第38話

「えっ? ああぁ~! そんなことないよ。 お願いだからリリーフィア、そんな目を僕に向けないで~!」


フィーディアンとの口喧嘩が終わっていないにも関わらず、リリーフィアの視線ひとつでシャラーティルの態度はコロリと変わった。


「ふふっ! 姫の行動に惑わされるシャラーティル、ここまで面白いものはないわね!」

リューシティアはシャラーティルのことを見るとまた笑い出した。


「もう、リューシティアまでひどい! そもそもはフィーディアンが悪いんだからね!?」

シャラーティルはほっぺをプク~と膨らませて怒る。


「しゃりゃーてぃりゅ、おもしりょいかおなの。 プク~ってしてるの」

プク~と頬を膨らませてシャラーティルを指差すリリーフィア。


「もう! リリーフィアまでひどいよ! お願いだからもうみんなやめてよ~!!」



   ***



「それでは、私はそろそろ家に帰るな。 また遊びに来るからそれまで元気にしてるんだぞ」

「ええ、分かりましたわお父様」

「おとうしゃま、もう帰っちゃうなの?」


リリーフィアはうるうるとした目でグラウィルの足に抱きつく。


「ああ、仕事もあるからな… 仕事が落ち着いたらまた来るし、なんならリリーフィアがこっちに来てもいいぞ」

グラウィルはリリーフィアの頭を撫でながら半分冗談で言った。


「わかったなの、フィアがそっちに行くのよ! だからね、まっててほちいなの」

「わかった分かった、ゆっくりと待っているからな。 それではまたな、リリーフィア。 シャル達も元気でやるといい」


そう言い残して、グラウィルはまたねとみんなが手を振る中、公爵家に帰っていったのだった。



「にしても、妖精の国に泊まりもしないで帰るなんてね。 もう少しのんびりしていってもよかったのに…」

「なに? もしかしてリューシティア、グラウィルが帰って寂しいの?」

「そっ、そんなことないわよ!」


さっきの仕返しとばかりにニヤニヤとしながら聞いたシャラーティルのことをぽこぽこと叩くリューシティア。


「痛い痛い… って、本気で叩かないでよ! 冗談抜きで痛いからさ!?」

笑いながらもそんなやり取りを繰り広げるふたりを見てリリーフィアはぼそりと呟いた。


「ふたり、なかよちなの… フィア、ともだちいないなの…」

「ん? リリーフィア、何か言ったか?」


微かにリリーフィアの呟きを聞き取ったフィーディアンが聞き返すが、リリーフィアは無理矢理笑みを繕って言った。


「なんでもないなの!」


怪訝そうな表情をしたフィーディアンだったが、仲良く喧嘩をしているふたりに目をやると声をかけた。

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