第28話

「久しいな、クレイセル。 今はグラウィルと呼ぶべきか?」

黒の羽を持つ妖精がグラウィルに話しかけるが、グラウィルは困惑していた。


「すまないが、私はあなたを知らない。 どこかで会ったことがあるか?」

「まあ、僕らのこと覚えてなくてもしょうがないよね。 だって会ったのは前世だもの」


「はっ? 前世だと?」

グラウィルは軽く目を見開いて金の羽の妖精を見つめた。

「……勝手に話を進めないで貰えるか?」

話に置いてかれた国王が控え気味に声をかけてくる。


「すまなかった、人の国の王よ。 俺は黒の妖精フィーディアンだ」

「僕は金の妖精シャラーティルだよ。 改めてよろしくね、人の国の皆さん」

フィーディアンは素っ気ない挨拶だが、シャラーティルは人懐っこそうな笑みを浮かべて手を差し出した。


その手を握った国王の腕を引っ張り、シャラーティルは耳許に口を近付けた。

「愛し子に手をだそうものなら次は容赦しないからね、国王様?」

「何のことか分からないな?」


シャラーティルは肩をすくめると、声を低くして言う。

「だって、あわよくば愛し子を国に有利になるように使してたんでしょ? 道具としてね」


「な、何を言って…」

正解だと言っているも同然な国王の様子を見てにっこりと笑うと、シャラーティルは国王の傍から離れていった。

「で、話を戻すが前世で会ったとはどういうことだ?」


「…その前に、部屋を変えましょうよ」

「てぃ、ティファニー!? いつの間に復活したんだ?」

立ち上がってドレスの汚れを払っているティファニーの一言で部屋を移動しながらも、グラウィルは驚きを隠せないようだ。


「私が治したの! だってフィーディアン様が動く度に邪魔そうにしてたんだもん」

そう言って手を上げたのはハヤテと同じ若葉色の妖精だった。


「そうか、気を遣ってくれて感謝する。 確かに邪魔だったから助かった。 で、なぜ俺らがグラウィルを知っているかだったな」


移動し、全員ソファーに腰かけたことを確認すると、フィーディアンはすぐに話を切り出した。


「それは俺らが妖精であり、グラウィルが愛し子だったからだ」

「「はっ? 愛し子?」」

この場にいる大人全員が一斉に驚きの声をあげる。


そして驚きの声をあげたのは人だけではなかった。

リリーフィアの傍にいた妖精達もみんな声をあげたのだ。

逆に声をあげなかったのは、グラウィルの愛し子時代を知っているシャラーティルと、なぜか唯一平然としていたシャルロッテだけだろうか。


「愛し子って、どういうことだ?」

「どうもなにも、グラウィルの前世はクレイセル・シャロンだ。 シャロン公爵であり、妖精の愛し子だった」

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