第16話 【材料採取】発見の姉
タートルの喉を通り新造の地下都市に帰ると、中の様子はすっかり変わっていた。
急造で作られた階段がビルに巻き付くように這っており、あれなら飛ばないでも四階程度まで使えそうだ。さらに上からはロープが釣り下がっていて、あれでさらに上に行くのだろうか?
石が固められたような道路を歩いて進んでいく。
何処にあんな材料があったのか見渡せば道路の脇に大きな切り株が残っていて、スペースいっぱいに成長した巨大すぎる街路樹を切り倒し、木材にしてしまったらしい。勝手に作ったツリーハウスを失ったアルテが嘆いている。
タートルに案内されて俺達の降りてきたビルの前まで来た。
そこには大きなテントが張られていて、中では木材の余りで作ったと思われる机の奥にローズが似合わない大きな椅子に座り色々と指示を出している。
後ろに控えている銀の像がこちらを腕で指し示すと、ローズは俺達が帰って来たのに気が付いたらしく手招きしてきた。
おねえちゃんと一緒にローズの前まで歩いていく。
アルテは新しいツリーハウスを作ると言って、どこかへ行ってしまった。こんな状況だけど前よりも楽天エルフの度合いが強くなっている気がするぞ。
「まぁ……いいわ。見るからに大量だけど、どんな調子だったか見せて頂戴?」
「了解だ!」「良いよ~!」
その背を呆れたような目で見送るローズに促されて、今日の成果を机にひっくり返した。ポケットに突っ込んだものも並べていく。
おねえちゃんも一緒になって腰の袋から石を取り出して並べていき、いくつか普通の石があったので横に除けてあげる。
「良いわね。中々の魔石よ」
□この石を通貨代わりに、食事や住み良い宿を提供予定だ□
それをいくつか拾っては眺めたりしたローズが頷くと、横にいるタートルが魔石についての扱いを説明してくれる。
「これでごちそうは食べれる~?」
□もちろんだ。一か月分相当はあるだろう□
「良かった~」
おねえちゃんが一番気になることを聞けば、色よい返事が帰ってきたので安心したみたいだ。こんな所の真ん中で大した食料無しは、よく考えたらヤバすぎるからね!
「二人ともまだ行ける? 夜のうちに探したいものがあるのだけど」
「大丈夫だよ~!」
探したい物って何だろうか?
おねえちゃんが乗り気なのでもちろん俺も。
「まだ行けるぞ」
返事をする前の俺の表情から疑問を読み取ったローズが探したい物の事を教えてくれる。
「薬草と似た効能の物よ。トゲ草というのだけど」
トゲ草……?
#####
再びタートルの口から出てきた俺達は、今度はツリーハウスを作るために離脱したアルテの代わりにローズを加えたので低空飛行で探索だ。
迷いなく飛んで行くローズの後をおねえちゃんと一緒に追随する。地形について頭に入っているというのは伊達では無いらしい。
しばらく飛んでいると、なんと水場らしきものが見えてきた!
昼の間はあんなに暑いのに大量の水が有るなんて流石はダンジョンだと思う。
海辺の町で見たことのあるヤシの木や低い木に囲まれたその場所は、砂漠の中に在る楽園といった所だろうか?
着陸したローズが機械槍の先端についたブレードで低い木を切り払って進んでいくと、まるで海の砂浜みたいな場所に出てきて驚いた。上から見るのと横から見るのでは印象が違い、中心辺りの色が深い青に染まっており深そうな水場だ。
突き進んだローズが放射状に広がる大きな草の前に膝まづくと、採取用のナイフで肉厚の葉を切り取り、弾倉ポーチから引っ張り出した小さなすり鉢セットですり潰す。
そしてお姉ちゃんの小さな手に出来た擦り傷に塗り付けた。
ダンジョン内で石を使って大きな石像を殴るという無茶をアルテと一緒にノリノリになってやっていたから、少し怪我をしていたみたいだ。
薬草と同じく緑の光が輝き、傷が無くなっていく。
「わぁ~! ローズぅ! ありがとね!」
「魔石のお礼よ。こちらこそありがとうだわ。チェルシー!?」
おねえちゃんのお礼に普通にお礼で返そうとしたローズだったが、追撃の抱き着きからの頬ずりにペースを握られて為されるがままになっている。
二人が戯れている間に俺も少しトゲ草のすり身を拝借して手にこすり合わせると、緑の光と共に石拾いで付いた細かい傷が消えていく。
「これは良いな!」
薬草とはまた違って、このトゲ草のすり身は伸ばしやすい!
作業をすると細かい傷がつくのは良くある事なので、これは広い範囲に塗れてありがたい。誰でも欲しがるだろうから、いい特産品になりそうだ。
満足したらしいおねえちゃんと一緒にローズがこちらに来たので、すり身を使い切らせてもらったすり鉢セットを返却する。
それらを弾薬ポーチに戻すと赤い目をキリリと吊り上げて威厳を復活させたローズが、意外とある胸を張り俺達に宣言した。
「この場所も人が住めるようにするわよ!」
「アルテに相談すれば、きっと何とかしてくれるよ~!」
「大丈夫かな?」
森と砂漠ではかなり勝手が違う気もするけど、他に当ても無いので地下都市でツリーハウスを作り直しているであろうアルテに思いを馳せる。
「もちろんだとも! 僕に任せなさい!」
すると隣から聞き覚えのある声が聞こえて、振り返った俺はいつの間にか隣にいた楽天エルフに驚いた!
「いつの間に!?」
「エルフの耳の良さを舐めてはいけない! 伊達に長いわけでは無いのだ!」
両耳に両手を当てて目をつむるポーズをしてみせる楽天エルフに、俺達は顔を見合わせて苦笑いする。
「それでどうやって住めるようにするの? 何か手伝えるかしら?」
「もちろんだとも! 皆さんには船を作ってもらいます!」
ローズの質問への答えはとんでもないモノだった。
砂漠で船!?
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