第2話:サプライズ
部屋を飾り付けて、ケーキを買って、料理を準備して……。サプライズと言っても俺のサプライズはこんなもの。
シオリが委員会の仕事で遅くなるのは知っていた。
だからこそ俺は早く帰宅した。
父さんは仕事で出張が多いので、帰ってこないと予想していた。
母さんは残業で遅くなるはず。パーティーギリギリに帰ってくるはずだ。
そうなると、シオリが帰宅するまでの約2時間。
俺はこの家で一人になる。
飾りつけと料理をするには十分な時間だ。
賢い俺は料理に煮込み系を選んだ。具体的にはホワイトシチュー。IHクッキングヒーターで調理すれば、煮込んでいる最中は他の作業に当たっても問題ない。
事前に準備していた色紙を細い短冊状にカットしてノリ付けして輪っかにしていく。
折り紙で作った鎖状の飾り……よくよく考えたら百均でそれらしいものを買ってくれば労力なく飾り付けができたのではないだろうかと思い始めてきた。
でも、こういうのは考えたら負けだ。
ここに手間をかける分、告白の成功率が上がるような気がしている。
「お兄ちゃん何してるの?」
俺がテーブルで一人サクサクと色紙を切っていると、俺の頭の上から覗き込むように出現したのは妖怪……ではなく、文尾ヨム。彼女が唇の下に人差し指を当てたポーズで現れた。
こいつの存在を忘れていた。
「ねーねー、お兄ちゃん何してるの? 工作? 小学生なの?」
幾ばくかの頭痛を感じながらも俺は耐えた。
「後で遊んでやるからしばらく大人しくしていろ」
「ちぇー」
ヨムはお隣の……と言っても、我が家は二世帯同居住宅になっていて、こっち側は本野家、反対側は文尾家となっている。
建物としては1軒だけど、玄関も別々で、お互いの家を行き来できるドアもない。完全にお隣さんと言ってもいい……のだけど、一応親戚らしい。
既に他界したばあちゃんの関係の子どもで俺とは従兄関係のはずだ。だが、いつのまにか彼女は俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになってしまった。
ちなみに、年齢は俺と同じ17歳。高校三年だ。クラスこそ違うが、同じ高校に通っている。
それでも、背が低く童顔で身長も150センチ以下なので中学生とか、下手したら小学生に見えてしまう従妹さま。それがヨムだ。
「あ、今日はお兄ちゃんとシオリちゃんの誕生日だ! だからだ! 飾り付け! 私も手伝う!」
ああ、気付かれてしまった。ヨムは頭がいい。IQがやたら高くて、なんとかいう頭のいい人ばかりが参加している組織のメンバーにもなっているほどだ。
その割に幼い見た目と人懐っこさ。
言ってみればネコみたいなヤツなのだ。
「じゃあ、お兄ちゃんが色紙を切ってね。私がノリ付けするから」
「分かったよ。手伝ってくれ」
「はーい♪」
ここで変に除け者にしてもおかしな話になる。それならば、引き入れてしまった方が得策と思える。
俺はヨムを仲間に引き入れて、短冊状に切った色紙を糊付けして鎖状にしていき、飾りに仕上げながら今後の流れを考えてみた。
元々、俺とシオリだけの二人の誕生日会になると思っていた。シオリはあまり友達を家に読んだりしないし、生徒会活動もしている。
今日は活動があることは事前にリサーチ済みだったので、あまり遅くまで出歩かないシオリはそのまま家に帰ると予想していた。だから、帰宅したタイミングでサプライズを仕掛ける算段だった。
驚きと喜びと感動のさなか、俺の告白でふたりは付き合い始める……。それが俺のプランだったのに……。
ヨムの存在を忘れていたことが大きい。
そしてこの後、世の中とはいつも思い通りにならないものであるということを思い知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます