第15話:素直になれ
まったく、最近は周囲で訳が分からないことばかりが起こりやがる。
義妹が記憶をなくしたと思ったら、今度は昼休みに屋上で突然気を失ったり……。
この本もそうだ。
俺はシオリの胸のあたりに置かれていた本をなに気なく開いた。
第一印象は「変な本」ということだろうか。
文庫本くらいの大きさの薄いピンク色の本は、表紙だけでなく中の紙も薄ピンク色だった。
そして、注目すべきはその文字だ。
俺は見た目の印象からてっきり活字だと思っていたのだけれど、その文字は手書きだった。
しかし、1文字の大きさは活字同様の大きさなので、変な違和感があった。
あと、その内容……。
『7月31日今日は初めて本野家に来た。大人ばかりで怖かったけど、ここには子供がいた。私のお兄ちゃんってことだった。私にも味方ができた』
なんだこれ?日記?これは日記帳だったのか?では、あまり見たら悪いな。
俺はあまり詳しく見るのをやめようと思った。その一方で、好奇心的に気になる部分もあったので、一応最新の内容を見ることにした。
『9月15日』
誕生日の日じゃないか。俺がシオリに告白した日。
めちゃくちゃ気になるのは人間なら当然だろう。そのまま読み進めることにした。
『今日もカケルが廊下を走っていた。そして、思いっきり注意してしまった。本当は仲良くしたいけど、ついついきつく当たってしまう。』
まじか!?シオリがこんなことを考えていたとは。普通のやつには笑顔で神対応なのに、俺に対してだけ厳しい塩対応……どころかハバネロ対応だった。
色々計算で動いているくせに、外面がいいから天使みたいに言われてるし……。学校でのシオリが天使シオリならば、家でのシオリは裏シオリか黒シオリだ。
なんでもいいけど、これより後がなかった。もう新しく書くことができないのだ。
オモテ表紙は薄いピンクでちゃんとした表紙があるのに、裏表紙はないのだ。
まるで本の途中で破ったみたいに。
寝ているシオリを見たら、まだまだ静かな顔をして眠っている。
それはそうとして、日ごろのシオリが本音を表に出すことができないツンデレだとしたら、もう少し本音を前に出してくれてもいいんじゃないだろうか。
そしたら、俺への当たりももう少し柔らかくなるのではないだろうか。
俺はおもむろにペンを取り出した。
最終ページの最後の余白に『素直に愛情表現をしろ』と書いた。
そして、シオリの胸の上に本を戻した。彼女が見た時に少し考えてくれるだろう。
「う、うん……」
このタイミングでシオリが目を覚ますようだ。
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