第39話

「ほら、そろそろ城の中に入るぞ。 リリーフィアに食事を作ってやらないといけないからな」

「は~い!」

「分かったわ」


ふたりは呆気なく喧嘩を終わらせると、そそくさと城の中へと戻っていった。


「あっ、リリーフィアが戻ってきたぞ」

「リリーフィアおかえり、もうすぐ夕ご飯完成するから待っててね」

リリーフィアの帰りに気が付いたサクラとハヤテがどこからともなく飛んできた。


「ふたりに先をこされちゃったみたいね」


リューシティアの言葉に首をかしげるふたり。


「サクラ、ハヤテ! そろそろ焦げそうだよ!」

風に乗って聞こえてきたスカイの叫び声に、ふたりは鞭を打ったかのようにもと来た道を戻る。


「あっ、リリーフィアまたあとでだぞ!」

去り際にハヤテがそう言い残し、返事を返す暇もなくふたりは飛び去っていった。


「なんか慌ただしかったね。 これぞまさしく席の暖まる暇もない、だね~」

「せきのあたた?」

「席の暖まる暇もない。 一か所にとどまる余裕も無いくらい忙しいって意味だよ」


首をかしげて聞いてきたリリーフィアに優しく答えてあげるシャラーティル、を眺めていたフェンリルは、伏せていた体を持ち上げるとフィーディアンに声をかけた。


「そろそろ家に戻ろうと思うのじゃが、お嬢さんに声をかけた方がよいかのう」

「そうだな、一声かけないと悲しむだろう。 ただでさえグラウィルと別れたばかりなんだからな」

「それもそうじゃな。 では、ちと声をかけてくるとするかのう」



ゆっくりとゆっくりと、リリーフィアが急に動いても傷つけてしまわないように慎重に近づいていくフェンリル。


「うみゅ? いぬしゃ、じゃなくて… ふぇんりりゅしゃんどうしたなの?」

そろりそろりと近づいてくるフェンリルに気が付いたリリーフィアが不思議そうにする。


「いや、家に帰るということを伝えに来たまでじゃよ。 お嬢さんは小さくてすぐに踏んでしまいそうでのう」


リリーフィアはぎゅっとフェンリルの足元に抱き付くと、うるうるとした瞳で見上げた。


「ふぇんりりゅしゃん、帰っちゃうの? フィア、さみしいなの」

「だ、だがのう…」

「さみしいなの」

「……分かった、今日ははここに泊まることに決めるかのう」


リリーフィアの可愛い圧に負けたフェンリルは、ため息をついたが、少しばかり嬉しそうに尻尾が揺れていた。



「リリーフィア、ご飯が出来たよ!」

遠くから風にのってサクラの声が聞こえる。

きっと空の妖精に頼んで声を届けて貰ったのだろう。

「ほらリリーフィア、ご飯が出来たみたいだからはやく行きましょう?」

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