第25話:タオルの中

 部屋を出る前、シオリは全裸にタオルケットを羽織っただけの状態だったはずだ。

 そして、そのタオルケットが俺の背後から視界に入る範囲に投げ捨てられた。


 つまり、後ろにいるシオリの姿は……。


「兄さん、兄さんが好きなシオリさんが後ろにいますよ」


 記憶があろうが、なかろうが、シオリはシオリ……いや、たった今『シオリ100%』と『シオリ70%』に定義分けしたばかりだ。


 彼女は、俺の好きなシオリではない。


 いや、シオリだけど、違うっていうか。


 額から汗が一滴落ちたのが分かる。


 しかし、俺も男だ。


 こんな状況で何もしないなんて、そんなマンガや小説はたくさんある。それでも、俺はそんなのを許さない。


 編集や読者の都合なんて現実世界の俺には関係ない。


 俺は決意して後ろを振りむいた。


「いやーん」


 シオリの棒読みが見事に決まった。


 そこにはタンクトップとホットパンツ姿のシオリが立っていた。


 考えてみれば十分にセクシーな出で立ちではあるが、全裸だと思っていた俺からしたらとても不本意だ。


「兄さん驚いた?驚いた?」


 ニヤニヤ顔のシオリは完全にいつものシオリとは別人のようだった。


「からかってないで服を着てくれ。それでも十分露出が多い」


 俺は再びシオリに背を向けて頭をガシガシかきながら言った。


「兄さん、慌てた?兄さん、ドキドキした?」


 シオリが明らかに煽ってくる。


「シオリさんってホントに兄さんのこと嫌ってるの?」


 少しにやけた、それでいて少しいぶかしんだ視線を俺に向けながら、部屋着のパーカーを羽織ってくれた。


「そりゃあ、顔を見れば顔をしかめてたし、そのとき眉間にしわが寄ってたし……」

「ふーん」


 シオリはパーカーの右手に袖を通して、左腕を通そうとしていたけれど袖が裏返っていたみたいで苦戦しながら答えてくれた。


「私って素のシオリさんでしょ?記憶がないわけだし」

「うん……まぁ……そうなるのかな」


 シオリはベッドにストンと座って続けた。


「それでも兄さんのことは好きですよ?なんかこう……底の方から湧き出るみたいな感情って言うか……」


 シオリが両手の指をわきわきさせている。お前の愛情はそんな風に湧いてるのか。


「それか、シオリさんに何かしたとか?」

「しとらんわ!」


 こっちはつい先日告白するのに右往左往していたというのに。


「じゃあ、一緒にシオリさんの記憶を覗いてみましょう!」

「はぁ?」


 シオリは人差し指をくるくると回すと、部屋の片隅に落ちている例の本を指差した。

 シオリの言わんとすることは俺にも伝わってきた。

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彼女の記憶は本の中 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry

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