彼女の記憶は本の中

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第1話:日常

 ---俺の義妹の記憶が無くなった理由を俺は知っている。


 それは、いつも彼女が大事にしてた本が無くなったからだ。理由は分からないけれど、彼女の記憶はあの本に記録されていた。


 そして、彼女はいつもその本を大事に抱きかかえていた。


 俺たちが高校3年のあの日、彼女はいつも持っていた本を失くした。その瞬間、彼女の記憶も失われた。


 だから、俺のことも忘れてしまったんだ。


 ■日常

「カケル! 廊下は走ったらダメだって言ってるでしょ!」


 学校の廊下で俺を注意したのは本野シオリ。俺の義妹だ。

 色々とめんどくさいのは、こいつは俺とおない年ということ。そして、同じ高校の同じ3年生。

 もっと言うと、同じクラスだ。


 うっとおしいことに、成績は学年トップで生徒会長も務めている。

 容姿が整っていて、誰にでも笑顔の神対応。

 当然、学校中にファンがいる大人気の義妹なのである。


 多少変わったところがあるとしたら、いつも本を抱きかかえるようにして持っていること。


 薄いピンク色の表紙の本で厚さはそれほどの厚さではない。大きさも、一般的なサイズで言えば文庫本サイズくらい。

 なぜだか、彼女はいつもあの本を大切そうに持っていた。


「俺には急いでいかなければならない所があるんだ!」


 俺は、本野カケル。成績は下の中。でも、いつも赤点はギリギリ回避している。

 俺のトレードマーク的な色はブルーなので、赤点は絶対に取らない。

 日ごろ勉強をしていなくても赤点を取らないのだから、これは能力と言っていいのではないだろうか。もっと評価されるべきだ。


 大人気のかわいい義妹のせいで、日々色んなヤツから妹を紹介してくれだの、お兄さん仲良くしましょうなどと絡まれて迷惑している。

 俺は一人静かに過ごしたいだけなのだ。


「どうせまた家に帰ってゲームするだけでしょ! 今日は生徒会活動があるんだから……」

「行ってしまいましたね」


 今シオリに声をかけたのは、生徒会副会長の白里ネコ。シオリの側近の一人だ。昔からシオリと仲が良いので、必然的に俺とも交流がある女子。俺たちの1年後輩の2年生だ。


「シオリちゃんはいつもカケルくんにだけ厳しくない?」

「そ、そんなことないわよ」

「そうかなぁ、絶対そうだと思うんだけど……」


 駆け抜けていったはずの俺がこの二人の会話を聞けている理由は、俺が物陰に隠れただけだからだ。今日は特別な日だから、俺はシオリよりも先に帰宅しようと思っていた。


 そう、今日9月15日は彼女の誕生日。

 そして、偶然にも俺の誕生日でもある。

 俺は何としてもシオリよりも早く帰って、パーティーの準備をしたかった。

 いわゆるサプライズ。

 そのサプライズ成功の折には、告白して彼女とカレカノ関係になりたいと思っていた。


 兄妹でカレカノ……世間一般で許されるものではないだろう。

 でも、俺とシオリは義理の兄妹。

 ギリギリOKではないだろうか。

 この時の俺はのんきにそんなことを考えていたんだ。

 この後に、あんなことが起こるとも予想できずに。

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