概要
勇者とその仲間たちによって、人間と魔族との対立が終わり、共存宣言がされた世界。
「光の聖女」と呼ばれていたモルゲンは、本当は微生物学者。勇者との旅が終わったあと、政争に巻き込まれる前に聖女を返上したモルゲンは、人間と魔族が暮らす港町モクムで、『雑貨店リヒト』という店を構えていた。
まだ菌の概念が理解させず、経営は中々厳しいけれど、弟子のユリアや、かつての仲間との交流を重ねる日々。
ところが、勇者ことアルトゥールの様子がおかしくて……?
価値観がゆらぐ多様性の世界で、足りない愛を探そうと、一生懸命生きる彼らを取り巻く微生物の物語。
不定期に18時に更新。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!見えないものたちの交響詩
剣と魔法、勇者と聖女が登場するファンタジー。
しかし、そこで描かれる人々の悩みや社会の軋轢は、私たちの暮らす現実の延長線上にあります。
かつて世界を救った聖女モルゲンは、今は街角の小さな雑貨店で微生物の研究に没頭しています。
聖女の華々しい奇跡ではなく、パンを膨らませる酵母や、紅茶の香りを豊かにする菌といった、目に見えない小さな存在の働きにこそ、世界の真実があることを、この物語は教えてくれます。
物語の軸となる「共生」というテーマは、微生物たちの営みを通して、驚くほど豊かに、そして深く描かれています。
異なる菌が出会うことで美味しいチーズが生まれる「発酵」のように、人間と魔族、考え方も生…続きを読む - ★★★ Excellent!!!種族が違うから それは理由にしていいの?
とんでもないことをしでかし(本人無自覚)、『光の聖女』と名乗らざる得なかったモルゲンは人間と魔族の共生の旅を終え、知識を活かして雑貨屋を営んでいた。
彼女の専門は『微生物学』の『真菌』。菌だからと忌避してはならない。紅茶に、納豆、ヨーグルト、果てはイワシの缶詰まで。時に薬となり、毒となり、切っても切れない存在だ。
人間と魔族――切っても切れない関係はどう共生していくのか。彼女は自身に世界に問うていく。
読み進めるとぐっさぐっさと刺してくるんですね。心をえぐられますよ、本当に。
しかし、それが正しいのです。一人の頭で作られた常識なんて、めためたにされてしまえばいいのです。
何を言っているか…続きを読む - ★★★ Excellent!!!異世界ファンタジーを微生物学で深掘り!人間と魔族が共生するために。
「ヒトは愛するために遠くへ行くの」まで読了時点でのレビューになります。
舞台は人間と魔族の戦いが終戦した後の世界。勇者パーティの一人である元聖女モルゲンの生活を軸に、両種族の折り合いを見つめていく。
このお話の柱になっているのが、微生物。
結びつき、繁殖し、変質するその性質は一見異世界ファンタジーと無関係のように思えますが、人間と魔族が共に生きるようになった多様性の社会の写し鏡でもあります。読んでいてハッとする場面が多々あり、裏付けされた知識は強い説得力となって物語を後押ししています。かと言って小難しいお話ばかりではなく、個性的なキャラクターたちの魅力に引き込まれているうちに、きっと次々…続きを読む - ★★★ Excellent!!!祈るだけが聖女じゃない
この物語の始まりは、人間と魔族の対立が終わったところから。
勇者、僧侶、魔法使い、そして――聖女。四人の勇者パーティーの活躍により、平穏に戻った世界は、多様性に溢れた世になった。
人間と魔族が共存すると言っても、蟠りは容易には消えやしない。人と人のちょっとした差でも争うのに、容易には蟠りは消えないだろう。
祈りを捧げるだけが聖女ではないし、聖女とて人である。しかも、光の聖女を名乗ってはいたが、本当は微生物学者。彼女が、如何にして勇者達と共に平和を取り戻したのか。
人と人の違いとは何なのか、平和とは何なのかを、この物語は教えてくれる。
また、主人公の得意分野である微生物や細菌。パンに始ま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ファンタジーと微生物学と現代社会が映し出すモラリティーの融合の妙!
多く方がレビューをされているように、ファンタジーながら、設定は現実社会にも通じる生物学のエッセンスが散りばめられているオリジナリティー溢れる小説です。
一方で、魔族と人間とか異種族間の差別や偏見など、ファンタジー要素を含みながらも、我々読者にも問題提起を投げかけるような作品となっております。
と言いながらも、堅苦しすぎず重すぎず、街の雑貨屋を拠点に話が進んでいき、キャラクターの軽妙なやり取りもあり、奥が深いにも関わらず読者がどこか安心できるような配慮が印象的です。
そして、とにかく主人公のモルゲンさんの微生物や発酵の知識量がすごいです。
生活の中の一コマを科学的に説明していくので普通に…続きを読む