メスガキ聖女にジンのギモーヴを差し入れする準備をしてみた
「ざぁこぉ! ざぁーこ! アンタなんかあーしのセイクリッド・フレアで消し炭になんなさいよぉ! 少しは薪の足しになんでしょ。カミヤぁ、アンタはあーしが摘むお菓子でも作ってなさい」
「ほんと、減らず口を叩く事しか知らないんですかぁ? そんな光魔法、私の闇魔法で滅して差し上げます。ダークネス・バースト」
「もしもし、神様ですか? はい、俺です。あの、食材お願いしていいっすか? えっ? 昨日送った? それは聖女様が全部食っちまったんですよ。はい、えぇ? 節約? いや、それは俺じゃなくて聖女様に直接言ってもらっていいすか? それは俺の仕事じゃねーっすから、それともなんすか? 俺が間違ってますか? 筋通してくださいっすよ? はぁ? 分かればいいんすよ。今回はそうっすね。転化糖とライム、シトロンヴューレピューレ、あとグラニュー糖とロンドンのドライジンとトニックウォーターをお願いするっす」
聖女ラムと魔女ニティアフィーが魔法を放ちあっている中で、一際大きな声で怒鳴って電話をしている一葉、聖女ラムは一葉が持っている板のような道具が神と直接連絡が取れる何かである事を知っているが、魔女ニティアフィーは聖女ラムの従者が突然キレ散らかしているようにしか見えない。
「貴女の従者、大丈夫かしらぁ? 一人で変な方向に向かって何か騒いでいるけどぉ、心の病か何かかしらぁ?」
「はぁ? あーしの従者がそんな弱いわけないでしょ? きもっ! カミヤぁわぁ! あの謎の魔道具を使って神と連絡取れんのよ! そういえばぁ、アンタ神になるとか気持ち悪い事言ってたわよねぇ? カミヤと連絡取れないんだったら、神になんてなれないんじゃないのぉ? ねぇねぇ?」
今日の聖女様も絶好調だなと思いながら本日、作ろうと思っている物はお菓子。マシュマロに対して卵白を使わないギモーヴ。共にフランスが生み出した口溶けの良い砂糖菓子。
「多くの信者を集め、それらの力を受けることで私は、黒衣の聖女として、私の大魔法は完成し、神としての階段を登るのですぅ」
「はぁ? アンタの言っている事、ほんと意味わかんなぁーい! そしていちいちキモーい! 自分の魔術実験の為に好き放題するってはっきり言ってたラーダの方がまだましね。まぁ、どっちもキモいのにはかわりないけどぉ。たかが知れたわね。クソ偽聖女ぉ! アンタ、その見た目もどうせ偽物なんでしょ? きもっ」
「貴女わぁ、聖女には相応しくないですねぇ。天罰です! 今、私の為に建造しているミソジニーの塔は全部で三基。それを全部使えばぁ」
一葉はおかし作りをしながら、魔女ニティアフィーが発したミソニジーという言葉が少し気になった。自分の知っている言葉通りなら魔女ニティアフィーはそういう思想の持ち主という事。
そして、聖女ラムはの言動、態度、そしてその姿はまさにそれらの思想者達の感情を強く刺激するだろうなと。
「あー、また大きくなったぁ? ねぇ、カミヤぁ、毎日ケダモノみたいにあーしいの身体を舐め回して見てるんだからわかんでしょ? 胸大きくなってない?」
「聖女サマの胸は元々でかいっすからね。ちょっと大きくなった程度だとわかんねーすね」
「正直に、あーしで欲情してるって言いなさいよ! 何? もしかして今正直に答えたからあーしに触れるんじゃとか思ったわけぇ! ざこざこカミヤが何さまの分ざぁーい?」
反応した事で滅茶苦茶聖女様が煽ってくるが、そこより一葉は魔女ニティアフィーがどう出てくるか、
「貴女わぁ、自分の容姿に自信があるようですがぁ、聖女としてそのような破廉恥な服装、振る舞い、言動に関して思うところはないんですかぁ?」
「は? あーしが自分の容姿に自信があるのなんて当然じゃない! あーしは神々に愛された聖女なんだからぁ? あっ! 偽聖女にはわかんないわよねぇ、面倒なのよぉ〜! 神々が、ひっきりなしにプロヴィデンス! プロヴィデンスぅ! って盛ってくるんだからぁ!」
材料を火をかけた鍋に入れて溶かして混ぜていく一葉、そんな一葉のすぐ近くで、ついに煽られて怒りを露わにした魔女ニティアフィーが強力な魔法を練り上げた。
「ミソジニーの塔の力を今こそ私に……キタキタキタキタぁああ! 凄い魔力、力が滾るぅ。可愛い私の信者達が嫌らしい貴女を殺せと轟き叫んでるわぁ! 闇魔法。私の知らない私の限界を、闇の星屑よ集え!」
魔女ニティアフィーの手の中に漆黒の魔力が集まっていく。流石に同じ魔女であるラーダはその異様すぎる力に聖女ラムに注意を促した。
「聖女、これはいかんぞ! この街ごと吹き飛ばす程の魔力じゃ!」
ふんふんふんと鼻歌を歌いながら一葉は鍋で溶かして混ぜた材料とゼラチンを混ぜる。ハンディーかき混ぜ機を使ってムース状になり、絞れるくらいの硬さになったところでそれを四角い金属の型に入れる。
そして……
「聖女様ぁー! それか魔女のお二人さん。魔法で氷出してもらっていいっすかー?」
いつも通り魔法を催促するので、聖女ラムが心底いやそうな顔をする。がしかし、一葉が作っているお菓子を見て表情が一変した。
「今、このクソ偽聖女の魔法止めようとしてんのに、カミヤぁ、アンタ何美味しそうな物作ってんのよぉ、ちょっと味見させなさいよね!」
「まだ固まってねーっすよ? ちょっと舐めるくらいならいいっすけど」
聖女ラムは本来これから冷やして固めるギモーヴの生地を指でちょんと触れてクリームを舐めるようにぺろりと、
「んんっまぁ! ちょっともうこれでいいじゃない食べるわよ!」
「冷やして固めると多分聖女様が食った事ない食感のお菓子に変わるんすよ。まぁ、それを食べなくていいなら今全部食っちまってもいいっすけど」
そう言われると、聖女ラムは少し考えて、大きな胸を張ると、「し、仕方ないわねぇ! クリエイト・アイス! さっさと作りなさいよぉ! アンタ、グズなんだからぁ!」
「はいはいっす」
ギモーブの型の下に氷を敷いてラップをかける。残った氷をグラスに入れて味付けに使ったドライジンを、最後にトニックウォーターを注いでライムやレモンはないが即席のジントニックの完成。
「ひっくん、それは酒か?」
「そうっすよ。ラーダさんも飲むっすか?」
「いただこうかの」
同じ物をもう一杯作り、グラスをカツンと合わせて一口飲む。「うまっ」思わず出た一言。魔女ニティアフィーが何やら大技を放とうとしている姿をぼんやりと眺めながら一葉は魔女ラーダに尋ねる。
「あの魔法、聖女サマ大丈夫なんすかね?」
「そうじゃな……わりとヤバいかもしれん。この街の信者全ての魔法力を吸い出してニティアフィーは暗黒系の最上級魔法を放つつもりじゃ。聖女にあれを止められる程の魔力があるとは……」
聖女ラムは地獄耳である。本人曰く、神界イヤーだというのだが、魔女ラーダの読みでは聖女ラムは少々危険。
「はぁああああ! これだから魔女とかいう連中はヤなのよぉ! 自分たちの物差しでしか測れないんだからぁ! あーしがこんなしょぼしょぼ魔法に負ける? ないない! だってさぁ、じゃあもいっか、もうちょっとだけ、この偽聖女があーしに勝てるとか勘違いしてるのを笑ってたかったけど、見せたげる!」
ぼぅと聖女ラムの身体から魔法のセンスなんて全くない一葉にも見る程の強大な魔力。身長に対して厚底すぎる鐘のついたブーツをカツンカツンと鳴らし、人差し指をくいくいと動かして、かかってこいと万国共通ならぬ異世界もこのジェスチャーなのかと少しばかり一葉は感心する。
「百人以上の信者の魔力をかき集めたこの魔法で目障りな貴女を跡形もなく吹き飛ばしてあげる! 闇魔界の雨、ダークネス・ブリンガー!」
聖女ラムに向けて放たれたその暗黒の魔法。近くにいる一葉も巻き込まれそうなので、魔女ラーダが防護魔法を貼って凌いでくれる。「助かったっす」「こんな威力の魔法をたった一人で……これでは聖女の奴も」とそれっぽいフラグを魔女ラーダが立てていたが一葉は知っている。煽るのが大好きなメスガキが余裕をぶっこいている間は本当に余裕なのだ。
事実、聖女ラムは片目を閉じて、わざと欠伸をするフリをして魔女ニティアフィーの最大魔法を受け止めた。
「なんで……信者100人以上から抽出した魔力よ?」
「あっそ、アンタの信者100人しかいないんだったわね。あーしの信者って一体全世界にどれくらいいるのかしら? 100? 1000? 10000? そんなわけないでしょ? なんでそんな事わかんないのかしらぁ? あぁー、流行遅れの魔女だからぁ、100とかでも大きな数字なのかしら? ウケるー! もしかして、今のであーしを仕留められるとか、本気で思ってたわけぇ?」
終わったなと一葉は飲みかけていたジントニックに再び口につける。魔女ニティアフィーはフルフルと震え、負けを認めたのかと思ったが、
「ちくしょー! まだよ。まだ負けてないわぁ! アンタみたいな、若いだけで、胸が大きいだけで、ちやほやされる子なんかに負けられないのヨォ! この姿だけは見せたくなかった……でも私を怒らせた」
ぐんぐんと、魔女ニティアフィーの身体が大きくなる。肥大化した筋肉のようだ。そしてミステリアスな美人だったニティアフィーとは似ても似つかないマッチョな……
「男? でも魔女っすよね?」
「ひっくん、男でも魔女は魔女なんよ。そして今まで自らの魔法で身体を縛り付けていたんじゃな。身体能力も魔力も桁違いの化け物じゃ……我も知らなんだが、これが魔女ニティアフィーの本当の姿か」
「へぇ、すげぇガタイっすねぇ。腕なんて聖女様の腰よりでかいっすね」
外野でそう言っている二人に魔女ニティアフィーが怒号した。
「男じゃないわヨォ! 心は女! もう容赦しないわ。私の美しい闇魔法とこの凶暴なまでに成長した筋肉の前に聖女を噛み殺してあげる」
聖女対偽聖女(?)。第二ラウンドのゴングが鳴らされた。
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