メスガキ聖女にスニッカーズを与えてみた
「本当にまっすぐ入るんすか?」
「はぁ? あたりまえでしょ? ざこカミヤじゃあるまいし。なに? もしかしてビビってんのぉ? もふもふ」
「いや、ビビるというか、この教団の聖女様に会うだけなら他に方法があったんじゃねーすかね?」
「ひっくん、まぁ案外引っ掻き回してやった方があの手の奴には堪えるんじゃ。もふもふ」
二人はアルバス神教会の信者達の貢物の中にあった甘い砂糖菓子を食べている。
ちなみに一葉達が今いるのはネロラスター教団の教会。それもアポなしでやってきて何やらミサっぽい事が行われていた。それにデカデカと飲食禁止と書いてある。
「邪教のアルバスの連中だ!」
「黒衣の聖女様に報告するまでもない! 我々で悪魔の手先を退治しよう」
そう言って集まってくるネロラスターの信者達。数が多い。ゆうに100人以上はいるだろう。一葉はこのネロラスターがまともな宗教じゃない事は薄々理解していたが、堂々と邪魔しにくる聖女ラムもまともな思考じゃないなと思いながら、一応、ネロラスターの信者達に忠告した。
「あの、聖女様。手加減とかしねーからやめておいた方がいいっすよ」
そういいつつ一葉は真逆の事を考える。まぁ、こういう忠告をちゃんと聞けるなら世の中には揉め事は起きないだろうし、今から行われる惨劇は回避できたんだろうと。
「何が聖女様だ! 聖女様は黒衣の聖女様ただお一人! そんなだらしない体をしたロリが聖女のわけがない!」
「そうだそうだ! ひん剥いて晒してやれ!」
あーあ。
一葉はそう思う。
聖女ラムは、人を煽り散らかす事は大好きだがら、煽られたり馬鹿にされる事への耐性はほとんどない。少なからず従者である一葉に論破された時はキレ散らかす程度で済むが、
「は? 今、このゴミ共なんて言ったの? ねぇ? もう一度言ってみて? あーし、顔と身体だけじゃなくて耳もいいはずなんだけどぉ、聞こえなかったから」
怒りに頭が沸騰している聖女ラムを見て、ネロラスター教団の教徒達は大笑い。あらゆる罵声を聖女ラムに浴びせ、聖女ラムは、
「可哀想な子等ね」
一葉は今までみたことのない聖女ラムの表情。人を小馬鹿にして煽る事を日課と生きがいとしている聖女ラムが慈悲深い表情でそういうものだから、ネロラスター教団の教徒達は一瞬固まり、一葉は実は聖女ラムのあのメスガキっぷりは世を忍ぶ仮の姿で……とかは思わない。
「死になさい! 愚かな邪教徒達! 神よ神。我らが前に立ち塞がる邪悪の礎を根本から取り除く救いの光を。セイクリッド・ジェノサイド・ノヴァ!」
「どんな名前の魔法っすか」
一葉の言葉に魔女ラーダが反応する。
「ひっくん、大軍用の殲滅魔法じゃな。光の魔法ではあるが……聖女が使う魔法ではないのぉ!」
それは強烈な光の玉が浮かび上がったかと思うと、針のような光がそこにいたネロラスター教団の教徒に降り注ぐ。
「ぎゃああああああ!」
「黒衣の聖女様、お助けを!」
阿鼻叫喚の声がそこらじゅうで響き渡る。そんな様子を聖女ラムは嬉しそうに眺めている。100人以上のネロラスター教団の教徒達、全員が聖女ラムの光の魔法に打たれて動かなくなった。
そんな惨状に満足するように聖女ラムが、
「うーん! 気持ちいー! 本当、ザコがあーしに楯突くからこんな事になんのよぉ! プププ! ざまぁ! ざまぁ! クソ邪教徒!」
一葉はこの惨状を見渡してから聖女ラムに尋ねた。
流石に聖女とか名乗っている人物がこれだけたくさんの人を、
「殺したんすか? 聖女様」
「はぁ? なんであーしがいちいちこんなザコ相手に手を汚さないといけないのよぉ? それに生きてなきゃ、あーしに楯突いたらどうなるか人づてに広がらないでしょ? 本当バカなんだからぁ! カミヤぁわぁ!」
一応殺していないらしい。それにホッとするのも束の間、魔女ラーダが突然魔法を放った。
「炎の壁よ! ファイアーウォールじゃ!」
聖女ラムと一葉の周りを炎の壁が包む。一瞬聖女ラムが魔女ラーダを睨みつけたが、どうやら魔女ラーダは二人を守る為の魔法だった。なぜなら、炎の壁が何らかの魔法によって散らされたのだ。
そしてカツンカツンとヒールの音を響かせ、黒い法衣を身に纏った妖艶な女性。ネロラスター教団で黒衣の聖女と呼ばれている。
「魔女ニティアフィじゃ」
「違いますよ。魔女ラーダ・ピニャコ。ネロラスター教団最高聖職者・黒衣の聖女です」
「愚かの極みじゃな。クラフトを持たずに宗教ごっことは」
余裕の表情で魔女ラーダを見つめる黒衣の聖女ことニティアフィは街の外、周りに建造させている塔を指差して嗤った。
「子羊達の塔、あれは可愛い私の信者達がその穢れた魂を魔法力に変え、再生の日。私が起こす奇跡の為に蓄積しているものです」
「要するに、街ひとつを自分のクラフト兼、テリトリーにしておるわけか……その塔からの絶大な量の魔法力を前にしてこの街の中では貴様は最強という事か……通りでワシがやられるハズじゃ」
「これを街から国、国から世界に変えれば、私は神になるわぁ!」
成程、わかりやすい悪党だなぁと一葉は思う。魔女ラーダにしてもこの魔女ニティアフィにしても自分の研究の為に人の命をあまりにも軽々しく扱う。本来そういう連中を諭し、あるいは天誅を下すのか聖女様という尊い存在の在り方なんじゃないかと一葉は一般的な事を考えていたが、
「キャハハハハハ! えーマジでそんな事考えてるのぉ! こんなざこ集めて神? プププ! だから魔女って本当気持ち悪いのよぉ! きも〜い! そんな妄想が許されるのはザコ冒険者までよね? カミヤぁ?」
「いや、知らねーっすけどね」
「ふふん、その程度で神になれるらしいキモい魔女に現実を教えてあげちゃおっかなぁ? あーしは神に愛されてるから、この街? それとも国? 世界? 全部の魔力を前にしても軽々と捻り潰せるんですけどぉ!」
聖女ラムが持ち前の煽り力を如何なく発揮しているが、魔女ニティアフィもまた余裕の表情を崩さない。
そんな中、聖女ラムが八重歯を見せながら一葉に、
「カミヤぁ! ゴミクズの相手をしたからお腹すいたわぁ! 何か食べ物よこしなさいよ」
「はぁ……と言っても、あっ! これならあるっすよ! スニッカーズ。キャンディーバーって言うんすけど」
「えー! それっぽっち? 本当アンタも使えないんだからぁ」
そう言って聖女ラムがスニッカーズを一葉からむしりとると袋を破いてパクリと齧る。
齧った瞬間、聖女ラムの動きが止まった。
魔女ニティアフィは「??」という顔をする中、
「なぁにこれぇ! あまーい、それに美味しいじゃない! カミヤぁ! こんなの独り占めしてたわけぇ! もっとないの?」
「ひっくん、わ、ワシにも! ワシにもぉ!」
一葉は聖女ラムに2本目、そして魔女ラーダにも同じ物を渡して二人が美味しい、美味しいと言って食べているのを聞いて、魔女ニティアフィが、口を開いた。
「不思議な物を食べているけど、美味しいのかしらぁ? それぇ?」
その一言で、聖女ラムは凄い悪い笑顔を見せる。これが聖女とか呼ばれている女の子ってこの世界大丈夫かなとつくづく一葉は思っていると、案の定聖女らしからぬ言葉の数々を魔女ニティアフィにぶつけ出す。
「あー、美味しい! こんな美味しい物、アンタ食べたことないでしょうねぇ! あーしの従者、カミヤは、あーしの為ならどんなみたことも食べたこともない食べ物を私に喜んで献上するんだからぁ! あーあー、お腹いっぱいになってきたからこれあげようか?」
「くれるの?」
あー、こりゃダメなやつだなと一葉が今から聖女ラムが何をするか予想した所、聖女ラムは天高く、スニッカーズを掲げてみせる。
「はい、あげたー! プークスクス! もしかして、あーしからこの美味しすぎる食べ物をもらえると思ったのぉ? きんもーい! ラーダ、アンタもだけど魔女ってプライドとかないのかしらぁ? あーしならそんな事言われたらぁ、生きてられないけどぉ」
「ダークネス・スマッシャー!」
黒い杖のような物を魔女ニティアフィーは聖女ラムに向けて魔法と共に放った。そんな魔女ニティアフィの魔法をスニッカーズをもっちゃもっちゃと食べながら片手で受け止めていた。
「あーしに闇系の魔法で挑んでくるってー、ほんとバカ。闇の魔法が光の魔法に勝てるわけないじゃなぁーい!」
むしゃむしゃとスニッカーズを食べ終わるとポイとゴミをその辺に捨てるのでその都度、一葉が拾う。口の周りのチョコレートを拭うと聖女ラムは目に見える程の魔力を見せて、
「カミヤの献上する食べ物を食べると、魔力が跳ね上げるのよね。今回のこれは最高だわぁ! カミヤ、もっとよこしなさいよ」
「今ので最後っすよ」
すると少しだけ、本当に残念そうな顔をしてから魔女ニティアフィーに向き直る。
「じゃあ、月並みなことくらいは言ってあげるわぁ! 祈りの時間はすんだぁ?」
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