第14話:本

「シオリちゃん昨日はごめんね」


 私、文尾ヨムは気になったことがあったので、昨日のことを謝った。


「ん?昨日どうかしたのか?」


 後者の屋上で四人お弁当を囲んで食べているときにお兄ちゃんが訊いた、私が唐突にシオリちゃんに謝ったから驚いている風にも感じられた。


 なにしろ、事は昨日お兄ちゃんがシオリちゃんに告白した後に起きたのだから。お兄ちゃんはあの事を知らない。


 私とシオリちゃんだけの話だった。


「あの……」


 シオリちゃんが私とお兄ちゃんの顔を交互に見ている様子。みんないるから話しにくいのかな。


「シオリちゃん、昨日のことだけど……」

「う、うん……」

「そ、その怒っちゃってごめんね」

「うん?うん……いいよ、大丈夫だよ」


 怒ってない……?よかった。


「あの本は……?」

「ほ、本?」


 シオリちゃんが急に立ち上がった。


「お、おい。シオリ……」


 お兄ちゃんがそう口走った次の瞬間、シオリちゃんは気を失い崩れ落ちそうになった。


 直後、みんなで飛びつくように支えたのでシオリちゃんが地面に打ち付けられることはなかった。


 □本野カケル

 昼休みに屋上でみんなで弁当を食べている最中にシオリが突然立ち上がり、気を失った。


 結局、シオリは目を覚まさずに保健室に運ばれることになった。


 一体何が起こったのか。誰もその状況を理解できた人間はいなかった。


 放課後になっても目を覚まさないシオリのことが気になって、俺は保健室に行ってみた。


 なんとなく人の気配を感じ、ドアを静かに開けるとそこには一人の少女がいた。


 シオリのベッドの横にヨムが座っていたのだ。そして、眠ったままのシオリの身体の上に1冊の本を置いているのが見えた。


 あの本は、以前からシオリがいつも抱きかかえていたもの。


 薄いピンク色の表紙で文庫本くらいのサイズ。厚さは……やっぱり文庫本くらいだろうか。


「ヨム……来てたのか」


 俺が声をかけるとヨムがビクッと身体を跳ねさせた。


「あ、悪い。驚かせたか」

「あ、うん……お兄ちゃん……」

「あのな……」

「あ、私まだ用事があるから!」


 あからさまに急に何かを思いついたように保健室を出ていくヨム。


「お、おい!」


 声をかけてもヨムは逃げる様に保健室を出て行ってしまった。


 俺は改めてシオリの方を見てみたけど、相変わらず目を覚まさない。眠ったままだ。


 ただ、顔色は悪くない。本当に眠っただけ……の様に見える。貧血かなにかだろうか。


 以前にはこんなことがなかったので不安にはなる。


 おもむろにベッド横のパイプ椅子に腰かけた。椅子がギイッと音を立てた。


 保健室のベッドはパイプベッドで、それほど高級品という訳ではなさそうだ。


 それでも、マットレスは分厚くて、掛布団も分厚い。それぞれのカバーは真っ白で保健室だと思わせた。


 そして、白い掛布団カバーの上には薄いピンク色の本。


 恐らくシオリが大切にしている本だ。


 暇を持て余していたのもあっただろう。


 俺はなんとなくその本を手に取ってみた。以前から気にならなかった訳じゃない。


 それでも、俺とシオリはそんな話をできるような関係じゃなかった。


 でも、あの日からシオリは別人のように変わってしまった。俺が告白した日から。


 そして、告白の翌日からシオリはこの本を持ち歩くのをやめたみたいだった。


 そんなことを考えつつ本を見たけれど、表紙にはタイトルが書かれていない。


 珍しい本もあったものだと俺は本を開くのだった。

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