第7話 親の期待と子どもの器
朝ごはんを食べ終え、
昨日の営業後に仕込んでおいた水出しのお出汁は、座敷童子モードだっただめに量が多い。
「渚沙、今日からお昼もいつものお弁当で大丈夫だカピな」
「そやね。でもおにぎりで充分やで。美味しいもん」
「駄目カピ。栄養が
「オカンか」
渚沙はくすりと笑った。
「何やの、またえらいお客が落ち着いたや無いの」
おやつの時間帯に訪れた
「みんな飽きたんか?」
「そうかも知れへんねぇ」
渚沙は何気無く言ってごまかす。そりゃあ昨日まではひっきりなしにお客さまがいたのに、突然これでは
座敷童子期間には毎日来ていた
それが切れたなら、和馬くんも別のものが食べたくなるだろう。コンビニやスーパー、お弁当屋さんに行けばいろいろなごはんが選べる。商店街に行けばお惣菜屋さんだってあるのだから。
飲食店を経営する渚沙からすれば、和馬くんが美味しいものをお腹いっぱい食べてくれていたらなと思ってしまう。美味しいものは人を幸せにするのだから。
そうして英気を養い、また学校に行ける様に元気になれば良いなと思う。
渚沙は、義務教育の間は、学校に行きたく無ければ行かなければ良いのでは、と思っていたりもする。いろいろなものに向き不向きがあるのだから、学校だってそうだ。渚沙は幸い学校にはそれなりに楽しく通えたが、そうで無い子だってたくさんいると思う。
学生生活が充実していることは、ひとつの
それがストレスになり、巧く解消できなかったら積もりに積もって爆発して、精神のバランスや体調を崩してしまう
イフを言い出せばきりが無い。そう思うと深く考えずに行動できることは、ラッキーなのだなと本当に思う。
和馬くんの場合は、あくまで想像でしか無いのだが、母親からのプレッシャーなのだろう。しかし、親が子どもにある程度の期待を掛けてしまうのは、致し方無いのではと渚沙は思う。
極端なことを言うと、「ただ元気でいてくれれば良い」も期待のひとつではある。とは言え、怪我や病気をしないで育つ子どもなんて、きっといないのだろうが。
その期待が大きくなればなるほど、それを子どもが感じ取れば取るほど、子どもへの負担は大きくなってしまうのでは無いかと渚沙は思うのだ。
要はバランスなのだな、と感じる。親の期待を受け止める度量が子どもにあるか。それを幼い子に課すのはやはり
「なぁ、弘子おばちゃん」
「ん?」
弘子おばちゃんは今日も、店内でポン酢マヨネーズを塗ったたこ焼きを、スーパードライの缶ビールで楽しんでいた。
「おばちゃんてさぁ、息子さんに何か期待とかしてた?」
「期待て?」
「こうさぁ、育てながらこんな風になって欲しいとか、こんなんになって欲しいとか」
「あー」
弘子おばちゃんはごくりと缶ビールを飲みながら、考える様に天を仰ぐ。
「うちはひとり育てるだけで精一杯やったからなぁ。とにかく大きな問題があらへん様にってそんなんばっかり思っとったかもなぁ。でも保育園とか幼稚園に預けとったら病気せん子はおらんからな。そうやって
「そうなんや」
「そんなもんや。せやからとにかく大きな怪我はせんでくれ、大きな病気にはならんでくれ、そんなこと思っとったな。幸いあれへんで大人になってくれたから、ほんまにほっとしてるわ」
「やっぱり親としては、健康とかがいちばんやろか」
「そりゃあそうやろ。でもな、親も
「そんなもん?」
「そんなもんや。例えばフィギュアスケートとかピアノとかな、親がやらせたとして、子どもが嫌やて言うた時に、親がそれを聞いてくれるか、無理に続けさせるかは、全然ちゃうやろ。今の時代、無理にさすんは虐待っちゅうんか? そんなんになるやろ。そりゃあ子どもの好きばっかりにはさせられへんけど、子どもにかて思うことはあるんやから、ちゃんと聞いたらなあかんわな。それができひんかったら、ただの親の独り善がりや。子どものことを思ってっちゅうんは分かるんやけどな」
これができたから、では次はこれをさせてあげよう、これをして欲しい。それも確かに親の愛なのだろう。今、スポーツでも芸術でも、世界規模で活躍している人がたくさんいる。そんな風になって欲しい、もしくは自分ができなかったから、せめて子どもには、と。
「ま、私も今やから言えるこっちゃ。子育て真っ最中できでわしい時にそこまで考えられるかっちゅうたら難しいかも知れんな。どっちにしても子どものことを思ってっちゅうんは間違いが無いんやから」
事情や思惑はいろいろだろうが、それは子どものためだと言う
和馬くんの場合はどうだったのだろう。渚沙は今更ながらに気になってしまうのだった。
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