第17話:帰宅
なにが起こっているんだ!?人は関連が分かるまでその法則を正確にとらえることができない。
俺は目の前の変化に驚いてそのことに気づけないでいた。
シオリは体調不良を理由に放課後の生徒会活動を休んだ。絶対に嘘だ。
いや、昼休み倒れて放課後まで意識がなかったのだ。あながち嘘とも言い切れない。
それでもあえて嘘だと言い切る方の理由としてはこれだ。
廊下を歩いている俺に腕を組んで歩いているからだ。
……それもニッコニコの笑顔で。
「そんなにくっついたら歩きにくいだろ、シオリ」
「でも、私は兄さんと離れてしまったら死んでしまいますから、結婚しましょう」
『結婚しましょう』がテンプレになってしまっている。
彼女は助詞である「から」を過信している。前後の文章を結びつけるほどの力は「から」にはない。
周囲から大注目をあびている。人気のクール生徒会長がニッコニコでくっついてきているのだ。しょうがない。
しかも、俺達が兄妹と知っているのはごく一部。それを知らないヤツからしたら、昨日までなんの接点もなかったヤツの腕を今日はニッコニコで組んでいる状態だ。
まるで洗脳でもされたかと思うほどの変わりようだ。
状況を理解している側のはずの俺ですら全くこの状況を理解できていない。
「兄さん、結納の費用が浮いてお得でしたね」
「待て待て。色々飛躍しすぎていてなにを言っているのか全くついて行けてない。ある程度分かりやすいように説明を入れてくれ」
「まったく、兄さんはしょうがないですね」
人差し指を立てて講義をしてくれるようだ。そういえば、このポーズは彼女がなにかを説明してくれるときの癖みたいなものか。
やはり、シオリはシオリ。別人になった訳ではないようだ。
「結納とは、両家の挨拶で一般的に金品の受け渡しを行う伝統的な婚約の儀式です」
お前はなにペディアなのか。
そして、結納に関してはその程度の知識はなんとなくある。俺が聞きたかったのはそういうことではなかった。
シオリの異変はまだまだ止まらなかった。
「ただいま」
腕を組んだまま何とか帰宅したときだった。
「兄さん、おかえりなさい」
一緒に帰宅したのだから、「おかえりなさい」は多少おかしいかもしれないが、帰ってきたときに言ってもらえるのは悪い気はしない。
両親とも帰宅が遅く、俺が帰った時に「おかえりなさい」を言ってくれる人はいなかった。
シオリだって「おかえりなさい」を言ってくれる人ではなかった。それどころか口をきいてくれない人だったのだから。
「ただいま」
俺は色々嬉しくてつい律儀に返してしまった。
「兄さん、ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも私と結婚しますか?」
玄関に入ったと同時に頭痛がしてきた。
新婚さんのコントでしか聞いたことがないフレーズだったが、最後の方すごく斬新な変更がされていた。
「なあ、お前は何を言ってるんだ……」
まただ。頭痛がする。
「ですから、ご飯にしますか?お風呂にしますか?私にするんですね!結婚しましょう!」
はーーーーーー。俺の頭痛は鳴り止まない。
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