第35話

「あら、ごめんなさいね。 ちょっと力加減を間違えちゃったみたい」

「すまなかったのう。 ちと勢いをつけすぎてしもうたようじゃ」

「いや、大丈夫だ…って、そうじゃなくて誰だ!? リューシティア…?も私の知り合いなのか?」

グラウィルはコロコロと表情を変える。

「あははっ、グラウィルの表情変わりすぎ! そうだよ、リューシティアはグラウィルの前世を知っている。 僕らと同じ存在だね」

シャラーティルは笑いながらも質問にきちんと答えた。


「リューシティア、一応自己紹介をしておけ」

「はぁい、わかったわ。 じゃあ改めまして、私はリューシティア。 月白げっぱくの妖精よ」

「月白……? それはどんな妖精なんだ?」

グラウィルは顎に手を当てて呟く。

「月白の妖精は呼び方からも分かるように月の妖精よ。 この世に月があるかぎりは妖精王と同等の力を持つの。 だから普段は妖精王の補佐を、妖精王がいない時は妖精王の仕事を主にしているわ」

よろしくねと言いながら差し出されたリューシティアの手をグラウィルが握ろうとしたところで、シャラーティルが大きな声をあげた。

「あっ、こっちに花畑があるよ! おいでよ、グラウィル!」

「ちょっと! 今から……」


グラウィルはふたりのやりとりに目を見開いた。

それと同時に、ある光景が頭の中に浮かぶ。



「これからよろしくね、クレイセル」

「早くおいでよ、クレイセル! こっちに花畑があるよ!」

まだ幼さの残るクレイセルに手を差し出すリューシティアを押し退け、クレイセルを花畑に連れていこうとするシャラーティル。


それは、初めて妖精の国へ来た時の記憶であった。


「ちょっとシャラーティル!? 今は私の自己紹介を聞くべきでしょう? なのに何で口を挟んでくるのよ!」

「えぇ~、別に僕がクレイセルをどうしようが僕の自由じゃん。 リューシティアにどうこう言われたくはないよ」

口論になりかけているふたりを止めるべきなのかと思いつつも、どうすれば良いか分からずに右往左往しているクレイセル。

そんな彼の肩をポンッと叩くのはフィーディアンだ。

「大丈夫だ、クレイセル。 俺に任せておけ」

フィーディアンは深呼吸をひとつすると、大きな声でふたりを制した。

だが興奮しているふたりがこちらの話を聞いている訳がない。

何度か声をかけたフィーディアンだったが、ついに我慢の限界が来たようだ。

「お前ら、いい加減にしろ!」

ふたりに一気に近づき、回し蹴りを食らわすフィーディアン。

「「うっ!」」

そして吹き飛ばされかけるもなんとかその場で耐えたふたり。

そんな三人を見て余計にオロオロとするクレイセル。

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