第4話:告白

 みんなで料理を食べて、片付けはヨムとネコが引き受けてくれた。シオリも申し出たようだったが、誕生日だということで手伝わせてもらえなかったようだ。


 なんだかんだ言って三人は仲がいい。


 部屋の飾りの片づけは明日以降、俺が一人ですることになるのだろう。まあ、自分でやったのだから、片付けまで責任を持ちたいと思う。


 そのうち、ヨムとネコが帰宅した。


 この家に俺とシオリの二人だけになり、華やかな部屋の飾り付けが一層むなしくなった。


 リビングでコーヒーを飲む俺。ちなみに、シオリも同じテーブルで大人しくコーヒーを飲んでいる。


 ……気まずい。告白前とはもっとドキドキ、ワクワクするものではないのだろうか。今の俺の心境は、怒られることが確定している子供のようなもの。


 ドキドキというよりはソワソワ、ワクワクというよりはビクビク。


 シオリが一瞬こちらをチラリと見たと思ったら、カップをキッチンに置いて部屋に退散するようだった。


「あ……」

「なに?」


 俺が声をかけたので、シオリが立ち止まった。


「これ」


 5センチ角で厚さが3センチほどのピンク色の小箱をテーブルの上に滑らすように置いた。


「なに?」


 シオリはその箱を見た上で訊ねた。


「一応、プレゼント。誕生日の」

「……」


 俺の言葉を聞いてもシオリは動かない。


「受け取ってくれないと無駄になるんだが……」


 俺はピンク色の小箱を持ち上げ彼女の方に差し出した。


「あり……がと」


 かすれるような声と共に受け取るシオリ。とりあえず、渡すことはできた。


 その後、彼女がリビングの扉を閉めた直後、俺は追いかけ慌ててドアを開けた。


 廊下にいたシオリはこちらを振り返りもしない。しかし、歩みは止めた。止めてくれた。


「なぁ……」


 告白の時に相手にかける声としてこれは合っているのだろうか。


「……なに?」


 シオリは静かに、冷たい声で訊ねた。相変わらず振り返ってくれないので彼女の表情は読み取れない。


「誕生日おめでとう」

「……カケルも」


 一応、俺のことも祝ってくれているのだろうか。なにしろ、俺と彼女の誕生日は同じなのだから。


「なぁ……」

「なに?」


 この空気、大概のことは否定されそうだ。例えば、「1億円あげます」と言ったとしても「NO」という返事が返って来る気がする。


 変なテンションだったのかもしれない。そんな中、俺は今もっともOKをもらえないような事を俺は口走った。


「シオリ、ずっと好きなんだ。俺と付き合ってくれ」


 シオリの無言の背中が一瞬ビクリとした。


 俺の告白は彼女に寒気を催させるほどのものだったのだろうか。


「……」

「……」


 相変わらず振り返ることが無いシオリ。


 重ねる言葉を思いつかない俺。


 二人の間に沈黙が広がった。


 10秒か、1分か、10分か、永遠にも感じるほどの長い沈黙の後、先に言葉を発したのはシオリだった。


「明日……答えるから」


 彼女は振り返ることなくそう答えた。


 それだけ言い残すとそそくさと廊下を小走りで駆け抜け、タンタンと階段を駆け上がり、自分の部屋に引きこもってしまった。


 彼女の姿が消えた後、俺はその場に座り込んでしまった。緊張の糸が切れたというか、エネルギー切れを起こしたというか……。とにかく、全身の力が抜けたのだった。

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