メスガキ聖女とメスガキ魔女に餅をオヤツに与えてみた

 むにー! ぐにー! と川辺にある大きな岩に仲良く腰掛けて聖女ラムと魔女ラーダは一葉が作ったお昼ご飯兼オヤツの焼き餅を楽しんでいた。餡子ときなこ、それだけなのに永遠に食べていられるような甘味。

 

「カミヤぁ! もうこの食べ物ないわよぉ! 早く焼いて持ってきなさいよぉ? ほんとグズなんだからぁ」

「ひっくーん! おかわりぃ!」

 

 食べる事に全振りしている旅の連れが一人増えた。一葉は神様から送ってもらった切り餅を網で焼きながら、焼くペースを軽く上回るスピードで食べる二人にため息が出る。1kgの切り餅を三袋送ってもらったのだが、現在二袋目、お餅一つはご飯一膳分だが、確かに年末から年始まで餅は異様腹にに入る。

 

「まだ焼けてないのでちょっと待っててくださいっす」

「はぁああああ? おっそ!」

「ひっくん、お腹ぺこりぃ」

 

 一つ返すと二、三は返ってくる二人に対して、一葉は無視すると次の仕事先についてスマホを確認する。一葉もどういう仕組みなのか分からないが、教会からの聖女ラムへの仕事の伝令が一葉のスマホ宛にメッセージ変換されて飛んでくる。本来は神秘の宝玉なる水晶に映し出されるらしいのだが、一葉が聖女ラムと出会った時にはすでに聖女ラムはそれを落としてバッキバキにしていた。画面割れしたスマホを持つ妹たちに通じるところがあるなと思ったが、そんな見るに耐えない水晶だった物を従者である一葉に渡したところ、スマホと一体化した。

 

「聖女様、次の行き先は最近力をつけてきた新興団体。ネロラスター教団が色々やらかしてるっぽいんでそこの状況確認と場合によっては断罪になります」

「ネロラスターきょうだぁあん? ヤぁねぇ、そういう意味不明な連中、害虫みたいに潰しても潰しても出てくるんだからぁ、そんな事より早く、その“おもち“持ってきなさいよ! この甘い砂みたいなのかかったのよ!」

 

 二人とも甘味には目がないが、どちらかといえば聖女ラムはきな粉餅派で、魔女ラーダは餡子餅派らしい。

 

「聞いた事あるぞ? なんでも人身売買、売春、巨額のお布施、メキメキ力をつけてる連中よなぁ? まぁ、どうでもいいけど、ひっくんマダー?」

 

 本来生死構わず討伐対象の魔女。その一人であるラーダがここにいるので、教会からの依頼として記載のある他の魔女について一葉はラーダに尋ねてみる事にした。

 

「ラーダさん、他の魔女について教えてもらってもいいっすか? なんか、ラーダさんを含めて四魔女の討伐依頼も別件できてるんすよね? これ以外の情報ってあるっすか?」

 

 ピニャコ・ラーダ、今目の前でもっちゃもっちゃと餡子餅を楽しんでいる魔女。シェイロ村を支配し村の人たちを人形にした大罪人。道中にあるアルバス神教会に引き渡し予定で同行中。

 

 ニティアフィ、これから向かう街、そこでネロラスター教団を立ち上げた疑いがあり、近辺に謎の塔を建造しているらしい。アルバスの神以外は神にあらずというどっちもどっちな考え方の宗教戦争が勃発しそうな予感。

 

 

 シーアンドスカイ、かつてアルバス神教会の武装神官団により討伐封印されていたが、最近何者かによって封印が破られ脱走。各地のアルバス神教会の信徒達に被害が出ている。早急に聖女ラムによる怒りと慈悲の鉄槌により抹殺を望むとある。

 

 ニコラシカ・キラーガール、英雄でもある伝説の魔女ゼシル・アルバトロスを師に持つ。師匠と違い、心までは育ちきらなかった為、突如現れては災害のようにあらゆる厄災を振り撒く現在もっとも警戒すべき魔女。四魔女を集め、悪魔の儀式。クッカーニャを始めようとしている。この魔女に関しては慈悲を与える必要はない。聖女ラムの全ての力を持ってして撃滅されたし。

 

 残りの餅をこのまま食べさせるとすぐに無くなりそうなので、一葉は水と餡子を鍋に入れてぜんざいを作り始める。餅ぜんざいであればお腹にも溜まるし、もう少しは持たせられるだろうと希望的観測。

 

 餡子で口の周りを汚しながらラーダはそれらの話を聞いて不快な顔をする。なんだろうと思ったら、

 

「ひっくん、なんだかこのピニャコ・ラーダが一番小者のような扱いではないかぁ……不満だなぁ」

「フン、他は知らないけどぉ? アンタ小者じゃない! カミヤと同じでぇ、ざこだしぃ! まぁ? あーしにかかれば他の魔女もみんな同じようになるんだけどねぇ!」

 

 魔女ラーダ相手に圧倒的な力を持って制圧した聖女ラムがそう言ってきなこ餅をもっちゃもっちゃと食べる中、ラーダが他の魔女について語った。

 

「二ティアフィは知ってるなぁ。ぞくに言う神になりたい魔女よな? 他よりも強力な魔法力と、様々な知識を持っているが故にそう考えるだろうて」

「ラーダさんはそうじゃないんすか?」

「ひっくん、馬鹿にしてもらっては困る。わしは魔女らしく工房を持って魔法研究に熱心なだけじゃ」

「まぁ、それでも誰かに迷惑をかけるのは褒められたもんじゃねーっすよ?」

「それは反省してるんじゃ! シーアンドスカイに関して話は聞いた事があるが、殆ど知らん。ゼシル・アルバトロスに並ぶ伝説の魔女だからのぉ、ワシ等の知らない古代魔法を様々使えるらしいがなにぶん顔合わせをする前に捕まってしまったしの、ただ……最後の魔女。ニコラシカは何を考えているか本当に分からん。神話に語り継がれた儀式クッカーニャに興味があったからワシも付き合うつもりだったが、魔女の集会ワルプルギスからも追放されているヤバい奴だという事は肝に銘じておったほうがいいかもの」

 

 わかるようでわからないが、この話を聞くと、やはりラーダが小者というか、一番まともな魔女である事が伺える。順番にヤバい連中なんだろうかと出来上がったぜんざいを混ぜていると、

 

「ちょっとー! お餅が遅いと思ったら何作ってんのよぉ? この甘い豆のスープ? 何それぇ?」

「ぜんざいっすよ。ここにお餅を入れて煮込んで食べる甘いお菓子っす。丁度肌寒いし、美味いと思うっすよ? 付け合わせに塩昆布で食べるのが定番っすね。もう完成なのでお待ちどうさまっす」

 

 器に三人分よそうと聖女ラムと魔女ラーダに渡して、自分の分も持つと適当な岩に座る。

 

「ふーふー、まぁまぁじゃない! お餅もトロッとしてまぁまぁね」

「ひぃくん、ワシは聖女と違っておいしーって言ってやるぞ? うん、この餡子、たまらないぞぉ!」

 

 そんな風に満足している二人に一葉も本日初めての一食目を食べながらそこそこの味になったなと思いながら食事の話題に聞いてみた。

 

「それにしてもクッカーニャってなんすか?」

 

 その言葉に聖女ラムと魔女ラーダも食べているフォークの手が止まる。それに一葉が次の言葉を待っていると……

 

「カミヤぁ、アンタバカでざこだと思ってたけどぉ、クッカーニャを知らないわけないじゃない。あんまり面白くないわよ? 言葉を覚えたての子供でも知ってる超魔導士の魔物討伐物語じゃない」

「何すかそれ?」

 

 本当に知らないという反応を見せる一葉に聖女ラムは付き合ってらんないわと、勝手にぜんざいをおかわりして話を終了させるので、続きは魔女ラーダが話してくれた。

 

「ひっくん、本当に知らんのか?」

「えぇ、このあたりの事は全然知りませんよ」

「かつて、魔法を生み出したことから魔法の母と呼ばれた超魔導士ドロテア。聖女ラムのアルバス神教会が信仰している存在だの。ワシたち魔女の祖でもある。そしてそやつが、世界を喰らう魔物を討伐する為にある儀式をしたんじゃ。世界を喰らう魔物は人の負の心が好きでな? それを餌にする。超魔導士ドロテアは、何をしたと思う?」

 

 分からないと反応する一葉に少しばかり楽しそうに魔女ラーダは少し間を置いて話を盛り上げるようにこう語った。

 独裁国家の王をたぶらかして、たくさんのご馳走やお菓子を料理人達に作らせた。そして飢えた国の民、果ては各国の飢えた人々を集め、ご馳走の奪わせ合いをさせた。王と貴族達は上からその光景を眺め楽しむ。

 そんな狂気の祭の最中、世界を喰らう魔物が現れ、国ごとその狂気の祭宴を飲み込んだ。

 当然、超魔導士ドロテアは誘き出した世界を喰らう魔物をそこで滅ぼすわけだが、国一つ、さらに想像を絶する命を一夜にして消失させた事件。

 それは、

 

「欲望に塗れたら世界を喰らう魔物がきて食べられるわよ。あるいは超魔導士ドロテアにお仕置きされるわよって言う子供を躾けるためのくだらないお話よ! そんなの魔女は起こそうとしてるのぉ? やっぱ懐古連中の考えることってわかぁんなぁい!」

 

 そう言って一葉と魔女ラーダの分も全部ぜんざいを食べ尽くすとむっちりとした太ももを組んで二人を嘲笑っていた。

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