メスガキ聖女にドレイクの焼き鳥を与えてみた


 ドレイク、ドラゴンの亜種。数匹のチームで狩をする大型有翼獣。大きさは翼を広げると六メートル、大きい物だと八メートル近くなる。

 

「みた感じはフライング○イナソーっね」

 

 要するにプテラノドンに似ている。というか、異世界にきて恐竜のような生物を見て若干の感動を感じながらも一葉はあんなのが空から襲ってきたら一溜りもないなと、避難所から双眼鏡で状況を眺める。

 聖女ラムと魔女ラーダは他の冒険者達がチームを組んで密集形態で対峙しているのに対して、単身でそれらドレイクに歩んでいく。

 

「あっ! 聖女様が冒険者パーティーになんか言って大爆笑してるっすね。さしづめ……」

 

“ウケるー! 雑魚が固まって虫ケラみたい! ププ! ドレイクも狩れないんだったら冒険者なんてやめて普通の仕事すればぁ?“

 

「ってところっすかね。あーいう性格って自分の妹もそっすけど、どういう環境下に置かれたら育つんすかね?」

 

 かつて妹二人が小さい頃は、にーちゃん、お兄ちゃんとヒヨコみたいに可愛かったような気がしたが、そんな時間は夢幻のようで、今となっては聖女ラムみたいな人格形成がなされた。

 

「まさか宇宙人に誘拐されて……? だったらウケるっすね」


 そんな風に遠くで強力な魔法を放っている聖女ラムと魔女ラーダを遠い目をしながらクスクスと笑って一葉はスマホを取り出し電話をかけた。

 誰に? もちろん神様に、

 

「ふふっ、もしもし神様っすか? あぁ、自分っす! 笑ってる? いえ、こっちの話っす。聖女様がドレイクってのを狩り始めたんで、なんかオヤツ作れって言ってんすよね。注文お願いしていいっすか? あと……ドレイクってくえるんすかね?」

 

 遠くで飛んでいるドレイク、過食部があるように見える。そしてあれだけの大物だ。一匹仕留める事ができれば相当な人数の腹を満たせるだろう。

 という事は結果として聖女ラムを満腹にできるだろうというのが一葉の考え、もちろん神様に頼んで食料を調達するのは容易いのだが、利用できる物は最大限利用した方がいいだろうというエコな考えを一葉は持っている。

 神様の見解としては食べれなくはないだろうという事だった。美味しいか美味しくないかは食べてみないとわからない。

 一葉が考えた結果……

 

「とりあえず、烏龍茶と長ネギ、あとワンカップのお酒も貰えますか? 曹操、忘れてたっす。とっておきのアレも頼んでおくっすね」

 

 聖女ラムの魔法が直撃してゆらゆらと揺れながらドレイクが一頭墜落してくる。近くに落ちたので、一葉はそのドレイクの様子を見にいく羽根を広げれば五メートル以上はありそうな生き物。既にその魂はないらしい。皮は割と硬い。包丁を取り出すと、一葉は内臓を取り出す。

 内臓は毒があるかもしれないので、今回は見送り、関節を外していく、この辺りは鶏の解体に近い。もも、胸と肉を切り取りながら部位ごとに解体し、小さな骨を外していく。

 

「あんた何やってんだ? まさかドレイク食うつもりなのか?」

「えぇ、皆さんも手伝ってくれませんか? かなり大量に作れると思うんで、ご一緒にオヤツに焼き鳥ならぬ焼きドレイクでもと」

 

 一部肉をナイフに刺して炙ってみる。肉の焼ける匂いは悪くない。というか美味しそうな匂いがする。

 

「最初の一口を食べた人達を尊敬するっすね。じゃあいただきます」

 

 どんな味なのか? 毒成分はないんだろうか? 少々の不安もあるが、異変を感じたら吐き出せばいいかと咀嚼してみる。

 

「味は予想通りというべきか、養鶏されてる鶏とかより淡白で硬めの肉質っすね。じゃあマヨにつけこむっすか」

 

 肉を柔らかくする裏技。マヨネーズ。ジップロックにドレイクの肉とマヨネーズを入れて揉み込む。そしてしばらく放置。その間にトントントンと長ネギを一口台に切っていく。避難していた人達は一葉が謎の料理を始めている事に疑問に思いながらも、

 

「わ、私にも手伝わせてくれないか? 町で食堂を営んでいるんだ」

「あー、助かるっす! 揉み込んだ肉をこのヤキトリのタレにつけて言ってくださいっす!」

 

 料理人の人が手伝い出すと、稀有の眼で一葉を見ていた人々の中から普段食事を作っているお母さん連中が手伝いに名乗りをあげた。

 

「私にも何かやる事はないかい?」

「私も手伝うよ! 家族十人分いつも料理作ってんだからね!」

「私も私も!」

 

 そんなお母さん連中に一葉は、微笑んだ「ありがとうございまっすっす」そう、そこそこ長身で目つきは悪いが、見てくれの悪くない一葉に微笑まれてお母さん連中は悪い気はしない。というか、一葉は年上の女性に好かれるタイプだった。

 その結果、

 

「ヒトハくーん! こっちできたわよぉ!」

「ほらぁ、私の串うち上手でしょう? ヒトハくん見て見てぇ!」

 

 そんな一葉に色目を使うお母さん連中に一葉は反応してお礼を言って笑顔を見せるので、それはもう避難所のハズなのにお母さん達は若かりし頃のアオハルを思い出したように黄色い声をあげる。

 

「よし! 随分出来たっすね! 聖女様達もそろそろ戻ってくるんじゃねーっすかね?」

 

 予想通りというべきか、ボロボロで傷だらけのほか冒険者達を差し置いて、聖女ラムと魔女ラーダは欠伸なんかしながら戻ってくる。

 

「ラーダ、アンタ何匹ドレイク仕留めたの?」

「二匹じゃな」

「ざーこ! ざーこ! あーしなんか五匹よ五匹! まぁ、こんだけ雁首並べて一匹を仕留めるのにヒィヒィ言ってる連中に比べれば? まぁマシだけどぉ! でもあーしの足元にも及ばないわねぇ! 所詮魔女ね」

 

 魔女ラーダは眉間に皺を寄せているが、実際聖女ラムの力は規格外のそれだ。こういう時、魔女ラーダは1葉に甘える。

 

「いっくーん! 頑張ったんじゃ! 褒めて欲しいのじゃあ!」

「ラーダさんお疲れっす。聖女様もさすがっすね。あんな飛んでるラドンみたいな怪物軽々とやっちまうんすから」

「はぁあああ? カミヤぁあ! あーしの話聞いてたのぉ? ドレイクなんてアンタとどっこいどっこいのざこよ! ざーこ! それよりお腹すいたわ! オヤツをさっさと出しなさい!」

 

 ふっと一葉は笑うと大量に用意したドレイクの焼き串を聖女ラムに見せる。見た事のない料理、悪態の一つでもつきそうな聖女ラムが何も文句を言わない事は既に匂いから美味しいという事を理解したのだろう。

 

「あーん! んんんっ! 美味しいじゃない! なんの肉よ?」

「ワシもワシもぉ! 甘い香ばしい匂いじゃて、はむっ…………うまーい!」

 

 焼き鳥、日本食を嫌う海外の人、宗教上の理由で牛やら豚やらを食べられない人ですら虜にするという伝統グルメは当然異世界の人達の胃袋も掴んだ。

 

「手伝ってくれたみなさんも避難されてたみなさんも是非、どうぞどうぞ!」

「はぁああああ? カミヤぁ! あーしの分が……」

「どんどん作りますから、聖女サマ、みんなで食いましょうよ。まだまだ捨てるくらいドレイクの肉ありますし」

 

 ドレイクの肉が結構美味しい事が分かった一葉はこれからの旅で聖女サマの非常食兼オヤツとして干し肉を同時に作っていた。これだけのドレイク、食べ切るのは難しそうだと思ったが、この村の人達で分け合って食べれば狩られたドレイクも自然の循環として弔えるだろう。

 

「いやぁ、しかしドレイクを食べようだなんてヒトハ君は面白い事考えるわね!」

「ほんとほんと、これだけ美味いと、怖いモンスターだけじゃなくて狩れればご馳走が食えるって思えるもんな。この串焼きを名物にしてよ! あんちゃん、この料理のレシピとか教えちゃくれないかい?」

「いいっすよ。焼き鳥のタレはそうっすね……この村にある物だけで代用するとしたら……」

 

 果物から取った果糖的な物や塩なんかを使ってそれっぽい物を一葉は味付けを考えて村の皆さんに共有。一葉が聖女の従者という事を知って村の人達はだから彼はこんなにも優しく心が広いのかと聖女ラムも便乗してその評判が上がる事になる。

 聖女ラムと魔女ラーダは競うようにドレイクの焼き串をバクついている。口の周りを焼き鳥のタレで汚しても構うまいと、それでも食べきれない程の量を用意している。一葉は今日の一杯として缶の日本酒のプルトップを開ける。

 

「銀盤生大吟醸、さすがに美味いっすね。お店の焼き鳥程じゃねーっすけど、ドレイクも中々うめーっすね」

 

 七味と山椒をかけてもう一口、まぁまぁ美味い。周りの人々も聖女ラム、魔女ラーダも美味しいと言っているが、一葉はやはりこのドレイクの串焼きに関しては少しばかり物足りない。今までは完全に自分の世界にある食材を使った料理を作って満足していたが、この世界の食材をメインにした料理は一歩劣る。

 

「どうせ食うなら美味い物。日本人の本懐っすからね」

「何いってんのよぉカミヤぁあ? そんな当たり前の事言って何黄昏てんのよ? キモっ! きもきもねカミヤぁ!! 今日の深夜も明日も私がぁ、満足できる物を用意しなさいよね? アンタにできる事なんてそれくらいなんだからぁ! せいぜい頑張りなさい」

 

 確かに自分に出来る事は料理くらいだなと思う。そしてその料理の腕は一般人の枠を出る程じゃない。美味しい物を提供しろというこのワガママな聖女ラムの所望に関して缶の日本酒を上げて一葉は頷いてみせた。

 

「そうっすね。じゃあまたなんか美味い物を考えて作るんで、楽しみにしててくださいっす」

「えっ? ……ハァ? 何当然のこと言ってんのよ、きもっ!」

 

 まさか異世界にきて料理の腕を磨くことになろうとは思いもしなかったなと日本酒に舌鼓を打ちながら神様に明日以降の食材について電話をしようかとスマホを出した。

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