第18話:振り返り
(バサッ)俺は自室のベッドに倒れこむように寝転んだ。
自分の家でこんなに疲れたのは生まれて初めてだった。
俺たちは家に帰るとご飯を食べて、風呂に入って、ぞれぞれ自分の部屋に引っ込んだ状態だ。
問題はそれまでの過程だった。
隙あらばシオリが求婚してくるのだ。
「兄さん、一緒にご飯を作りましょう。いっそ、結婚してしまいましょう」
「兄さん、福神漬け要りますか?では、結婚しましょう」
「兄さん、お風呂は先に入りますか?それとも私と結婚しますか?」
なんだ。なんなんだ。色々おかしい。
塩対応がデフォルトの……いや、ハバネロ対応がデフォルトのシオリだったはずだ。
学校で「よう!」と声をかけたら「知り合いだと思われるので見ないでください」と話しかけることは当然否定され、その上で視界に入れる事すら禁止してきていたのがシオリと言うものだ。
学校のみんなにはニコニコで神対応。全方位隙なしの少女がシオリだったはずだ。
それがどうだ。このポンコツぶり。
何もしなくても記憶をなくしていて、屋上で急に騒いだと思ったら気を失って。目を覚ましたら「兄さん結婚しましょう」しか言わなくなってしまったのだから。
いや、待て。
なにかおかしい。
俺は天井を見ながら今日のことを振り返った。
シオリがおかしくなったのは、俺が告白してからだ。ただ、告白をしたからと言って記憶がなくなるようなことはないはずだ。
じゃあ、なぜだ。なにがあった!?
俺は見過ごしていることがあるはずだ。
……。
俺は檻に閉じ込められた猛獣の様に部屋の中をうろうろと歩きながら考えた。そして、そこで気づいたのにスルーしている項目に思い当たった。
本!シオリが持っていたあの本!
シオリが持っていても誰もツッコまない不思議な本……。
あれを今日は持っていなかった!
そう言えば、さっきはその本を持っていた!
その本は日記みたいな……そんな内容だった。でも、その日記には俺が告白をした日までしかなかった。
これは俺が告白した日くらいまでしか日記をつけていなかった……?
あ、俺が落書きしたから怒ってる?
それなら話が通る。
俺は素直に謝ることにした。
***
(トントン)
「はい」
俺はシオリに謝るために彼女の部屋に出向いていた。
(ガチャ)「あ、シオリ。もう気付いたんだろ?あの本に……」
「兄さん、準備は出来ています。結婚式を始めましょう♪」
部屋のドアを開けたシオリの姿に驚いた。
彼女は大きめのタオルケットを羽織っていた。ただ、タオルで隠れていない腕や足は肌色……。つまり、全裸にタオルケット1枚を羽織っただけの姿だった……。
「ちょっ!シオリ!その格好!」
「はい、兄さんとの結婚式の準備です」
過去にこれ程「結婚式」という言葉が卑猥な意味で使われたことがあっただろうか。
「さあ、兄さん。こっちです」
俺はシオリに手を取られ、彼女の部屋の中に誘われた。
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