第19話:ヤンデレ

「ささ、兄さんこっちです!」


 シオリに案内されるがまま俺は彼女の部屋に入った。


「なあ、シオリ。もう気付いたんだろ?俺がお前の日記を見てしまったことと、そこに落書きしてしまったこと……」

「ささ、ベッドに腰かけてください」


 会話は完全にすれ違っていた。平行ですらない。ねじれの位置。1点すら交わらず、同じ方向すら向いていない。それがねじれの位置だ。


 俺たちはそれぞれが言いたいことを言っていて、相手に言うことに耳を傾けていない状態だった。


「お前は俺が日記帳に落書きをしたことを怒ってるんだろう?もしかして、見たこと自体を怒っているのか?ごめん、謝るから許してくれよ」

「ああ、夢にまで見た兄さん。兄さんと一緒……」


 シオリのベッドに腰かけていると、横から彼女が抱きついてきてほおずりしている。完全に会話はすれ違いだ。


 俺は少し冷静になるように努めた。


 彼女は俺に何を伝えたい!?


 俺に好きだと伝えたい……と考えて良いだろう。そして、そう考えた時、俺は自分がシオリの日記に書いた言葉を思い出した。


『素直に愛情表現をしろ』


 彼女は俺にその通りにしているのではないだろうか。


 そう思い当たると、彼女の日記が気になった。あの本は今どこに!?


 シオリの部屋の中をきょろきょろと見渡してみた。


 それはすぐに見つかった。彼女のベッドのヘッドボード……棚のような部分に置かれていたのだ。


 ベッドに寝転ぶようにして手を伸ばした。

 シオリは俺に身体をからますようにくっついてきた。


「こら!シオリ!あんまりくっつくな!」

「兄さん!今すぐここで結婚式をしましょう!」

「だから、そんなにくっつくなって!」

「ああ、夢にまで見た兄さん……」


 このタイミングで、例の本に手が届いた。

 俺は何をやっているんだ。考えようによっては嬉しい状況なのかもしれない。


 シオリのことは好きだ。義妹ではあるが、血はつながっていない。俺にとっては昔から恋愛対象だった。


 そのシオリが、自分のベッドの上で俺に抱きついてきている。しかも、「結婚式」をしようとしている。


 なんなら既に少し脱ぎ始めているのだ。


 しかし、その瞳には光がなく、何かにとりつかれたようだ。シオリであってシオリではない。


 俺の知ってるシオリなら、この状況ならば容赦なくみぞおちにアッパーを決めてくるくらいはするに違いない。


 誤解がないように言っておきたいが、過去にそんな経験はない。しかし、俺のイメージのシオリだったらそれくらいの反応はするのだ。


 俺はシオリから首元に抱き着かれてキスされつつ、例の本の最後のページを見た。


 すると、以前見た薄いピンク色の紙ではなく、青い紙になっていた。最後のページ1枚だけ。


 驚いたのは、最後の1ページの内容。


「兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き 兄さんが好き」


 怖い怖い怖い!

 いきなりジャンルが「ヤンデレ」になってしまったのだろうか!?

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