第6話 親と子の思いやり
「
「私? 私はなぁ……」
渚沙は自分の学生時代のことを思い出す。そう遠い過去では無いし、人生の節目と言われるイベントでもあるので、はっきりと覚えている。
小学校も中学校も学区内の公立でのんびり過ごしていたし、高校も自分の学力から少しばかり背伸びをした公立を受験した。滑り止めに余裕を持った私立も受けて、幸い両方合格できたので、公立に通うことになった。
以前は大阪府の公立高校は学区が定められていて、住民票の場所によって進学できる高校の範囲が決まっていた。今はそれが
極端なことを言うと、大阪の最北端である
渚沙も無理無く通える場所の高校を選んだ。日本は高校にしても大学にしても、受験の壁は高いが、突破してしまえば多少は緩くなるものである。渚沙もそれぞれ受験勉強は励んだが、入学した後のお勉強はテスト前に集中するぐらいだった。
とは言え、ここで自分の実力に見合わない高偏差値の学校を選んでしまうと、それどころでは無い。
頑張りが実って合格でき、無事入学を果たしたとしても、自分の勉強力の底上げと大学受験のためだけに3年間を
渚沙が聞いた話では、そうした高校に入った同級生が、休日の娯楽でも単語帳や勉強用のタブレットなどを手放せず、隙あらば学識を詰め込もうとしていたらしいのだ。いつも疲れた顔をしていたと言う。だから徐々に誘いにくくなってしまったそうだ。
あまり親しく無い子だったし、渚沙も風の噂程度で耳にしたことなので、どこまで本当だったのかは判らない。だが渚沙の価値観では、そこまでする様なことか? と思ったものだった。
そうすることの是非は、やはりそれぞれの価値観である。どれだけ無理をしてでも、将来良い大学に入りたい、大手企業に就職したい、地位のある職に就きたい、そう思う人は存在するのだ。ただ渚沙がそうでは無いと言うだけで。
渚沙はそれなりの高校を出て、それなりの大学に通い、それなりの企業に就職して、今は下町あびこのたこ焼き屋の主人である。
特別お勉強ができたわけでは無いが、悪くも無かった。なので渚沙は高学歴とは言い切れないものがある。だが渚沙自身は不満に思っていない。それが自分の実力だからだ。自分なりに頑張れるだけ頑張った結果なのである。
日々せっせとたこ焼きを焼きながら、
「そんな感じやな。さすがにヌルゲーとまでは言わんけど、無理の無い範囲やったわ」
「そうか。やっぱり和馬は無理をしておると思うか?」
「そうやなぁ。正直、そんな家庭環境やったら、あんま塾とかは行かれへんかったかも知れんし、その状態で私立の小学校に受かるんやから、地頭はええんやと思う。
自分ができなかったから、せめて自分の子には、と思うのは、親が
親はもちろん子の幸せを願い、良かれと思って導くのである。そこに子の特性を思いやる余裕は無い。正確に言うと思いやっているつもりなのだ。だがどうしても自らの希望が押し出されてしまう。
子を思うがあまり、
それほどまでに、親の愛は大きいのだ。和馬くんの母親もそうだから、朝から深夜まで和馬くんのために身を
だからこそ、できるなら和馬くんが望む道を分かってあげて欲しい。和馬くんは母親の望みを叶えてあげたいと奮闘し、それゆえに気力が切れてしまったのだろうから。
それでも、そうなってしまった和馬くんを休ませてあげているのだから、それは大きな救いなのだろう。
渚沙がそれを口にすると、座敷童子は「そうじゃな」と納得した様に頷く。
「まずは母親に余裕を作ってやることじゃな。と言うわけで、今日からわしは和馬の家に行くことにする」
それは、本格的に座敷童子が和馬くんのお家に憑くことを意味する。そうなると和馬くんのお家は主に金銭的に発展するだろう。
「分かった。うちの繁忙期も、ひとまず終わりやな」
「平和な「さかなし」が戻って来るのだカピな。次はわらしが励む番カピな」
「うむ。また報告に来る。それまで待っておれ」
座敷童子は
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