メスガキ聖女の補給食にニョッキのカルボナーラソースを与えみた
「聖職者と魔女、相容れぬものよの! 魔術の探求の為に欲深いか、私腹を肥やすために欲深いかの違いでしかないのに、闇の風よ全てを包め!」
「はぁああああ? あんたらジメジメしたところでケソケソやってる根暗とあーしを同じにしないでもらえるぅ? ちょっと同じところにいるとかいつから勘違いしてたの? 神の慈悲を持って光のカーテンで遮りなさい!」
ちゅどーんと、聖女ラムと魔女ラーダの魔法の攻防が繰り広げられている中、一葉は村の中を探すと、小麦粉の袋が見つかったので、銀貨を一枚置いてそれを貰う。現在手持ちの食材が全くない状態なので、一葉はスマホを取り出すと電話をかける。
「もしもし、神様っすか? あーはい、聖女様の昼食の食材なんすけど、頼みすぎ? いや、聖女様に言ってもらえるっすか? 毎日三食と4,5回のオヤツを所望されていれば何度も依頼する事になるっすよ。保護者である神様の責任じゃねーすかね? こっちは過剰労働の追加費用請求してもいいんすよ? えぇ、はい。送ってくれる。最初っからそう言ってくださいっす。じゃあ、今日はジャガイモを1キロ程。黒コショウとベーコンと牛乳、バターと粉チーズももらえるっすか? ピーチソーダと白ワインもお願いするっす」
村の食堂のような場所を見つけたのでそこを借りる。大きな鍋を一つ。フライパンを一つ。リュックから取り出すと周りを見渡して井戸を見つけた一葉は水を取ろうとするが、枯れている。
「あのぉー! 聖女サマか魔女さん、鍋に水入れてもらっていいっすかぁああ!」
大声で交戦している二人にそう言うが、二人とも目の前の相手に集中しているので無視、すると一葉は、
「水一つまともに出せないんすかぁあああ?」
と大声で聞いてみる。
「うっさいわね! アクアスフィア!」
「下郎がそれくらい朝飯前よ! ウォータートルネード!」
飛んでくる水の魔法を離れたところで鍋を上手く動かして水をすくいとるように入れる。聖女ラムと魔女ラーダは水の魔法を放った隙をついてお互い、火の魔法。土の魔法とお互いにクリーンヒットする。
「聖なる炎に焼かれて貧相な裸をさらけ出しなさい! セイクリッドフレア!」
「でぶでぶと肥えたからだを細くしてやろうか? 大地の怒り、スラッグバイト!」
キラキラと輝く炎と地面から飛び出た巨大な石の銛がぶつかり合う。一葉はそこらへんに転がる石の銛を拾ってそれでコンロを作ると、木の棒に聖女ラムが放った炎を近づけて燃料にする。水が沸騰するのを待つ間。粉チーズと卵を混ぜる。今回一葉が作ろうと思っている物はカルボナーラである。一般的に難しいと言われているソースだが、この方法を使うと各段に楽になる。
次にパスタ。
今回は……
「この地域は小麦が有名なんっすよね。じゃあニョッキでも作ってみるっすか」
ジャガイモを全て茹でて潰す。完全にマッシュすると小麦粉と塩、そして粉チーズを入れて混ぜる。小さじ1ない程の水を足して生地を纏めていていく。それを棒状にすると1cm間隔でサクサクと切り分ける。それらを次々にフォークで型を付けていく。先ほど沸騰させたお湯に塩を入れて少しかき混ぜるとニョッキを投入。
「もう、いい加減に観念なさいよ! その魂強制的に浄化するわよ! この洗濯板!」
「くそっ、いくら呪いをかけても一瞬に解除しよって! 忌々しい! 脂肪の塊が吹きよるわ!」
まだやってるのかと二人の罵りあいをBGMにニョッキが浮かび上がってくると一葉はさっとそれらをザルにとって水を切る。自家製ニョッキの完成。
一つ摘まんで齧ってみる。
「おっ、本当にいい小麦っすね」
ちゃんと味がある。これは自分の元の世界でも中々の物だなと思いながらよく考えればここの村の人がしっかりと育てているわけで、自分の世界なら高級品だなと納得する。
パスタが出来たら次はソース。フライパンに大きめに切ったベーコンをバターで炒める。そこにニョッキを茹でたゆで汁、そして牛乳を入れる。ここにニョッキを全部投入して絡めると食堂にある大きな木製のお皿を軽く拭いてそこにフライパンの中身を移すと、最初に卵と粉チーズを混ぜた物を絡めてカルボナーラソースの完成。
ブラックペッパーを振ると一葉は、
「聖女様ぁ! お昼ご飯できたっすよー!」
一葉の声に聖女ラムと魔女ラーダの動きがピタリと止まる。見た感じ、魔女ラーダはよく聖女ラムに食らいついているなと言った感じだ。一葉の知る中で聖女ラムに瞬殺されなかった相手は初めて見た。終始見ていたわけじゃないが、お互いの見た感じのダメージからして魔女ラーダは一杯いっぱいに見える。聖女ラムが巨大な光の球を掲げてそれを今投げつけようとしているところだった。
「そう! ざこ魔女待ってなさぁい。ランチタイムだから、あとで殺してあ・げ・る」
魔法を止めて、一葉の元に歩いてくる聖女ラム、それはそれは嬉しそうに、しかし一葉を見ると、
「カミヤぁ! なんなのよ! 遅いわね! で、これはなに?」
「ニョッキのカルボナーラソースっすよ」
「ふーん、チーズ? まぁいいわ。フォークよこしなさいよ!」
一葉が聖女ラム専用の銀のフォークを渡すと聖女ラムはニョッキをカルボナーラソースに絡めてぱくりと。
「んんっ! なによこれ! こんなソース作れるならカミヤ最初から作りなさいよ! まぁまぁ、美味しいじゃない」
「そりゃよかったっすよ。ん、んまいっすね」
聖女ラムの銀杯にピーチソーダを注ぐ。しゅわしゅわと発泡して桃の香りが広がるそれに聖女ラムは香りを楽しんでから口にする。
「カミヤにしてはいいちょいすじゃない! ざこなりに頑張ったわねぇ」
「そうっすか? まぁ、俺だけワイン飲むのも悪いかと思ったんで、そのジュース妹が好きなんで聖女様も好きじゃねーかと思ったんすけど当たりでしたね」
魔女ラーダを放置してランチタイムを楽しむ一葉と聖女ラム。その姿と美味しそうな匂いに吸い寄せられるように魔女ラーダはやってきて……
「その、なんだ。非礼ではないか! 戦いの最中に、その食事など」
「アンタも食べればいいじゃない」
「くれるのか?」
その言葉を聞いた聖女ラムはニタリと悪い笑顔をみせる。そしてニョッキをぱくりと食べて、
「あぁ、おいしいわぁ! でもこれはぜーんぶあーしのだから、アンタにあげる分はないわね。あとでお皿くらいは舐めさせてあげてもいいけどぉ! それか、あーしに負けたってひれ伏せばぁ……少しは考えてあげてもぉ! いいけど」
屈辱。
もうこのまま戦っても恐らく魔女ラーダに後はない。どうせならこの美味しそうな料理をとひれ伏しそうになった時、
「魔女さん、沢山あるんでどうぞっす! ただ、もう悪い事しないって約束してくれれば食べていいっすよ」
魔女ラーダは自分の前に一葉がニョッキのカルボナーラソースを差し出してくれるので驚いた顔で一葉を見つめる。無表情の一葉が魔女ラーダからすれば、とても凛々しく見えた。
「はぁああ! カミヤぁ、アンタなにかってな事してんのよぉ! これはあーしのお昼ご飯なんだからぁ!」
「自分のでもあるんすよ。だから自分の分を魔女さんに分けてあげてるだけっすよ。どうすっか?」
魔女ラーダは今までこんなに異性から優しくされた事はない。近づいてくる者も魔女としての自分の価値を利用しようとするようなろくでもない連中ばかり、当然恋なんてしたこともない魔女ラーダは乙女だった。
「はーい! もう悪い事せんぞー! なぁなぁ、聖女の従者。カミヤというのかぁ?」
「神谷一葉っすよ」
「じゃあ……ひっくんって呼んでいいかの?」
「別にいいっすよ。ほら、冷めない内にどうぞっす」
「わーい! いただきまーすだ! うまぁああああ!」
聖女ラムはこの状況が面白くない。一葉は自分の為だけに料理を作っているのに、それを誰かに分ける。それもなんかいい感じに、
「魔女ぉ! アンタ食べるのやめなさいよぉ! どうせこの後あーしにぎたぎたにされるんだから、食べ物が勿体ないでしょ!」
見た目は幼くとも魔女ラーダは成人、白ワインを揺らして飲むと、ぽーっと一葉を見つめながら、
「あぁ、魔女な。ここの人間元に戻して私はお前たちの行いの従者になるからもう悪事はせんよ。ねー? ひっくん!」
「はぁ? はぁああああああ? 却下よ却下!」
エクスカーションに新しい仲間が増えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます