メスガキ聖女にホットドッグを与えてみた

 今回、聖女ラムとその一行である一葉と魔女ラーダは四大魔女の一人、シーアンドスカイによって大怪我を負ったアルバス神教会の信徒達の慰問の為、カルヴァヤンの港街に向かっている最中である。

 

「ねー! カミヤぁ、ちょっとなんで馬車とかないわけぇ? なんで毎回毎回歩きなのよぉ」

 

 へいタクシー! という具合に馬車は全然拾えない。

 故に歩いているのだが、いい加減聖女ラムは自分が歩いて目的地にまで行かないといけないのが段々嫌になってきたのだ。

 一葉もあんな高下駄履かなければいいのにと思うくらいの厚底ブーツ、普通の靴より疲れそうだ。身体に似合わない大きさの胸や太ももも思った以上に体力を奪うんだろうかと、へとへとになっている聖女ラムを見て、

 

「この辺りで一旦休憩にするっすか?」

 

 休憩というと要するに食事という事。そうなると聖女ラムの表情が一気に満面の笑みになる。

 

「ほんとぉ、馬車一つ準備できない使えないカミヤなんだからぁ、さっさと食事の準備しなさいよねぇ! あーしがお腹空いて動けなくなったらあーしの事を待っている信徒達にアンタボコボコにされるわよぉ」

 

 そりゃ大変だなと一葉はリュックから、徳用のソーセージ、シャウエッセンを取り出す。家庭用のウィンナーでこれに勝る商品は中々ないだろうと神様に依頼して用意してもらっていた。

 

「初めて一人暮らしした時、このウィンナーって結構高かったんだなって思ったもんすねぇ」

 

 と独り言を言っていると、魔女ラーダが興味深そうに一葉の調理を覗き込む。

 

「ひっくん、それは腸詰というやつかの?」

「おっ! ラーダさん、知ってるんすか?」

「ほぉ、やはりこれがそうか! 王族や貴族が食うとは聞いていたが、現物を見るのは初めてじゃな」

「火起こしてもらっていいですか?」

「良いぞ! 飯じゃな? ファイアー!」

 

 なるほど、保存食としてそこまで流通する程作れる技術がまだない為、珍味扱いなんだろうかと一葉は思いながら、フライパンにお湯を入れてシャウェッセンを二本湯煎する。コツはお湯は沸騰する直前で捨てる事。フライパンでボイルできたらそのままフライパンで少し炒る。

 爪楊枝を取り出すとプスプスと刺して、

 

「聖女サマ、ラーダさんもお一つ味見どうっすか?」

 

 と二人に食べさせてみる。子供のお弁当No.1の人気おかず。ウィンナー。それを聖女ラムと魔女ラーダはぱくり! と食べて、もむもむとしばらく咀嚼。お味はどうですか? と聞く必要もないくらい二人の表情から美味しいが飛び出てきている。

 

「ちょっとぉー! 何よこれぇ! こんなのあるならさっさと出しなさいよぉ! いっぱいあるじゃない! もっと焼きなさいよ!」

「そ、そうじゃぞ! ひっくん! これは美味い! 美味すぎる食べ物じゃ!」

 

 ふふんと一葉は笑う。例に漏れず二人もウィンナーは大好物になったらしい。もちろん焼いて食べるのは鉄板の食べ方だが、それと同等以上にウィンナーを使った鉄板の食べ方は存在する。

 玉ねぎを一つ取り出すと一葉は、

 

「今からお二人が喜ぶような料理を作るっすからちょっと待ってくださいね! 火、消えないように少しみててもらっていいっすか?」

「はぁ? なんであーしがそんな事しないといけないのよぉ! そんな事よりさっさと作りなさいよぉ! アンタ、それしか脳がないんだからぁ! あれぇ? もしかして怒ったぁ? 怒ったのぉ?」

「いや、火消えたら作れねーなと思っただけっすよ」

「……っ! し、仕方ないわねぇ! さっさと作りなさいよ! 火なんてあーしの魔法でさっさと出せるんだからぁ」

 

 了解っすと一葉は、コッペパンに真っ直ぐ切り込みを入れるとシャウエッセンを中に二、三本挟みアルミホイルで包む。そして、それをそのまま火の中に放り込んだ。

 

「何? それで完成なわけ? 馬鹿みたいな料理じゃない? アンタ、適当やってないでしょうね? 聞いてるの! カミヤぁ!」

 

 一葉ははいはいと言いながら玉ねぎをみじん切り、そしてピクルスもみじん切りにする。十分な量がみじん切りにできたら、アルミホイルで包んで火に入れたホットドッグを火バサミで掴んで中を開ける。

 

「おぉ! いい感じでホカホカっすね! ここに、みじん切りにした玉ねぎとピクルスを乗せて、ケチャップとマスタードをたっぷりかけたらホットドッグの完成っす! 今日は、コーラを用意してみたっすよ!」

 

 見たことのない真っ黒い飲み物、それに聖女ラムと魔女ラーダは警戒する。黒い物は知らなければ食欲がわかない。

 しかし、ホットドッグはとてもいい匂いがする。こちらには二人とも手が出るのが早かった。

 大きく口を開けて、ぱぁあく! とかじる。

 

「んんんっ! んまぁ!」

「うんうん! これはうまいのぉ!」

 

 味濃いので喉が渇く。水を一葉が用意していないので、二人は目の前でシュワシュワと炭酸であろう真っ黒い飲み物を見るので一葉が頷く。美味しいので騙されたと思って飲んでみろという一葉の仕草に二人は恐る恐るコーラの入った容器を持ってそれを口に近づける。

 ゴクリ!

 

 どちらかの喉が鳴った音、そして二人の表情が一瞬にして険しくなる。口に合わなかったかなと一葉は一瞬思ったが、違った。

 一心不乱にホットドッグをガツガツと食べ、コーラで喉を潤す二人。相当美味しいんだろうなと一葉は見ているだけで可笑しくなってきた。

 そんな一葉に、

 

「カムハぁおきゃわりぃ!」

「ワシもワシも!」

 

 二人が美味しそうに食べるのに見惚れていて二つ目を作るのを忘れてた。そんな二人に一葉は、

 

「あー。もうちょい待ってもらっていいっすか? 次はさっきよりうめぇの作ってるっすから」

 

 と、適当な事を言ってみた。聖女ラムはさっきより美味しいという一葉の言葉を聞いて、一葉を煽る表情を作りながら、

 

「はぁ? あーしが食べる分さっさと用意しなさいよねぇ! ほんと、カミヤは使えないんだからぁ。でもぉ、まぁあーしだから許してあげるのよ! さっさとつくりなさいよグズ」

「ひっくん、ワシじゃから待ってやるんじゃぞぉ!」

 

 という事でお許しを頂けたので、一葉はキャベツをザクザクと切るとこれらにカレー味をつける。なぜ日本のホットドックはカレー味のキャベツ風味なのか分からないが、確かに美味い。というか日本人カレー味好きすぎだろうと思いながら茹でてフライパンで炒ったシャウエッセンの挟まれたパンズの中にカレー味のキャベツをこれでもかというくらいねじ込む。

 

「はい、お待たせっす! 熱いので気をつけてくださいっす」

「カミヤァ! この黒いしゅわしゅわした飲み物なくなったわよ! おかわり出しなさいよ!」

 

 コーラはお気に召したらしい。豪華な杯に入れてグビグビ飲んでるので、一葉も神様に買ってきてもらったブラックニッカのボトルでハイボールを作る。三人分、日本版ホットドックをせーのでかぶりついた。

 

「うんまぁ! なんなのよこれ! 永久に食べてられるじゃなぁい! カミヤにしては褒めてあげるわ」

「そりゃどうもっす」

 

 ブラックニッカクリア、安い国産ウィスキーなのにちゃんとウィスキーなのにはメーカーの企業努力なんだろうなと思いながら一葉も自分で作ったホットドックをパクリと食べて、まぁこんなもんだなと納得する。

 

 次の魔女討伐にこれから向かうわけなのだが、少し離れたところで爆発音が聞こえる。

 

 ドゴぉおおおおんと!

 

 そして即座に火が回る。一体何事が起きたのかと思ったが、一葉を含めてホットドックをパクパクと食べながら静観していると、行商人達が馬車で一目散に逃げている。

 

「ドレイクだ! ドレイクが出たぁ!」

 

 何やら大慌てで逃げる程の魔物でも現れたのかと一葉葉思って二人を見ると、魔女ラーダが説明してくれた。

 

「ドレイクはドラゴンもどきとも言われておるんだ。ドラゴン程の脅威ではないが、並の魔物とも言い難い、空を飛び、火を吹き、徒党を組む厄介な魔物じゃな。連中人を食うから旅人や行商人はちょうどいい餌でここは狩場なんだろうの」

 

 成程、それは厄介なところにきてしまったなと思った一葉だが、微塵も焦ってはいない。なんせ、聖女ラムだけじゃなく魔女ラーダもこの状況に冷静に答えてくれるのだ。これは一葉の経験則だが、二人からすればドレイクという魔物は取るに足らないレベルのそれなんだろう。

 

 遠くの空に大きな影が見える。それも一つや二つじゃない。大群のドレイクとやらが集まってきている。

 

「妙じゃな、連中、徒党を組むがあの数は異常じゃ。これはワシと同じ魔女の匂いを感じるの」

 

 オブラートには包んであるが、魔女ラーダが言いたいのは、このドレイクの大群は魔女シーアンドスカイがらみではないかということ。

 聖女ラムはもふもふとホットドックを食べて、コーラできゅっと喉を潤すと、ビシッと一葉に人差し指を向ける。

 

「カミヤァ! 美味しいオヤツを用意してなさい! あんな空飛ぶケダモノなんてあーしがみんな撃ち落としてあげるんだから! 行くわよ雑魚魔女」


 聖女ラムと魔女ラーダのドレイク緊急討伐クエストが始まった。

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