第31話

グラウィルの後を追うようにして妖精の国に足を踏み入れようとしたフィーディアンは、国王を視界にいれると最後に希望の言葉を残した。

「どうしても妖精の国に行きたいのならば試してみるがよい。 この空間はあと五分だけこのまま持つからな」


フィーディアンが妖精の国に一歩足を踏み入れると、グラウィルの髪の色がみるみるうちにリリーフィア達そっくりだった金髪からプラチナブロンドへと色を変える。

そして瞳も濃い青からアクアマリンの様な薄い色へと変わった。


「無事に色が変わったようだな」

フィーディアンがグラウィルの姿を見て、今日初めての笑顔を見せた。


「私の色が変わると知っていたのか?」

グラウィルはフェアリーマジックで出した鏡を眺めながらそう問いかける。


「お父様は色が変わることをご存じなかったのですか?」


やけに流暢な口調で質問を返したのは、いつの間に傍に来ていたシャルロッテだった。


「お前、シャルロッテか…?」

グラウィルはシャルロッテの姿を見て動揺する。

「ええ、そうですわ。 でも、こちらの国ではシャルとお呼び下さいな」


シャルロッテは、髪と瞳の色こそ変化していなかったが、背中に立派な妖精の羽が生えていた。

そしてその羽も、ただ一色の普通の羽ではなく、角度や光の当たりかたによってどんな色にも見える不思議な羽だった。


「シャル様?」

「シャル様だ!」

「シャル様が帰ってきたよ!」


姿の変わったシャルロッテの姿を見て興奮の色を見せる妖精達。


「シャルロッテ、いや、シャルは何者なんだ?」

そんな妖精達の姿に、グラウィルは自分の娘に向けて不審そうな表情を向ける。


それを見たシャルロッテは、子供のようにクスクスと笑うと、羽を軽く羽ばたかせながら口を開いた。

「ひみつ! でもお父様はこの姿の私を絶対に知ってるよ? だってシャルは──だから」

「すまない、大事なところが上手く聞こえなかったからもう一度言ってくれるか?」

シャルロッテは口にひとさし指を当てると、ウインクをしてなーいしょ!と言ったのだった。


「おとうしゃま、しゃるりょって、はやくきてなの!」

抱っこから解放されたリリーフィアが、とてとてと小走りをしながらグラウィル達の元へと向かっていく。


リリーフィアはグラウィルの目の前で両手を差し出し、抱っこをせがんだ。

リリーフィアの行動に少しばかり動揺しながらも抱き上げるグラウィルに、妖精達はクスクスと笑う。


「そっちにいぬしゃんがいるの!」

連れていって欲しい場所を指し示したリリーフィアは、グラウィルを急かすかのように服をくいくいと引っ張る。

「わかった分かった。 今行ってやるから落ち着け」

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