第7話:いきなり活動限界
「なあ、シオリ。今日は学校無理か? もうぼちぼち出ないと遅刻する時間なんだが……」
「それは大変。でも、記憶がないと人は動けないものみたいです」
シオリが涼しい顔で言った。
「どういうことだ?」
「多くの人は何かのために動いています。自分のため、家族のため……。でも、今の私には記憶がなく、活動するための活力の根源というべき理由がありません」
なるほど、言っていることは何となく理に適っているような気がする。しかし、学校を休む理由が「記憶が無くなったから」ではDQNもいいとこではないだろうか。
あの天下の生徒会長様がそんな理由で学校を休むことが許されるのだろうか。
「まぁ、要するに動きたくないのです。私は元来のんびりした性格で、あまり動くのがすきではないのかもしれませんね」
少し嬉しそうにシオリが笑った。
こっちは遅刻が迫ってきているのでハラハラし始めているのに、そういったしがらみのないシオリには余裕が感じられた。
記憶が無くなったから動けなくなった? 人間は、S2機関を失ったエヴァンゲリオンみないな仕様だったのだろうか。
「お前は生徒会長だし、みんなの手本なんだよ。嘘でも学校に行けよ」
「まぁ! 私は生徒会長なんですか! 学園もののヒロインみたいですね」
余裕あるな。しかも、記憶はなくても学園ものの設定とかは分かるんだ。ホントに記憶喪失なのかよ。
「うーん、カケルくんが困ってるみたいだし、一緒に登校してくれるなら頑張って学校に行きます。その方がシオリさん的にも都合がいいんでしょ?」
まるで他人事だ。自分のことを「シオリさん」って言っちゃってるし!
記憶が戻った時に学校を休ませたとあっては俺の身が危ない。
「分かった。一緒に登校するから」
「やたっ♪ じゃあ、はい!」
シオリがベッドに座ったまま両手を伸ばしてきた。
「なに?」
「記憶が無いから服が脱げない。着替えさせて」
「嘘つけ」
「あいたっ」
シオリの脳天に軽くチョップを喰らわせてやった。
こんな気軽なやり取りは何年ぶりだろうか。こんなお馬鹿なやり取りはいつ以来だろうか。
思えば、俺たちの関係はもっと気軽なものだった。今みたいに顔を合わせたら緊張感が走るような関係じゃなかったんだ。
昔、シオリは俺のことを「お兄ちゃん」って呼んでたし。俺も「シオリ」と呼んでいたけど、今よりももっと親しみを込めて呼んでいた気がする。
「よしっ!」
気合が必要だったのか、掛け声と共にシオリが立ち上がった。
普通ならこの時間だったら既に家を出ているのだろうけど、今日は見事にパジャマ姿だ。
「俺はリビングでコーヒー淹れて待ってるから着替えたら降りて来い」
「うん、ありがと」
素直なシオリ……。違和感はありすぎるけれど、なんだか嬉しい感じ。ただ、記憶がないというのは本当なのか。
あの本を持っていなかったことが違和感として俺の心に残っていた。
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