第16話:結婚しましょう
静かな保健室でシオリが目を覚ましたようだ。
屋上で気を失ったので心配だった。目を覚ましたのならば、まずは一安心と言ったところだろうか。あとは、ちゃんと記憶があるか……いや、彼女はそもそも記憶喪失だった。
「ん?んん……私は寝てた?あれ?ここ、保健室?」
どうやら意識はちゃんとあるようだ。また少し安心した。
「ん?兄さん?私寝ていましたか」
「あ、うん。屋上で意識を失って……」
「目が覚めたので結婚しましょう」
は?こいつは何を言い出した?
「ん?すまん。ちょっと聞き違ったみたいで」
「目が覚めたので、兄さん結婚しましょう」
気のせいと思いたかったが、聞き違いではなかったらしい。こいつは助詞「ので」の力を過信しているようだ。
『目が覚めたので』と『結婚しましょう』という全く違う文章をつなぐだけの力は『ので』にはないと言いたい!
「お前は何を言って……」
人は頭痛がした時、無意識に頭を抱えるようだ。実際、俺は今、シオリが横になっているベッドの横の椅子に座ったまま頭を抱えている。
「兄さん頭痛ですか?私が結婚して治します」
なにがどうなった?いつの間に俺は別の世界線に移動したんだ?この世界ではシオリが俺に求婚してくる世界線……?しかも、何の脈絡もなく求婚してくる感じ!?
「まあ、意識がちゃんとしてるなら……よかったよ」
「兄さん心配してくれたんですか?では、結婚を前提に結婚しましょう」
全然ちゃんとしてなかった。完全にシオリがバグってる。これなら気を失う前の方がいくらかちゃんとしてた。
「とりあえず、荷物をもってくる。もう放課後だからとにかく帰ろう」
「私たちの愛の巣に帰るんですね?結婚しましょう」
文章だと思っていたが、「結婚しましょう」は語尾なのか!?
かつてなかった斬新な設定だな。こいつ天才か!?
「シオリ、とりあえず黙ってくれ。そして帰って様子を見よう」
「?」
無言で首をかしげるシオリ。素直だ。そういえば、いつだったか素直になれとシオリに言ったような……。
そんなことはどうでもいい。とにかく、シオリを家に連れて帰ることばかり考えてしまった。
それが俺の新たな失敗を生むことになるとは思わなかった。
そして、それに俺が気付くのにそれほど時間はかからなかった。
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