第36話

蹴りを入れられたお腹を押さえてうずくまったふたりだったが、案外けろっとしていた。


「うぅ、痛い… まったく、フィーディアンは乱暴なんだから」

「そうよ、レディーファーストって言葉を知らないの?」

「知ってはいるが、その言葉の意味とリューシティアの言いたいことは違うと思うぞ」

「そんなの知らないわよ。 シャル様が言っていた言葉を真似しただけだもの」


フィーディアンはため息を吐きながらもふたりの腕を引っ張り立たせる。


「とまぁ、こんな俺らだがこれからよろしくなクレイセル」


あの時も、今と変わらぬような光景が繰り広げられていたと、改めてグラウィルは痛感した。


「昔と何も変わらない… 本当に戻ってきたんだな。 改めて今生こんじょうでもよろしく頼む、妖精達よ!」


「「もちろん!」」

「「よろしくね!」」

「あぁ、任せておけ」

妖精達は声を揃えて口々に言った。


「フェンリルもよろしくな」

「こちらこそ、よろしく頼むよ。 お嬢さんもよろしくのう」

「いぬしゃんよろちくなの」

グラウィルは差し出されたままだったリューシティアの手を握る。


「今回はちゃんと握手ができたな」

リューシティア達は目を見開いてグラウィルのことを見つめた。

「グラウィル、記憶が戻ったのか…?」

「うそ… 記憶が戻るなんてことある…?」

「フィーディアン、シャラーティル、今はそんなことを気にする時ではないわよ! 私達が言えることはただひとつ… お帰りクレイセル、そしてグラウィル、ようこそ妖精の国へ!」

リューシティアはもう片方の手でグラウィルの手を包み込むと、にっこりと笑った。


「それじゃあ、挨拶も済んだことだしそろそろ花畑に行こうか」

まだ諦めていなかったらしいシャラーティルは、リリーフィアを抱き上げて回れ右をしようとする。


─ゴンッ!


「いった~い! シャルが僕のこと叩いた~」

シャラーティルは片手でリリーフィアのことを抱くと、もう片方の手で頭を押さえた。


「しゃりゃーてぃりゅ、いたいたいなの?」

リリーフィアはシャラーティルの頭を見て言う。

「大丈夫だよ、リリーフィア」

「でもいたそうなの… フィアがよしよししてあげるなの!」

リリーフィアは、「いたくないなのよ~」と歌いながらシャラーティルの頭をなで続ける。


「あれ? 姫の瞳が…すみれ色になってない?」

「金の粉も舞ってるな」

すぐさまリリーフィアの変化に気が付いたふたりは、静かに様子を見守る。

「リリーフィア、ありがとう。 もうなでなくて良いよ。 って、あれ? 痛みが引いてる…?」

頭を押さえていたシャラーティルはリリーフィアの変化に気が付いていないのか、不思議そうな顔をしていた。

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