第11話:生徒会室
「兄さん、ちょっと待ってください」
生徒会室を前にシオリに呼び止められた。
自然な感じで学校に入り、俺たちが並んで歩いているということで若干の注目はされたものの、特に問題なく生徒会室前に着いた直後である。
「どうした。入らないのか?もう、いつもよりは遅い時間だと思うけど……」
「だから、ちょっと待って」
シオリは心の中で何か決意するようだった。
「モハっ!」
「わぁ!びっくりした!」
彼女が急に大きな声を出したので、俺が驚いた。そして、その直後だった。
(ガラガラガラ)「おはようございまーーーす!」
大きな声と大きな笑顔と共にシオリが生徒会室に入った。
「おはようございます!」
「おはようございます」
「あ、会長。早速ですいません。この予算なんですけど……」
何事もなかったかのように生徒会室に飲み込まれていった。
「ちょ、ちょっと待って!……ちょ待てよ!」
なぜ、キムタクのモノマネ? しかも、なぜ言い直しての!?一度言ってから、あとから思いついたパターンか!?
「どうしたんですか?会長」
「あれ?そちらは……?」
ようやく俺は気づかれたらしい。景色に溶け込むとか俺の「モブ力」もなかなかのものだ。
……なんだ「モブ力」って。
「私ね、昨日お風呂で滑ってちょっと頭を打っちゃったみたいなの」
「大変じゃないですか!大丈夫だったんですか!?」
周囲の女子が心配してくれていた。
「だから、たまーにド忘れするかもだから、今日からしばらくだけお兄ちゃんにサポートしてもらうから」
「お兄ちゃん……会長、お兄さんがいたんですか?」
俺とシオリはおない歳だけど、双子ではない。学校では好奇の目に晒されると思ったので、あまり公表していない事実だ。
仲が良い友達には話しているみたいだったけど、生徒会では知ってる人と知らない人がいたはず……。
「そそ。この人!」
シオリが嬉しそうに俺の腕を引っ張った。
「サポートは構いませんが、会長は大丈夫なんですか?」
「カルボン酸とアルコールを融合させて水分子を取り除くことは!?……カルボキシル基のエステル化!ね?大丈夫でしょ?」
おい、お前本当に記憶がないのか!?そのエステル化ってやつは俺も知らないんだが……。
「会長、たしか選択は物理だったのでは……?」
「専門でもない化学でもこれくらい行けるぞって話よ!」
生徒会役員にツッコまれてとっ散らかるシオリ。
「冨樫先生とか鳥山明先生とかのやつよ!十分強いのに、実は重しのブレスレットやアンクレットを付けてました……みたいな!」
お前記憶喪失嘘だろ!なんなら、記憶喪失前のシオリでは知らないことを知ってるのはなんだ!
「さすが会長ですね!感動しました!でも、調子悪かったら休まれてくださいね。私達がなんとかしますから」
「ありがとう。もしもの時はお願いね。頼りにしてるわ」
「///」
話してた女子が顔を真っ赤にして俯いてしまった。ジゴロの才能でもあるのかこいつ。
シオリが誰にも気づかれないようにこちらを向いて、「フッ」と微笑んだ。悪い笑顔だ。
少し見下すみたいに「どう?」って言ってるみたい。何も音を発していないのに、ヤツの心の声が伝わってくるようだ!
ちくしょう。美少女め!記憶すらないやつがあっさり生徒会に入り込んだだけじゃなく、なんの実績もない俺をもそこにねじ込みやがった。
俺の若干な悔しさは顔に出ていたらしく、その顔を見たシオリはご満悦のようだった。
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