第3話:世の中は常に思い通りにならない
「ただいま」
「お邪魔します」
サプライズの飾り付けが何とか間に合って、煮込んでいたシチューも完成した頃、俺の考える予定通りにシオリが帰宅した。
タイミングバッチシ。
ところが、もう一人余計な声が聞こえたな。あの声は……。
「あ、先輩。お出迎えですか? ご苦労様です」
玄関先まで出てきた俺に敬礼で答えたのはネコだ。おおかた、シオリと委員会活動をしていた時に今日がシオリの誕生日だと聞いたのか、はたまた思い出したのか、急に祝うと言い出して付いてきたのだろう。
「今日がシオリ先輩の誕生日だと思い出して、急遽馳せ参じました!」
俺の予想は大体の場合よく当たるのに、なぜこいつが今日ここに来ると予想できなかったのか!
「ヨムも来てたの……」
シオリがヨムを見て冷たい視線で言った。手にはあの本を抱きかかえていることもいつも通りである。
「今日はシオリちゃんの誕生日だって思い出したからお祝いに来たよ♪」
こうやって数人がかりで俺のサプライズを潰しておいて、その後 俺はどんな調子でサプライズを披露したらいいんだ。
「カケル先輩は両手に華どころか、ハーレム状態ですね」
おーう! 空気を読む能力が欠落したネコが俺を揶揄う。こいつにエアーリーディング能力を無理やり実装させたい!
「とにかく、玄関先で騒ぐとご近所さんに迷惑だから」
シオリが淡々とした口調で言った。そして、その声に誘導されて、ネコが家にあがった。
シオリが一人廊下を歩き進み、リビングのドアを開けた。
「あっ……」
そこには、俺とヨムで飾り付けた部屋とテーブルの上には三人分の料理が並んでいた。それを見て、シオリは固まってしまった。
「シオリちゃん、私とお兄ちゃんで準備したんだよ?」
「……そ、そう。ありがとう」
色々を理解したのか、少しばつが悪そうに答えるシオリ。
テーブルの上の料理は三人分。シオリと俺の分と思っていたけど、ヨムも手伝ってくれたから、ヨムの分も準備した。
ネコの分が無いので、それを察したネコが「私、お暇しましょうか?」と言ったので、「遠慮するな」と言って呼び止めた。
おかしい。なんか違う。俺が思っていたのと違う。
二人で料理を食べて、泣くほど感謝したシオリに告白してOKを勝ち取る俺の計画が……。
***
「このシチューおいしいです! カケルさんが作ったんですか?」
なんだかんだで、四人でテーブルを囲んで夕食となったとき、ネコがにこにこ笑顔で訊いた。
「私とお兄ちゃんで作ったんだよ」
「お料理できるなんてポイント高いですね」
「ふふふ、私とお兄ちゃんは何でもできるからね」
ヨムとネコが楽しそうに会話をしている。それに対して、不貞腐れ顔のシオリ。学園のマドンナが台無しだ。
部屋の派手な飾り付けが余計に悲しさを呼ぶ。目の前で無邪気に会話するヨムとネコに対して、無言のプレッシャーのような物を与えてくるシオリ。
俺は背中に冷や汗が止まらない。誰か気付いてくれ! この空気に!
しばらくはしゃいでいたけど、一通りヨムとネコが騒いで帰って行った。
そして、俺の告白はこの最悪のコンディションの後に行われることになる。
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