第23話:号泣

「ヨム、いるんだろ?」


 俺は隣の家に行った。隣の家はばあちゃんの家、そしてヨムの家だった。


 ばあちゃんは既に亡くなっていて、今ではヨムが一人で住んでいる。


 広い一軒家に一人。彼女は何を思ってここに住んでいるのだろう。


「ヨム!どういうことか教えてくれ!」


 俺は玄関戸をバンバン叩いた。古いガラスがビシビシ音を立てた。建物自体が古そうなので壊れそうでもあった。


(ガラガラ!)「そんなに叩かないで!壊れちゃうでしょ!」


 ヨムは怒っていた。でも、その表情は見えない。俺と目線を合わせてくれない、顔を向けてくれていないのだ。


「入って」


 それだけ言うと、ヨムは家の廊下を歩きリビングの方に進んだ。俺は後からついて行った。


「ヨム、あれはどういうことだ?あの本はなんだ?」

「言ったでしょ?あれはシオリちゃんの心」


 彼女は俺に背を向けたまま答えた。せっかくリビングに通されたけれど、俺もヨムも立ったままだった。


「じゃあ、なんであんなことしたんだよ」

「シオリちゃんはズルい。昔からそうだった」


 昔からシオリとヨムは仲が良かったと思うけど、彼女がこんな不満を持っていたとは思わなかった。


「シオリちゃんは何にもしなくても全部持ってた」


 そんなことを言っても、シオリもヨムもタイプが違う美少女だと思うし。比べるのがおかしいと思う。


「シオリちゃんは本当の妹なのに、お兄ちゃんに告白されて彼女にもなっちゃいそうだったし!」


『本当の妹』と言っても、シオリは義理の妹だ。本当の妹と言っていいのか疑問だ。まあ、ヨムはいとこなので本来妹でも何でもない。


「お前たちは別に両方とも本当の妹って訳じゃ……」

「なんでっ!?なんでいつもシオリちゃんなのっ!?」


 ヨムが目に涙をいっぱいに浮かべきっとにらみながら言った。


「なんでシオリちゃん!?私でいいじゃない!私はお兄ちゃんが好き!素直に好きなのに!私の方がシオリちゃんよりお兄ちゃんのこと好きなのに!」

「お、おう」


 ヨムはある程度俺に好意を持ってくれていると思っていたけれど、こんなにはっきり告白されたのは初めてだ。


「でも、ごめん。俺は……」

「なんで!?なんでダメなの!?」


 ヨムがその場で地団太を踏んだ。いつもひょうひょうとしている感じの、どちらかと言うと冷静なヨムからは想像がつかない反応だった。


「私と付き合おうよ!絶対楽しいから!絶対に幸せにするから!」


 ヨムが詰め寄ってくる。でも、その眼には涙があふれている。目からこぼれ続けていた。


 これだけ言っていても、ダメだと分かっているのだろう。


「ヨムのことも好きだ。でも、妹っていうか、家族みたいに思っていて……」

「そんなきれいごと聞きたくない!シオリちゃんじゃなくて私を選んで!」


 泣きじゃくるヨム。こんなことになるなんて……。


 こんな状態でも、今 俺が知りたいのはシオリのこと。彼女の記憶の戻し方だった。


 だから、見逃していた。彼女がまだ話していないことがあることを。

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