかとりあえず寝て、その魔女とかいう人のところに話つけに行きましょうよ。そしたら神様に電話してなんか送ってもらうっすから」


 食材の消費が異常に激しく、神様から依頼は一善と交換という制度に変わった。何故なら、聖女ラムは一葉の作り、出してくる食べ物が美味しすぎて半ば職業を放棄するくらいあったわけで、神様もこりゃ流石にいかんとこの制度に変わった。


「はぁああああ! 神ってあーしの事好きな癖になんでそんな事するのよ! カミヤ、あんたなんか言ったんじゃない?」

「聖女様が食い過ぎるからっすよ。流石に一にち五回も依頼したら神様じゃなくてもやべー奴認定されるっすよ? とりあえず明日に備えて寝ましょーよ」


 あくびをしながらそういう一葉に「カミヤは毎日寝ないとよわよわよねぇ、あーしなんて神の加護で一週間は寝ずとも大丈夫なんだけど」「へぇ、普通にすげーっすね。でも自分寝るの好きなんで、おやすみなさい」「ちょ、ちょっとどこ触ってんのよぉ!」「聖女様の背中っす。俺の部屋からでて自分の巣に戻ってください」


「巣? 巣って今行ったわね! カミヤ、アンタほんと許さないんだからね!」

「はいはい、いいこにしてたら今度リコリス飴買ってあげますから」

「はぁあああ? ……そのリコリス飴、美味しいんでしょうね?」


 いや、クソまずいと言おうと思ったが、一葉は聖女ラムを真剣に見つめる「な、何よ」というのでただ微笑む事にした。それに赤面する聖女ラムはいくらか一葉をディスって部屋からでていった。

 毎晩寝込みにやってきては夜食を所望される。これまぁまぁブラックな仕事だなと思いながら一葉は目を瞑った。

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