第13話:屋上のあいつ

 ネコにシオリが引っ張られ、シオリが俺を引っ張って、三人で屋上に来た。


 大きなカブだろうか。


 昼休みに三人で弁当を食べると言っても、食料となるものはネコが持っている1人分の弁当のみ。分けると言っても女子らしい申し訳程度のお弁当箱。


 三人で分けてしまったら、おにぎりに換算しても1人1個があるかどうかも怪しい程の質量の弁当だ。


 人間はそんなに燃費が良くは出来ていない。あれっぽっちではすぐにお腹が空く。しかも、三人で分けたら「こんだけ~?」と色々間違えたイッコーさんのようになってしまう。


 そんなバカなことを考えていた屋上に来てしまった。


 鉄の扉を開けたらそこにいたのはヨムだった。


「はろはろー♪待ってたよ」


 ヨムは手に大きな包みを持っていた。おそらく弁当だ。それも花見にでも持っていくような大きなお重だ。


 なぜこいつがここにいるのか。そして、弁当を持っているのか。色々疑問はあるのだけど、「食糧問題」が解決した俺はなんとなく安堵していた。


 それにしても、なぜ仁王立ち?


 ここで、ヨムが考えていることを俺は知る由もなかった。


 □文尾ヨムの場合

 お兄ちゃんが危ない。


 シオリちゃんに狙われている。


 これまで、シオリちゃんはお兄ちゃんに興味がなさそうだった。いや、違う。本当は好きなくせに興味がないふりをしていた。


 ……と思う。


 そのシオリちゃんがお兄ちゃんに告られた。


 直後、シオリちゃんは変わっちゃった。なにがどうなっちゃったのか分からない。だから、そっちはとりあえずスルー。


 注目すべきはお兄ちゃん。


 シオリちゃんの変化に大注目してる。このままだとお兄ちゃんの興味はシオリちゃんにうばわれちゃう。


 お兄ちゃんの興味を引くためには、色気か食い気か……とにかく、お兄ちゃんの興味がある物を目の前に提示する必要がある。


 色気は……真下を見たけれど、つま先がバッチリ見える。


 私は体形にあまり恵まれなかったから、幼児体形で擬音で言ったら「ストーン」だ。


 これではお兄ちゃんが特殊な性癖を持っていない限り惹きつけるのは難しそうだ。


 色気がダメなら食い気……という訳で昨日から豪華で大量のご飯を準備していた。


 多分、こうなることを私は予想していた。


 シオリちゃんの動き、お兄ちゃんの動き、ネコちゃんの動き……それらを考慮したら、このお弁当が最高に効果を発揮する場所は昼休みの屋上だった。


「ヨムが作ったのか!?ちゃんと食べられるんだろうな?」


 よし、お兄ちゃんを埋めよう!


「待て、ヨム!お前の目から殺気のようなものを感じる!」


 お兄ちゃんはたじろいでいる。どうも伝わらなくていいことはお兄ちゃんによく伝わって、伝わってほしいことは伝わらないらしい。


「うーん、中々の味付けですね~」

「ちょっ!」


 気付かない間にネコちゃんがお弁当を食べ始めてる!


「それにしても、豪勢だな。季節外れの花見か?」

「お兄ちゃんは文句言うなら食べないで!」

「なはは、悪い悪い~」


 こんな軽口をたたいていても、シオリちゃんだけは表情が真剣だった。


「食べないのか?シオリ。せっかくヨムが準備してくれたのに」

「え?……うん」


 浮かない表情のシオリちゃん。てか、お弁当はまだ食べていいって言ってないのに!

 いつの間にか屋上にシートを広げてみんな座っていた。


 こうして昼休みのお弁当会は始まった。


 でも、終始シオリちゃんの表情は暗く、お兄ちゃんもずっとシオリちゃんを気にしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る