第22話:ヨムとの出会い

「兄さん、それには触らない方が良いかもしれません」


 シオリの本を拾い上げようとしたとき、後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、シオリが目覚めてベッドで上半身を起こしていた。


「シオリ!?」


 そこには口元に少し微笑みを浮かべたシオリが座っていた。


「うん、私は大丈夫。話は聞こえていたから私も状況は理解したわ。お兄ちゃんも大体分かったんでしょう?」

「ああ……」


 今のシオリは記憶がないシオリ……のはず。


「今私がその本を手にしてしまったら、お兄ちゃんに対して素直になれないシオリさんに戻ってしまう可能性があるわ。今はヨムちゃんのところに行ってあげて」

「わ、分かった……」


 俺は本を机の上に置き、急いでヨムのところに行くことにした。


「すまん、シオリ。すぐに戻る!」


 俺は急いでヨムを追った。


 ***


 思えば俺とヨムの出会いは小学生の頃だった。


 詳しい関係は知らないけど、彼女は俺のいとこと言うことだった。


「カケル、引っ越してきたヨムだ。面倒を見てやってくれ」


 そう言ったのは既に亡くなったばあちゃんだ。


 俺もまだ小さくて女の子と一緒に過ごすのには照れがあった。友達と遊ぶときに連れて行くのは恥ずかしかった。


「嫌だ。……恥ずかしい」


 裏の家の縁側に座ったばあちゃんが無言でニコニコしていた。俺の否定に反してニコニコしていた。


「じゃあ、妹にしてやってくれ。シオリみたいに一緒に連れて行ったらいいだろ?」


 シオリも少し前に突然できた妹だった。


 あいつは俺がいないとすぐに泣くし、一人だと他の男に意地悪をされてまた泣いていた。


 俺が守らないといけなかった。俺にとっては足かせのような存在。


 そんなヤツがもう一人?


 俺は断然断りたかった。


「ほら、ヨム。お前もお兄ちゃんって呼んでごらん」

「……お兄ちゃん?」


 ばあちゃんの後ろに隠れる様にして顔だけ出して俺のことをそう呼んだ。


 だいたい、この時に気づくべきだった。いとこは妹じゃない。俺は『お兄ちゃん』なんて呼ばれる筋合いはなかったことに。


 まだ若かった俺にはそんなことは思いつきもしなかった。


 だから、こう答えたんだ。


「ちっ、しょうがないな。俺から離れるなよ。離れたら置いていくからな!」

「ヨム、よかったな。ほら、お兄ちゃんのところにいきな」

「……うん」


 泣きそうな顔のヨム。怖かったんだろうな。失礼な。俺にことが怖いなんて。当時の俺は最大限やさしくして俺のことは怖くないと思い知らせてやりたかった。


「こいよ。うちに面白い本があるんだ。特別に見せてやるから」


 ヨムはばあちゃんの顔を見た。ばあちゃんは笑顔でうなづいた。


「……うん」


 ヨムは俺が差し出した手に彼女の手を少しだけ伸ばして重ねたんだ。

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