第42話

リュクスはシャラーティルの腕の中に収まると、おやすみなさいと言って顔を脇に突っ込んだ。

「ちょっと、そんなところに顔をいれないでよ。 って、もう遅いか… おやすみリュクス、どうかいい夢見てね」



   ***



「リリーフィア、起きてよ… リリーフィア、ねぇってば」


すやすやと眠るリリーフィアの頬をツンツンと鼻先で突つく者がいた。

リュクスは翼をバサリと広げると、リリーフィアの胸の上に降り立つ。

そして、足踏みを始めたのだ。

「ねぇってば、リリーフィアったらお寝坊さんなんだから」

「ぅ、うぅん… むにゃ…」

「ねぇってば!」


「うりゅしゃいなの!」

何度も声をかけるうちにリリーフィアに怒られてしまったリュクス。


「リリーフィア? ほっぺがおもちみたいになってるよ?」

そう言ってリリーフィアの頬をつつくシャラ-ティル。


不快な朝を迎えたせいか頬がぷくぅ~と膨れていたリリーフィアは、涙目でシャラ-ティルに訴える。

「だって… だって、うましゃんが…」

「リュクスだよ! ペガサスのリュクス。 これからよろしくね、愛し子様」


空気を読まないリュクスは、勝手に自己紹介を始めた。


「そんなこときいてないなの! フィアはおこってるの!」

リリーフィアはプイッと横を向くと、布団の中に潜ってしまった。


「あ~あ、リリーフィアが拗ねちゃった」

シャラ-ティルは諦めの境地に陥り、両手を上にあげて降参の意を示した。


─カラン


ドアにかかっている飾りがなんとも言えない、気の抜けるような音を立てる。

こんな時に誰が来たのかと、シャラ-ティルが視線を向けた先にいたのは、我らの救世主、フィーディアンであった。


「なにをしてる、リリーフィアを起こすだけにどれほど時間をかける気だ」

言われたことひとつも出来ないシャラ-ティルに、フィーディアンは小さな怒りが芽生える。

「違うんだ、リリーフィアが拗ねちゃっただけであって、僕はちゃんと起こそうと…」

「言い訳はいい、とにかくそこのペガサスを連れて外に出てろ」

役立たずふたり組は、フィーディアンによって外に追い出された。


静かになった部屋の中は、リリーフィアとフィーディアンのふたりだけが残った。

フィーディアンは、ベッドに腰掛けながら、リリーフィアの頭があるであろう位置を撫でる。

「そろそろ顔を出したらどうだ? 布団の中は暑いだろ?」

「………ぃや、なの」

布団の中からくぐもってかすかに聞こえるリリーフィアの声。

それは、確かな否定を表していた。

これは骨が折れそうだと思いつつ、フィーディアンは小さなため息をついた。

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