第10話:合流

「もーーーー!私を置いていくなんてひどいよ!」


 突然空間から湧いて出たみたいに合流したのはヨム、従妹の文尾ヨムだ。


「すまんすまん。まあ色々とあって……」

「むっ!むーーーー!」


 背の低いヨムが俺とシオリの組んだ腕に注目した。


「な、なんだよ」

「なにこれ!?どうしてお兄ちゃんとシオリちゃんが腕を組んでるの!?」


 ヨムが少し責める要素も含みつつ訊いてきた。


「ほら、私とお兄ちゃんは兄妹だから腕を組んでても普通でしょ?」

「そ、それは……」


 珍しくヨムがたじろいだ。そして、いつの間にか俺の呼び名は「お兄ちゃん」になってる!


「あと、お兄ちゃんは私に告白したんだし」

「え!?」


 ヨムが驚いた。まあ、彼女たちが帰った後に俺はシオリに告白したし、今知ったってことだろう。


「……!」


 ヨムが唇をかんで走って行ってしまった。普段はもっとおっとりとしているというか、ひょうひょうとしている印象なので、少し驚いた。


「ふう……」


 ヨムが走って行った後、シオリが一息ついた。まるで一仕事終えた後みたいに。


「どうした?疲れたか?」

「いえいえ、仕事はまだまだここからです」


 息を吹き返したみたいにニコリとして答えるシオリ。


「どういうこと?」

「私って学校では有能な美少女生徒会長なんでしょ?」


 自分で「美少女」って言ったし。


「まあ……な」

「それなりに人望も厚いはずです」


 人差し指を立てて俺に講義でもするかのように自慢げに話すシオリ。


「そりゃあ、な」


 この辺りを否定することができるヤツはこの学校にはいないだろう。


「その生徒会長が記憶喪失とか大事件じゃないですか!」

「たしかに!」


 今度は両手を広げてシオリの講義は続く。


「その子たちに記憶喪失を気づかれないようにしないといけないんだから」

「無理だろ、そんなの」

「でも、バレたら進めてた計画とか全部暗礁に乗り上げるのよ?それが文化祭とか体育祭とか大イベントだったら……?」

「なるほど、一理ある」


 記憶がなくてもシオリはシオリ。考えがしっかりしていて優秀だった。


「ねえ、ところでお兄ちゃん」

「どうした?」

「ヨムちゃんって、お兄ちゃんのこと『おにいちゃん』って呼んでるの?」

「ん?まあ、そうだな。昔からだけど」

「そっかぁ……」


 シオリは視線を少し上にして何か考えているようだった。


「よし!私はお兄ちゃんのこと、『兄さん』って呼びます」

「は!?」

「こういうのは負けたら負けなんです」


 もはや何を言っているのか分からない。


「さて、もうひと仕事始めますか!」


 学校の校門前に着いた時、シオリが気合を入れなおしたのだった。

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