第20話

「いや、いやぁ…」

シャルロッテは、一歩一歩近付いてくるティファニーに向かって、いやいやと首を振る。

「どうしたの? 何が嫌なのか言ってくれないと分からないわ」

ティファニーは、シャルロッテのことを抱き締めようと手を広げる。


「いや、いやよ! こにゃいで、おかあしゃまこないで!」

シャルロッテは激しく抵抗し、じりじりと後ろに下がっていく。

「あら、なんで?」

ティファニーは、逃げ惑うシャルロッテの後をゆっくりとした足取りで、でも確実に追っていく。


「ティファニーいい加減にしろ!!」

ずっと黙って見ていたグラウィルだが、ついにティファニーの手がシャルロッテ伸ばされるという瞬間に、シャルロッテを庇った。

「いやぁね~、突然怒鳴るなんて。 私なんにもしてないわよ?」

「お前がそう思うならそう思っておけ。 とにかく今はもう帰れ!」

グラウィルは、ティファニーに向かってそう言い放った。


「なんでよ、帰るべきなのはあのむすめの方だわ!」

ティファニーはリリーフィアを指差しながら荒れ狂う。

「はやく連れていけ!」

グラウィルは、ティファニーですら気がつかないほどこっそりとついてきていた執事達に命令する。

執事達は素早い動きでティファニーを馬車に乗せると、すぐさま家に向かって馬を走らせた。


ティファニーがいなくなり、教会の中には静まりがよみがえった。

「え~、教会で騒いでしまったことを申し訳なく思う。 本当にすまなかった」

「いえいえ、大丈夫ですよ。 それよりも、国王様への報告はいつに致しますか?」

この国には、妖精の愛し子や聖女、賢者など、珍しい称号を持っている者は必ず家族全員で国王に報告をする義務があるのだ。


「あぁ、そうだな。 なら、一週間後はどうだ?」

「では、その様に手配しておきますので… 時間が決まりましたら、ご報告させていただきます」

ティオールはそう告げると、リリーフィアに声をかけた。


「リリーフィア様、よろしければこちらをお持ちください。 もしもの時に一度だけ、持ち主の身をを守るといわれている珊瑚さんごのブレスレットです」

「ありがとうごしゃいましゅなの」


魔法の効果が切れていたリリーフィアは、ブレスレットを受け取ると、とても嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

「いえいえ、礼にはおよびませんよ。 どうか、シャロン公爵家に女神様のご加護がありますように」

ティオールは両手を胸の前で交差させる、祈りの姿勢を取ると、シャロン家の幸せを願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る